3-2


 すでにブリーフィングルームには、パンツァ・ロウのほか数名が、ハリーたちを待っていた。

 長方形の室内には、円形のテーブルと椅子が配置されている。

 テーブルの中央には3Dマッピングのホログラム装置が埋め込まれている。

「おお、二人とも来たな!」

 ロウは二人に座るよう促した。

 リュック博士とダウヴィが席についていた。ロウは装置を動かすつもりか、直立し腕を組んでいる。マイケルは、3Dホログラムの準備を進めているようで右往左往しながら歩きまわっている。

「うむ、みんなそろったな! マイケル、ホログラムの起動の準備をたのむ」

「了解シマシタ」


 とつぜん部屋が暗くなり、天井部と中央テーブルの下からホログラムが当てられ、テーブルいっぱいに巨大なマップが表示された。ところどころに、黒い点や湖らしきもの、渓谷の連なりに凹凸おうとつができ、そして、東の山脈が下から上に向かってリアルに描かれていた。


 ハリーには見覚えがあった。ガンマシェルターでみた、3Dマッピングシステムに表示されたマップと瓜二つであることに気づく。ただ、ちがうのは、あそこでみたマップよりも補正がされ、より正確になっていることだった。

「うまくいったようだな」

「ハイ!」

「ロウさん、これってあそこで見た……」

 言い終わらないうちに、ロウが答えた。ガンマシェルターでみたものと同じだったのである。

「そう、マップだ!」

「でも、あそこで見たのよりも表示にムラがない」

 訝しくリンが答える。

「ここの元研究施設の衛星アンテナが、微弱だが補正をしてくれたんだ!」

「ヨリ鮮明ナ位置ガ、割リ出セマシタ」

「マイケルのおかげだ」

「イエ、イエ!」

 マイケルは謙虚な姿勢で、手を前に出し動かしている。

「雑談はいい。はやく本題に入ってくれ!」

 急かすようにリュック博士は、ロウへ罵声を浴びせた。

「すまんな、博士」


 ロウは装置を動かし、囲まれた中央の湖を指差す。

「見ての通り、今いる湖の小さい赤い丸が、我々がいるところだ! そして……」

 マップの南北に連なっている亀裂に青い丸が表示された。亀裂の終点付近には、ドームシェルターの表示だろうか半円の黒い点が示された。

 ロウは、その都度丸い点を示唆する。

「我々のいる場所から、北東から南東にかけて幅およそ数十メートルの巨大な亀裂クレバスが走っている。これからいくドームシェルターが、われわれの湖と東の山脈の入り口のちょうど中間地点に位置している。方位で言うとここからは南東の地点だ。ただ、問題は……」

 マップが拡大され、ロウは直接亀裂の広がりとドームシェルターを示した。

「南北に連なるクレバスがドームシェルターまで達しないとも限らない点だ」

 一同が頷いた。

「幸いにもこの湖からドームシェルターに行くまでの距離は、地上を歩くよりも地下を歩いた方が早いはずだ!」

 拡大され表示が切り替わったのか、湖からドームシェルターの黒い点までの間に赤い破点が示された。赤い破点はたえず点滅を繰り返している。

 ハリーが腕を組み考え込む。唸り声をあげ、我慢しきっていた口を開け話しだす。

「待ってください。いまさらなんですが、どうして湖の外側に複数の足跡の痕跡が残っているんですか? それに遠隔警報装置まで」

「それはこの砦のカムフラージュでもある」

 意外にも答えを口にしたのは、パンツァ・ロウだった。

「カムフラージュ?」

 今度はリンが訝しげに問い返した。

「ということは、トグルを避けるため?」

 ロウのとなりにいた博士が、

「トグルだけじゃない、不必要な人間を近づけさせないためでもある。私は、集中が途切れることが嫌いなのだ! だから、余計な人間を近づけさせないためでもあるのだ」

 少し間を置くと更に口を開き、

「うむ、ハリー君やリンくんの言いたいことはだいたい分かっている。ガンマシェルターの住人たちが、地下道を通ったのか、どうかなのだろう。たしかに、通っていったさ」

 付け加えるようにマイケルが、

「私ガ最後マデ、オ見送リヲシマシタ」

「だが、その後無線通信の連絡は一向になかった。どうしていることやら……」

 リュック博士は、しみじみと感慨にひとりで浸っているようだった。


 ロウがふたたび地図にむきあう。

「話がそれてしまったな。とりあえずのルートは説明したとおりだ! ここから延びる地下道を通過し、ドームシェルターへ進む」

 ロウはマップの赤い破点を指で示唆した。

「このところ地震は落ち着いているから問題はないはずだ。ドームシェルターまで進めば、リンの探しているフォーイック・ライン博士という人の情報が手に入るかもしれない」

「そのことなん……」

 ハリーが言いかけたところで、リンは彼の足を小突いた。

「……って」

 ハリーは悶絶もんぜつした。

「ん? どうした?」

 ロウがハリーの態度に不審を抱く。

「いいえ、べつに……」

 ハリーの横に座っていたリンはかぶりを振る。今は話すな、と言う彼女からの合図である。


 ハリーは不満を露にするが彼女の気持ちも考え、ぐっと拳に力を入れた。


「リン、ライン博士という人の特徴は覚えているか?」

「特徴ですか? そう、ですね」

 リンは腕を組み考え込んでいる。


 ハリーには、リンがなぜ男を演じているのかが、どうもわからなかった。たしかにこの世界からすれば、女性の一人旅だと危険度が高くなることは否めないのだが、他にも隠す理由があるように思えたからだった。


 ああ、そういえば……、と思い出したように彼女が声高に発する。

「極度に近眼なんです。だから、なんであっても間近に近づかないとわからないほど眼が悪いらしいので、必ず虫眼鏡を所持しているか眼鏡をかけていること、ですかね?」

「近眼か……?」

 パンツァ・ロウは、近眼という言葉を繰り返している。思い当たる節があるのか、ぶつぶつと呟いてる。が、数十秒考え、思い出さなかったのか晴れた顔になる。

「考えてもしょうがない。とりあえずは、現地でさがすしかないな」

「ところで、ドームシェルターを出た後は、まっすぐ東の山脈を目指すのですよね?」

 いままで黙っていたダウヴィが口を開く。

「もちろん、目的は東の山脈の頂上にあるとされるイプシロンシェルターだ! あそこには、ハリーの持っているメモリーチップの解析と3Dマッピングシステムの更新データを施す目的がある。まあ、それ以外に必需品の補充やらですることになると思うが……」

「とりあえずは、イプシロンシェルターが目標場所なんですね。そのイプシロンの頂上には、どうやってたどり着くのですか?」

 山脈の中間地点をパンツァ・ロウが指で差した。

「山脈の丁度中間地点から頂上に登る場所にたしか、上り下りのトロッコがあったことを俺は記憶している。そのトロッコを使えば、山脈までは時間がかからずにすむと思うのだが……」

「おお、なるほど」

 受け答えにリュック博士は、納得しているようだった。

                      3へつづく

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