第7話

「ついにって、知ってたの? 山本君が私のこと好きなこと?」


「そりゃ、分かるだろ。見てれば分かるさ」


笑って言う直人に私はむっとする。


「生きてる時に言わなかったのは、そういうことなの。山本君が私のこと好きだから遠慮して言わなかったってこと?」


「別にそう言うわけじゃないよ。ただ言わなくてもあさみとは通じ合えているような気がしたからさ。だから言わなかっただけだよ」


そう言われて、私もそうだと思った。私もなんとなくいつも一緒で言わなくても分かるような空気みたいな、それでいてとても大事な存在。それが直人だった。でもやっぱり言葉で伝えないといけなかったのかもしれない。


「ねえ、妬かないの?」


「妬いてもしょうがないだろ。俺、幽霊なんだし」


にこにこしながら言う直人に、私はちょっとすねてみる。


「じゃあ、もし直人がまだ生きていたら、そうなった?」


「さあ、どうだろう。どっちにしろ、俺もあさみが好きだし、山本もあさみが好きなだけだろ。俺、山本だったらいいと思うんだ」


今まで笑顔だった直人の顔が急に真面目になって、私の顔を見つめた。


「何、そんな真剣な顔しちゃって」


 今度は私の方が茶化しながら笑ったけど、直人の目は笑っていなかった。


「俺、本気だよ。山本だったら、あさみをしっかり守ってくれると信じているんだ」


「そんな。直人はそばにいてくれないの」


「それができればいいけど、そうもいかないんだよ」


 直人は透けている自分の身体を見ながら、そう言った。もちろん、自分も無理難題を言っているのは、分かっている。でもようやく自分の感情に気づいて、言わなかったことを伝えられて、ほっとしたばかりだっていうのに、もう直人がいなくなってしまうのは寂しくてつらくてどうしようもなかったのだ。


「泣くな、あさみ」


 気がつくと泣いている自分に気づいた。私泣いてばかりだな。こんなんじゃ、直人成仏できないや。


「ありがとうな。そんなに想ってってくれて、俺うれしいよ」


 優しく包み込むように、直人は私の身体を抱きしめた。実体はないのに、なぜかその時だけ、直人がふんわりと私を包み込んだような気がして、私はびっくりした。


「いつもそばにいるよ。あさみが分かるように何かしらしるしを残すよ。その代り……」


「その代り?」


 私は顔を上げて、直人をまっすぐ見つめた。


「山本のことも考えて欲しい。あいつほんとにいい奴なんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る