4 色々拗らせたティムの本音2

流血を伴う暴力シーンがあります。苦手な方はご注意ください。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 神殿の総本山である礎の里には飛竜での乗り入れに制限があった。特に今回の国主会議のように各国から人が集まる場合はその制限が厳しくなる。なので、船で礎の里へ入るのが一般的だ。

 余談だが、俺の故国タランテラは、陛下が竜騎士でもあるので皇妃様の養父母が治めておられるブレシッド公国まで飛竜で移動し、ホリィ内海添いの街から船で礎の里入りしている。親孝行も兼ねて一石二鳥といったところか。

 話がそれたが、現在の俺の身分はエルニアに派遣されているクーズ山聖域神殿付きの神殿騎士団員。神殿騎士団員は無条件で飛竜乗り入れの制限から除外されるので、俺は堂々と里の着場にテンペストを降ろした。

「飛竜を頼みます」

 いつもなら自分で相棒の世話をするのだが、今日は急いでいる。丸一日飛んで疲れた体に鞭打って、俺はまずエドワルド陛下の元へ向かう。姫様のもとに直行したかったが、学び舎に入るのは特別な許可がいる。陛下や皇妃様と一緒ならすんなり入れてくれるだろうと考えたのだ。

 居場所を尋ねたところ、偶然にも学び舎を卒業する姫様達のお祝いの席に出ておられるらしい。これならば無理に中まで入らなくても伝言を頼んで外で待っていればいい。所用で着場にいた神官に案内してもらい、学び舎へ向かう。すると、どこかへ向かうのか学び舎から出てこられたお2人と遭遇する。

「陛下、お久しぶりでございます」

「ティム! 来ていたのか?」

 俺の姿を見たお2人は驚いた様子だったが、それでも再会を喜んでくれた。だが、悠長に再会を喜んでいる暇はない。お2人も御用がある様子だったので手短に事情を説明すると、陛下は眉間にしわを寄せる。

「ティム、コリンを迎えに行ってくれないか?」

 陛下は急な呼び出しを受けたらしく、久しぶりに親子で過ごす時間を邪魔されて少し不機嫌そうだ。呼び出した相手に悪態をつきながら陛下は護衛の1人に俺と同行するように命じていた。これなら学び舎で姫様を呼び出しても揉めることはなさそうだ。

「恐れながら申し上げます」

 話を聞いていた神官が神妙な面持ちで話に割って入った。

「エドワルド陛下はわが師に呼び出しを受けられたと仰せになりましたが、わが師は先ほど外出されて留守にしております」

「え?」

 思わず顔を見合わす。陛下を呼び出した高神官の弟子だと言う彼の話では、彼の師匠は親しい友人が危篤との知らせを受けてつい先ほど出かけて行ったらしい。もし、呼び出していたのならば、何かしら指示があったはずだと彼は言う。

「狙いは……コリンか?」

 陛下が手渡された書状に書かれた署名を見た神官は、よく似ているけど違うと言う。ただ、この神官以外にそれを証明できるものがいないので、陛下は彼に断りを入れたうえで待機している竜騎士の1人に確認を命じた。

「私達の娘を探して」

 皇妃様は肩にいた小竜を腕に乗せると、その顔を覗きこむ。姫様の顔を思い浮かべて伝えているのだろう。そして空に放たれた小竜は真っすぐに学び舎の方向に飛んでいく。

「ティム、急いでコリンを迎えに行ってくれ」

 もし、エルニアで起きたことも含めて全て謀られていたならば一刻を争う。俺は言われるまでもなく学び舎へ向かって走り出した。少し遅れて同行する予定だった竜騎士と神官もついてくる。

 ほどなくして学び舎に着き、入り口で姫を迎えに来た旨を伝えると、もめることなく奥へ通された。祝いの席はそろそろ終わろうとしていたが、会場のどこにも姫様の姿がない。講師役の神官の1人に聞いてみると、少し前に迎えが来て帰ったと言われた。だが、学び舎の正面玄関ではそんな事一言も言われなかった。

「大変ですの」

 そこへ大母補候補の令嬢が駆け込んできた。彼女が言うには、講師の補佐役の若い神官が姫様を人気のないところへ連れ出して何か薬をかがせ、そして意識のなくなった彼女を倉庫の方へ連れて行ったと言う。

「それはどちらに?」

 学び舎の内部構造まではさすがに把握していない。知らせに来た令嬢から大体の位置を聞き出すと、俺はすぐに駆けだした。少し遅れて会場の方が大騒ぎとなっていた。


 クウ、クウ、クウ……。


 聞き出した場所へ着くと、かすかに小竜の泣き声が聞こえる。声のする方に向かうと、先ほど皇妃様が放った小竜が備品庫と書かれた扉の前にいた。中からかすかに人の声がするが、案の定中から鍵がかかっている。俺は奥の手を使うことにした。

 俺は長剣を抜き放つと刀身に力を送る。これでこの世にあるありとあらゆるものが斬ることが可能になる。本来なら妖魔を狩るために使う力で、人に向ければ騎士資格が即時にはく奪される。そんな事よりも姫様の方が大事だし、目の前にあるのは単なる扉だ。淡い燐光をまとった長剣で迷うことなくその扉を切り捨てた。


ガツッ!


 切り捨てると同時に俺は中に突入した。備品庫とは名ばかりで奥に寝台があるだけだった。その上で神官服を纏った若い男が若い女性にのしかかっている。乱れたプラチナブロンドが目に入り、俺は男に近寄ると迷わず拳をその顔に叩き込んだ。


バキッ!

ゴン!


 加減など無用。怒りの所為でいつもより2割増しの力で殴り飛ばし、奴は壁まで吹っ飛んだ。俺はもう奴に目もくれずに姫様を抱き起こした。

「姫様」

 意識はあるが、薬の影響で体が思うように動かせないようだ。俺が声をかけると、安堵したのか彼女の目から涙が溢れてくる。俺は彼女をギュッと抱きしめた。

「俺がふがいないばかりに怖い思いをさせてすみませんでした」

「ティム、ティム」

 彼女はかすれる声で何度も俺の名前を呼ぶ。抵抗して叩かれたのか頬が腫れている。きっと1人で心細かったに違いない。俺は優しく抱擁ほうようすると、優しく背中を撫でた。

「この野郎……」

 寝台の向こう側に転げ落ちていた男が立ち上がる。鼻はいびつに曲がって腫れ上がり、血を滴らせていた。男は手にした短刀で斬りかかり、姫様が俺の腕の中で身をすくめる。


ドスッ


 俺は迷うことなくその攻撃を左腕で受けた。怒りで興奮状態にあったおかげで痛みはそれほど感じない。だが、思ったよりも出血が多く、羽にまみれた寝具に血が滴っていた。それを目の当たりにした姫様は耐えきれなくなったのかそのまま意識を手放した。

「邪魔をするな!」

 男はなおも斬りかかってくるが、煩わしくなった俺は奴の胴に蹴りを入れて黙らせる。それからほどなくして知らせを受けたらしい騎士団が駆けつけ、失神していた奴は引きずられるようにして連行されていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ちなみに二代目小竜君は、本宮内でわんぱくトリオ(エルヴィン、ヒースの3男、リーガスの長男)を探し出すのに活躍している。今回のフレアの命令もその応用編といったところ。エドワルドを始めとした竜騎士達にきっちりしつけられたのでかなり優秀。

この後ご褒美にたくさんなでなでしてもらったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る