第2話 噂ほど面倒なことはない
千里たちが校舎に入るとさらにあたりは賑やかになる。囁きながら周りはあることないこと囁きあう。『やっぱり地雷さんは太田君なのかなぁ……』『なぁんかさ、美男美女って感じでお似合いだよなぁ……』『つか太田や吉良津羨ましくね?あいつの周りモテるやつばかりじゃん。地雷さんもそうだけど、舶来さんや
思っているだけで言わないのには一応それらしい理由があり、実は中学のころに一度だけ「くだらない、もっと時間を有意義に使え」と本音を口にしたら逆切れされ髪を切られる、という実被害にあったのでそれ以来は言わないようにはしているが、やはりなぜこんなつまらないことをしているのだろうと思う。
思わずため息がこぼれた。そんな時だった。
隣からただならぬ殺気を感じそちらを見るとあからさまに不機嫌そうな顔をした蒼が歩いていた。それを見た千里は苦笑をしながら「まぁまぁ、落ち着けって」と宥めながら歩く。
千里が無愛想なのは信用の置いてないものの前では誰でもなので、そんなのではないのだが、女子の目からはそうは見えてないらしい。千里は内心、めんどくさい、しょうもない、そう思いながら歩き続ける。そんな時だった。
「ちーさーとっ!」
「うわっ!!
……危ないよ、秋良……。まったく秋良みたいに身長でかい人に飛びつかれたら俺倒れちゃう。今は蒼が、助けてくれたから転ばなかったけど。蒼、ありがとね」
「ごめんなさーい……」
「秋良ちゃん、気をつけてよ?」
「うん、気をつけんね」
何度目かのため息の後に後ろから名前を呼びながらいきなり思い切り飛びつかれ、千里はくんっと前のめりになるが、倒れるすんでんのところで隣に立っていた蒼が千里のことを助けた。千里は蒼にありがとね、と言いながら、後ろから飛びついた女子生徒────、先輩である
翔太が恋慕の念を抱いている相手でもある。蒼は気をつけてね、と少しだけ肩をすくめながら軽く窘めた。そんなことも気が付かないで少し恥ずかしそうにしながら、気をつける、と言いながら頬を赤く染めたまま緩ませた。その後何かに気がついた様に蒼と翔太、千里に挨拶を交わす。
秋良は千里のことを慕っている一つ上の先輩で、正直に言うと相当天然な性格をしていた。それでも千里たちが所属する部活ではそれなりに強い。それから、秋良もそれなりにもてていた。特別美人なわけでもかわいいわけでもなかったが素朴なかわいさ、とかいうやつで普通くらいには好意を寄せられていた。
性格は明るくいつもニコニコと笑顔を絶やさず、男女ともにそれなりに人望もあった。千里も最初は警戒こそしていたが、今では彼女の良さに気がつき、信頼していた。千里が信頼できたのも最初の法であまりぐいぐいこられなかったからだろう。思いやりの心も持っていて、若干男の子っぽいところを除けば女子のあこがれと言っても過言ではない。
「あ、オハヨ、蒼くん、翔太くん」
「おう、おはよ。秋良」
「おっ、おはよう!秋良っ!」
「おはようございます、先輩。ほんと先輩って千里のこと好きですよね」
「千里は剣道強いからね!今年も全国制覇目指せるなぁ。だって今年の1年生、蒼くんに、翔太くんに、千里でしょ!こんなかで誰が優勝するかなぁ、強者揃いだから今からでも楽しみなんだよね!」
「んー、長期戦に持ってこられるとやっぱり蒼じゃね?何気に蒼、強いし。俺でも長期戦に持ち込まれるとちょっときついですし。……というか秋良?俺まだ入部届けだしてないよ」
「あ、それわかるっ。蒼君強いよね!今年は本当みんな結構強い子ばかりだからな、楽しみ!え……。何やってんの?早く出して?入部届け」
「きゃー、怖い先輩に入部強制されるー」
蒼が挨拶を返した後に部活の話、剣道を話題に出すと、秋良の顔は一気に華やいだ。秋良は珍しく興奮気味に春の大会の話をした。それも目を輝かせながら。
それもそのはずだ。今年はそれなりに強いものが入部をしてきている。実際問題、蒼も翔太もかなり強い。千里はどうやらかなり有能視されているらしく、すごい期待を込めた瞳で見つめられる。誰が優勝したかという問いには千里は少し悩んだ後に幼馴染の名前を出す。しかしそのあとに千里は突き落とす。しかしケラケラと笑いながら、冗談を交わし合う。そもそも千里たちの通う学校は有名な進学校なのとともに、武道に関しては得にずば抜けて、強豪校なのだ。
というのも、学校自体が勉強も運動もできる文武両道に、というのが姉妹校とここのカリキュラムであり、さらに武道に関しては特に力を入れてる。
なので道場はとても大きい。 その中でも一番大きいのは────
「あ、伊織!なんだよ、薙刀部、休憩中か?」
噂をすればなんとやらなのか、学園でも一番道場が大きい薙刀部に所属する
その点剣道は有名な分入ってくる者も多くいるが、桜才学園は先ほども述べたように強豪校だ。その為、剣道部の練習量も半端じゃない。剣道部も同様の理由で多くの生徒が入部してきては練習量に耐えられずやめて行ったり、女子の入部者も何人かいたが、防具の重さや、練習量に耐えられずやめていく人が後を絶たなかった。
あとは、今年と去年で入った男の子で仲良くなりたい、という浅ましい考えの女子も多くいたがその人たちも、後にやめていってしまった。
なので、今のところ女子部員は秋良と千里の二人だけだろう。やめていくその背中を既に千里自身も何人か見送っている。
ともかく桜才学園の中でも一位二位を争うほどに実績を持っている薙刀部に所属している伊織は千里に話しかけられると、少し苛立った口調で千里のに返事をする。心なしか態度もいつもよりも冷たい。
「……まぁ」
「疲れてんなぁ、また馬鹿如一のせいか?」
「わかってるなら聞かないでくださいよ……。千里のほうであの人なんとかならないですか?」
「アイツ、物覚え悪すぎだよなぁー、あとその件についてだけど、悪いけど、俺じゃ無理」
千里はケラケラと笑いながら、目を細めて笑った。
しかしこの目の前にいる、橘伊織という千里の同期である女に呆気なく負けた。余りにもの屈辱で今は薙刀部にて日々、練習に取り組んでいる。……試合を申し込んでは負けているのだが。伊織とはそんな縁で再び仲良くなったのだ。
「そろそろ、終わるんで、戻ります。……みなさんは教室に行きますか?」 「そっか。んー、戻ることにしよっかな。今度薙刀部見せてもらうわー」 「そうしてください。……別に来てもいいですけど……、剣道部はどうするんですか?」 「あー?そうだなぁ、休憩中とか部活が休みの日にでも見に来ることにするよ」 「そうですか……。じゃあ、待ってますね」
千 里は軽く手を振ってから、千里は教室へと入っていく。蒼はその背中を追いかけながら、ニコニコとしながら嬉しそうにしながら口を開く。
「千里ちゃん高校入ってからだいぶ変わったよね。笑う数も増えたし、お友達が沢山増えたようで僕は嬉しいよ」
「ほんと蒼お父さんみたい……。発言の一つ一つがまるで心配症で過保護な結構年いったオヤジだよ……」
「えぇ……、酷くない……?」
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