13話

 体育祭は大盛況のまま終わり、優勝は伊織のクラス、ということで終わった。体育祭実行委員同士の打ち上げや、クラスの打ち上げがあったのだが参加を見送り(というか元々参加する気はなかった)、体育祭終了後、千里は的庭に事情を簡単に説明できる範囲でした後に、警察庁に向かっていた。

 体育祭も終わったので本格的に伊織の母、詩織の事件について調べようと思ったからだ。千里は挨拶もそこそこに資料室に入ると、二年前の”あの”事件について調べていた時のこと。ふいに資料室の戸がたたかれた。千里が「どうした?」と問いかけると、切羽詰まったような声で信じがたいことを告げられる。


「警視総監!例の二年前の事件が再度発生しました!現場は西城駅西口西城市5番地です!」

「……は?」


 かしゃん、と手元から何かが落ちる音、それと同時に千里は資料室から飛び出して事件現場へと向かっていく。用意されていたパトカーに体を滑り込ませ、パトカーの中で軽く現場の状況を聞いた。

 千里が現場に着くとすでに到着していた刑事たちに軽く挨拶をした後に遺体の状態を確認する。そこには血の海となっていた。今ではあまり吐き気も来なくなったが、親が死んですぐの時は赤の他人の血ですらダメで、吐きそうで動けなくなったりしていたのに、大分マシになっただろう。まぁそれも中学時代の喧嘩の賜物なのだが。被害者はどうやら千里と同じ高校生のようだった。

 しかし制服を見る限りは他校である櫻井高校の生徒のようだった。

「左腕が切り取られている以外に特に目立った外傷はなし、か……」

 そう呟きながらまじまじと遺体を見つめる。被害者の近くに落ちていた生徒手帳をしろいハンカチで拾ってパラパラと中身を確認するとアドレス帳らしきところを開くと学生証がはらりと落ちてしまう。それを拾ってから名前を確認する。"七島 篠"と書かれていた学生証には被害者の顔写真が張られていて本人だと確認ができた。千里はそれを確認してからふう、と溜息を吐く。

「被害者の家族に連絡は?」

「今のところとれていません」

「そうか……。引き続き連絡してみて」

「はい、了解しました、警視総監はどうなさりますか?」

「うん、しばらく現場を調べようかなっておもっているところだよ」

 千里は隣に立っている佐々木に遺族との連絡の有無を確認したが、とれていないとのことだった。千里は小さくうなずいた後に、引き続き連絡を取るように千里は軽く命令を下した後に再び遺体へと視線を落とす。あたり一面は血の海と化していて千里は小学生のとある事件をきっかけに千里は他人の血を見るだけでも過呼吸を起こしたものだが、今では知り合いでなければ過呼吸を起こさなくなった。それだけ、慣れてしまうほど、千里は昔、事件を起こしていた側なのだ。それでもやはり血というのは見ていて気分のいいものではなかった。胃腸からこみあげてくるものを若干こらえながらじっと見つめた後に今日だけで何度落としたことかわからないため息をこぼす。

「はぁ……にしても……、なんで左腕だけ……?ううん……、いまいちわからん……。二年前の事件との関連性があるのかもつかめない……。そもそも今回のターゲットは高校生……?」

 千里はぶつぶつと小さくつぶやきながら事件について考える。もしこれが二年前の事件と関連しているのなら、対象は主婦とか働き盛りの人だったと、記憶していた千里は首をひねらせる。それが一筋縄では解決に至らなさそうだったので大きなため息を一つ吐くと学園に連絡を入れるべく一度現場から離れる。

 慣れた手つきでスマホを開くと桜才高校に連絡を入れる。数回の無機質な呼び出し音の後に事務委員の声が聞こえる。千里は軽く自己紹介をしてから担任の遊原につないでくれ、と頼むとしばらく何かのクラシックが流れた後によく聞きなれた声が聞こえる。

「遊原だが……。地雷、どうかしたか?」

「そうですね、用件としたらしばらく学校に来れなくなる、という大変嬉しいお知らせと、事件発生という大変残念なお知らせですよ、事件。なのでほら、入学の時にお願いしたあの件、お願いできますか?」

「……。ということは結構大きめの事件か?どんな感じのだ?」

「そうですね、大きいといえば大きそうです。というか、大きくなりそうです。悠太は覚えてますか?ほら、あの二年前、この町を騒がさせていた猟奇的連続殺人事件……、ターゲットは働き盛りの男性や女性だったあの事件」

「あー……あの事件か。あぁ、覚えているよ。あの事件も胸糞悪かったが……、その事件がどうかしたか?」

「もしかしたら似たような事件が起きるかもしれないんですよね……。今回、似たような状態で発見された遺体が見つかりました。それも今度のターゲットは高校生。もしかしたら何かしらそちらにも対応頼むかもしれないっす。協力宜しくお願いしますね」


 千里が静かにそういうと電話の向こうで息をのむのがわかった。千里はあくまでも予想だ、と告げても遊原の険しそうな顔が浮かんでいた。千里はそのあとに申し訳なさそうに口を開いた。

「とりあえずしばらく学校には行けないです。それから伊織とか、俺の事情を知らない人に俺のこと聞かれても適当にごまかしておいてほしいんです。時機が来たら知り合いには話そうと思うので……」

「わかった。お前はこのまま捜査に入るのか?」

「当たり前じゃないですか……とりあえず早めに解決できるようにはしますので」


 千里はそう言うと静かに電話を切って近くの壁にもたれかかってから一度深くため息をついてから、仕事に切り替え、すぐに先ほどの現場へと向かうのだった。

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