体育祭と借り物競争
修学旅行から帰ってきた私は、すぐに体育祭の準備で大忙しとなり、修学旅行の時に感じた高円寺に対しての複雑な思いは、その忙しさで頭の隅に追いやられすっかり忘れてしまったのだ。
そうしてあっという間に日々は過ぎ、体育祭当日を迎えた。
─────体育祭当日。
「これより体育祭を開催致します」
よく晴れ渡った空の下、私は生徒会長として体育祭開催の宣言をする。
そしていよいよ始まった体育祭、皆今までの練習の成果を発揮して頑張っていた。
私はその様子を、グランド正面に設営されている体育祭本部のテントの中で見ていたのだ。
ここには他に、三浦、日下部、駒井の二年生生徒会メンバーが揃っていた。
ちなみに一年生生徒会メンバーには、初めての体育祭を思う存分楽しんで貰う為、体育祭当日の手伝いは不要と伝えてある。なのでここには、藤堂弟を含め一年生生徒会メンバーは一人もいないのだ。
そうして私は、各クラスが獲得したポイント等を集計したり体育祭に関する雑務をこなしたりしながら、皆の競技を観戦していたのだった。
皆様々な競技に出場していたのだが、その中で榊原が出場した競技でプチハプニングが起こったのだ。・・・正確には、コントみたいなハプニングである。
榊原が出場した競技は、去年の大玉転がしと似た感じの棒リレーだった。
2mぐらいの棒を各クラス四人で持ち、各クラス一斉に走り出して20mぐらい走ってから、折り返し地点のポールをぐるりと回ってまたスタートラインに戻ってくるのを競うものである。
そしてその競技で榊原が走る番となり、棒の一番後ろを持っていた榊原は、走りながら周りからの黄色い声援に応え笑顔で手を振っていた。
すると折り返し地点で、上手く回れなかった他のクラスの棒が後ろから追突してきたのだ。
なんとか追突する寸前、その棒を持っていた人達によって勢いは殺す事が出来、そのお陰で追突は免れなかったが衝突の勢いは弱まった。
しかし追突された所がたまたま膝裏だった事で、大衆の面前で盛大な膝カックンをする羽目になったのだ。
私はそれを見て、机に顔を突っぷしながらバンバンと机を右手で叩き、左手でお腹を押さえて大笑いしていたのだった。
その後順調にプログラムは進み、次は二年生の借り物競争が始まる。ただ正直この競技には、あまり良い思い出は無い。
その競技に今年私のクラスからは、カルが出場する事になっていた。
そして借り物競争に出場する選手が、グランドに入り競技が始まる。
皆ワイワイ言いながら指示が書かれた紙を手に持ち、楽しそうに様々な物を借りてゴールに向かって走り抜けていた。
そしていよいよカルの出番がやって来たのだ。
カルがスタート位置につき、スタートの合図と共に一斉に走り出す。
そしてカルが、借りてくる物が書かれた紙が入っている封筒が置かれた位置まで到着すると、早速一通の封筒を手に取り中に入っている紙を取り出して確認する。
するとカルは驚きに目を瞠り、紙を見つめたまま固まってしまっていた。
あれ?どうしたんだろ?なんか変な物が指定されてたのかな?
そう私が不思議思いながらカルを見ていると、なんとか動き出したカルが次に少し思案顔になりそして視線をさ迷わせ、私と目が合うとニッコリと笑顔になったのだ。
私はそれを見た瞬間デジャブを感じ、急いで椅子から立ち上がる。
「三浦君ごめん!僕、用事を思い出したからちょっと行ってくる!!」
「えっ!?早崎君!?」
突然私がそんな事を言い出したので、三浦は驚きの声を上げていたが私はそれを気にする時間も惜しみ、その場から逃げるように走り出そうとした。
しかし私が走り出すより早く、私の腕が掴まれたのだ。
私はとても嫌な予感を感じながら、恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはニコニコした笑顔で私の腕を掴んでいるカルが立っていたのだった。
「カ、カル?」
「響~!ちょっとオレと一緒に来てね!」
「わぁ!」
カルにそう言われたと同時に、私の視界が一気に回り気付くとカルにお姫様抱っこされてしまっていたのだ。
「ちょ!カル!!お、下ろしてくれ!!」
「駄目~」
「か、借り物が何か分からないけど、僕が一緒に行った方が良いなら一緒に走るからさ!!」
「まあまあ、もう抱き上げちゃったからこのまま行くよ」
「いやいや!ちょっと待っ!い、嫌だーーーー!!!」
私の絶叫を楽しそうに聞きながら、カルは私を抱き上げたまま猛スピードで走り抜け、一位でゴールしたのだった。
な、なんで去年に引き続き、今年もこんな目に遭わないといけないのーーーーー!!!
そう心の中で絶叫し、涙目になりながらまだ私を下ろしてくれないカルを睨み付ける。
一方睨まれているカルは、そんな私の視線を受けながらとても楽しそうにニコニコしていた。
正直今は、あまり周りを見たくなかった。
何故ならば、運ばれている最中から凄い注目を浴びていて、さっきから視線が体に突き刺さっているからだ。
「・・・カル、いい加減に下ろして」
「あともう少しだけね」
そう上機嫌に言うカルに呆れた表情を向けていると、そこに判定員の生徒がマイク片手に近付いて来た。
「え~生徒会長を抱き抱えてゴールした・・・」
「カルロスです」
「そうそうカルロス君だったね。え~と、じゃあ指令書の紙見せて貰えるかな?」
「はい、これです」
「え~借りてくる物は『大好きなもの』ですか・・・って、えっ!?」
書いてある内容をマイク越しに読んだ判定員は、その自分が言った言葉に驚く。
そしてその言葉を聞いた観衆と、カルに抱き上げられたままの私も同じように驚き、辺りがざわつき出した。
「え、えっと?その・・・カルロス君は、生徒会長が好きって事でいいのかな?」
「カ、カル?」
「・・・正確にはちょっと違うんですけどね。本当は・・・響・・・生徒会長の妹さんが好きなんです」
「え?」
「ああそう言えば生徒会長の妹さん、今休学中でしたね」
「そうなんですよ。あ、でも勿論生徒会長も友達として大好きですけどね」
そう言って、カルはニッコリと判定員に笑顔を向けたのだ。
そのカルを見た判定員は少し思案した後、一つ頷き声高々に宣言したのだった。
「え~今回は理由が理由なので、この借り物を認める事にします!ですので、一位はカルロス君です!」
その宣言を聞いた観衆は、拍手と共にその判定を認めたのだ。
しかし私は、カルの言葉を頭の中で何度も繰り返しじっと考えに耽っていた。
う~んと、カルが響の事を友達として大好きなのは知ってるけど・・・妹である詩音(私)も友達として・・・好きなんだよね?あれ?でもさっきの言い方じゃ・・・・・???
頭の中で色々考えるが、段々よく分からなくなり大混乱していたのだ。
「しかし・・・生徒会長も、二年連続同じ目に遭って大変ですね」
「へっ?・・・ちょ!今それ言わなくても!!」
「・・・響?」
「あれ?カルロス君は知らない・・・ああそうか、カルロス君今年から復学したから、去年の事知らないの当たり前か」
マイクを離した状態で判定員がカルにそう言うと、カルは怪訝な表情で私を見てくる。
「響・・・どう言う事?」
「え~と、え~と・・・」
「ひ・び・き?」
「うっ!・・・話すから、とりあえず下ろしてくれるかな?」
「・・・分かった」
漸く下ろして貰う事が出来た私は、まだ険しい表情で見てくるカルに、深くため息を吐いてから簡単に説明したのだった。
そして説明し終わると、カルは無言で眉間に皺を寄せとても不機嫌な顔になってしまったのだ。
ちなみに判定員は、カルが段々不機嫌な様子になっていくのに気付き、いつの間にやら別の場所に移動してしまっていたのだった。
「え~と、カル・・・僕、生徒会の仕事があるから・・・もう戻るね?」
「・・・あいつも、オレと同じ事してたのか・・・」
そう一人ブツブツと、険しい表情で呟いているのが聞こえていたが、私はこれ以上何か言うとさらに面倒な事になりそうな予感がして、そそくさとその場から逃げるように去っていったのだ。
そして三浦達の待つテントに戻ると、皆微妙な表情で出迎えてくれたのだった。
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