君の頭の中はHなことであふれている

四宮あか

第1話 妄想が見える

 思春期症候群を知っているだろうか? 「他人の心の声が聞こえた」とか「人格が入れ替わった」など、思春期の少年少女たちに起こると噂される、不思議な現象のことである。


 俺がそれを発症したのは1週間前のことだ。

 高校生が強く考えることは、人間関係、勉強、食べ物、エロ。大体この4つに分類される。

 俺の場合心の声が『見えるタイプ』だった。でも、人が思ったこと考えたこと全部が文字になり見えるわけじゃない、その人が強く思ったこと『だけ』が文字で見えるものだからすごい能力のはずなのに日常生活で特に役に立つことはない。

 そもそも本当に皆の心の声が見えているのか、俺の頭が見せた思春期の幻なのかわからない。



『今日は唐揚げが食べたい!』俺が初めて見た人の心の声は唐揚げが食べたいというものだった。

 心に強く思ったことしか聞こえないことはある意味楽だった。

 本当に人の心が全部見えてしまうとしたらきっと心を病んだと思う。





 いい天気だなぁ、掃除早く終わればいいのにっと俺は外を見た。

 なんか面白い心の声の一つでも見れたら頑張れるのにって思っていた俺は我が目を疑った。



 中庭にいた女の子が突如服を一枚ずつ脱ぎ始めたのだ。

 もう俺は目が釘付けになった。

 地面に落ちたブレザー、ゆっくりとボタンが外されて、あらわになる白いキャミソール、そのまま手はどこへ? と思えばためらうことなくスカートのファスナーへと伸びる。

「おいおい、サボるなよ」

 そういって、親友の鈴木は一体何が見えるんだと中庭を覗き込んだ。

「あぁ、一ノ瀬さんか。清楚系だけど結構胸もあるし可愛いよな。お前一ノ瀬さんみたいなのがタイプなんだろ~ほれほれ、掃除をサボった罰で答えろよ」

 そう言いながら鈴木は俺の脇腹を箒の柄でつついてくる。地味に痛い。


 何を言ってるんだ? 問題は可愛いか可愛くないかではない。中庭で女子高生が服を脱いでるんだぞ。

 どう考えたら目の離せないショッキングな光景が、清楚系だけど結構胸もあるしだけですむんだ……。



「おーい! 一ノ瀬さーん」

 鈴木は窓を開けると、中庭でストリップをしている一ノ瀬さんに話しかけた。

 おいおいおいおい、鈴木勇者か!?


 スカートがパサッと地面に落ちる、黒のレースという俺にはいささかどころか、刺激が強すぎる映像はその瞬間掻き消えた。

 中庭にいた一ノ瀬さんは黒のレースのパンツが丸出しどころか、シャツもブレザーもしっかりと着ていたのだ。


 今のはなんだ? 今のはなんなんだ?

 俺の目がおかしくなったのか……。

 ちょっと大人向けのパンツが見たかったのか俺……。


「何か?」

 二階にいる俺らに聞こえるように、普段よりも大きな声で一ノ瀬さんが声を出した。

「こいつ、一ノ瀬さんのこと可愛いって!」

 おいぃぃぃぃい鈴木!!?

「佐藤君、どうもありがとう」

 一ノ瀬さんは淡々と答えると何事もなかったかのように、校舎の中へ入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る