第3攻略 街は冒険者と人で賑わってます。
雲の隙間から日が顔を出している。
風は心地よいくらいに吹いていた。
彼と彼女は森を抜け、街へと出た。
街の入口は大きな壁で隔てられている。
ここは一種の境界線。
獣が犇ひしめく森と人が犇めく街の。
壁は街を守る要塞であり、最後の砦を意味している。
最後の砦と言っても、王都や帝都には、壁はあるし魔術結界は張ってある。
平民や、商人、村人等にとっては最後の砦である。
森の静かさとは裏腹に、街は賑わっている。
そんな、街の大通りを2人は歩いていた。
1人は平凡な村人を装った、前世は元プロゲーマー。
もう1人は、大盾と大剣を装備する、異彩を放つエルフ。
タダでさえ、エルフだけでも、目を引くと言うのに……。
良く分からない組み合わせでいるから、余計にである。
「ここですね。私はこれから、冒険者ギルドに行って、報告をしてきます。」
「ありがとうございます。僕もついていって良いかな?」
「良いですけど……。」
「冒険者になりたいから……。申請もしたいし、武器も防具も買いたいから。」
彼はそう言って、彼女の横を歩く。
ただ2人を見ていれば、仲のいい2人。
でも、見方を少し変えれば、訳の分からない2人。
彼女は、冒険者になった理由を話した。
彼は話を聞いて、動揺を隠せなかった。
「追い出された?!」
「ええ。仕方ないんです。普通のエルフとは違いますから。皆は、細くて、俊敏で、……。」
彼女の顔には先程の笑顔が無い。
代わりに、目には一滴の雫が。
彼はただ拳を握ることしか出来なかった。
「それで、冒険者になった訳か。」
「うん。普通だったらエルフの森で色々と出来るんだけど。ある程度の歳まで。」
「いくつまで?」た
「2000歳くらいまで。」
「ッ?!」
そう。人族ヒューマンや、竜人族リザードマン等は定命である。
それに対してエルフやドワーフ、狐人族等は定命では無い。
しかし、個体によっては死期は代わってくる。
「てか、君はいくつなんだい?」
自分に指を向け、首を傾げる。
「1623歳に今年でなりました。」
「そうなのか……。」
「でも、1000歳くらいまでは育てられるんですよ。長老が産みの親だとか。何とか言ってたような。長老が……。6000歳を超えてたかな?」
6000歳?!生きてるとかの次元じゃねぇ!
60世紀を生きながらえてるぞ?!
想像しただけで寒気がしてくる。
「俺も同じ感じだ。森ではあんな事言ってたけど。村を追い出された。」
「何でですか?まさか。」
「至極真っ当な話だ。村人とは思えない気を帯びてる。それに、力もそうだ。色々な。」
「すみません。話したくなかったはずなのに……。」
「構わないさ。俺も丁度村を出たかったんた。」
彼らはしんみりした雰囲気に飲まれていた。
「わ、話題変えましょ!」
そう言って、彼女は雰囲気を変えようとしてくれた。
でも、顔を見れば1発で分かる。
苦手だってこと。
「うーん。どーしよか。」
と、考えているうちに冒険者ギルドがある建物に着いた。
「ここが冒険者ギルドです。私は……、1階の受付カウンターに用があるので。あ。冒険者になるなら、2階で手続き出来ますよ!」
「ありがとう。世話になった。また……。いや、どこかで必ず会う。」
「いえいえ。また会うんですか?楽しみです。次はパーティーを組むんですかね?」
と、彼女はクスクスと笑う。
笑顔が戻ったな。彼女には笑顔が一番だ!
な、泣かす奴は断じて許さんぞ!
2人は挨拶を交わして、別れた。
2階に着くと、看板が掲げられてる。
「冒・険・者・受・付・」
看板のある受付へと歩みを進める。
「あのー。冒険者になりたいんですが‥‥。」
受付嬢はニコリと笑みを浮かべ、1枚の用紙と羽根ペンを出した。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ。冒険者ですね。文字の読み書きは出来ますか?無理でしたら、私が聞いて描きますが‥‥。」
文字の読み書き?!
しまった。そんな所に穴が。
用紙をチラッと見てみる。
はい。読めました。かけますね。
だって、日本語だったもの。英語や、中国、フランス語みたいのじゃなくて助かった。
でも、何故日本語なんだ?
「はい。出来ます。」
「では、こことここの枠のところを書いてください。欄外は記入しないで下さい。」
受付嬢は細く綺麗な指で、枠を指さす。
「分かりました。」
名前‥‥。たと‥‥。危ない。書くところだった。
今は、シュバルツ・ジークとして生きてるんだった。
シュバルツ・ジークっと‥‥。
種族は人族ね。
歳?!いくつやろう。分からんな。
まぁ、適当に19くらいにしとくか。
「書き終わりましたか?えーと。はい。分かりました。シュバルツさん。次に、軽く能力確認させて頂きます。」
「はい。」
隣の個室に連れられ入ると、水晶体が1つポツンと置いてあるだけ。
「この水晶体に両手を置いてください。」
「はい‥‥。」
言われるがままに手を置く。
水晶体の中にモヤが発生し、赤、青、緑と変化をして消えた。
受付嬢は、手に持ってる本を見て、結果を知らせてきた。
「あなたのレベルとしては‥‥350ですね。人族にしては高めですね。」
「そーなんですね。」
受付へと戻ってきて、紋章入りのバッチを貰う。
「そのバッチには、魔力が宿されています。まぁ、身分証明書と言えますかね。もしもの時の、照合にも使われます。なので、無くさないように。」
「はい。ありがとうございます。」
彼はぺこりと頭を下げる。
受付嬢は笑みを浮かべる。
彼は階段へと歩いていった。
一方その頃。
1階では……。
シャルフルーレが報酬を受け取っていた。
受け取ったあとの彼女の顔には、笑みが自然と映り、足は軽やかに適当なステップを踏んでいた。
手には麻袋が。
「やっと、貯まりましたー!金貨3枚!ふふふふ。」
やらしい笑いが止まらない。
この世界は金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、石貨がある。
金貨は1枚1万円と考えてもらえばいいだろうか。
銀貨は1枚5000円、銅貨は1000円、鉄貨は100円、石貨は10円くらいだろう。
「より良い装備が手に入るし、より良いアイテムも楽しみだなー。楽しみだなー!」
彼女はそう言って、近くのテーブルに腰掛けた。
冷静になり、今後の事を考える。
ふと、頭に浮かんだのは彼シュバルツの事だ。
どうしても、頭の片隅にいる。
消そうとしても消せない。
いやらしいが、入口近くのテーブルに座る。
そして、階段をちらちら見る。
彼女としては、隠密的にやり切れるだろうと思っている。
しかし、傍から見るとただの変人である。
階段から足音がする。
彼女は即座に振り返る。
しかし、中年の男が降りてきただけである。
そして、くたーっと手を付き頭を伏せる。
つんつん。
バサッと顔を上げる。
目の前には、彼‥‥。彼ぇぇぇえ?!?!?!
「どうしたんだ?疲れたんか?」
「うんうん。考え事してたんだ。気にしないで。」
首を振り否定する。
「俺も晴れて冒険者だぜ!確か、レベルが350くらいにだったかな。」
「え?!350?!人族にしては高いですね。」
彼は椅子を引き、ちょことっ座る。
「あの‥‥‥。聞きたいことがあるんですが‥‥。」
顔を少し火照らせながら、目線を逸らし聞いてくる。
焦らしてくる。おい!止めてくれ!惚れてまうやろ!
「何ですかな?」
軽い気持ちで、返事を待つことにした。
「私とパーティーを組んでくれませんか?」
モジモジして、乙女である。
あの大盾を大剣を振り回してた、少女とは違う。
「こんな俺でもいいのか?」
彼女の顔は、ぱぁと明るくなり、笑顔ではい!と答えた。
「パーティー組んだんですから!冒険いきましょ!」
バッと、立つ。
「おっとその前に。まず、装備を調達しなきゃな。」
「あっ‥‥。忘れてました。」
あはは‥‥と言わんばかりに、後頭部を掻く。
「よろしくな。シャルフルーレ!」
「こちらこそよろしくです!シュバルツさん!」
2人はまじまじ見つめあった。
二人ともおかしい雰囲気に飲まれ、大口開けて笑った。
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