全国剣道大会

 あの後私と藤堂弟を含む一年生を除いた全員が、藤堂兄の言葉に激しく同意したのだ。


 しかし私と藤堂弟・・・特に藤堂弟は激しくそれを拒絶する。


 そして他の一年生達は、状況をよく飲み込めていないのかポカンとした表情で拒絶している私達と、同意を示しどんどん話を進めている人達を交互に見ていた。


 結局藤堂弟は藤堂兄に言い含められてしまい、あまり納得していないながらも渋々了承してしまったのだ。


 その結果、最後まで一人許否を示していた私の意見など聞いて貰えず、なんだかんだで藤堂兄の代わりに出場する羽目となってしまったのだった。


 ちなみに話がまとまってしまったぐらいに、遅れて病室にやって来た三浦と駒井に事の経緯を説明し、学園側に事故現場の処理及び安全確保と、一時的に生徒の立ち入りを禁止して貰うように頼んだのだ。






 そうしてなんだかんだと手続きやら何やらしてる内に、あっという間に大会当日となってしまった。


 ただあまりにも忙しかった為、私は一回も練習に参加出来なかったのだ。


 私と剣道部員は、学園側が用意してくれたバスに乗り全国大会が行われる会場に着く。


 そしてその会場で、私は怪我の身でありながら付いてきた藤堂兄に、衝撃的な事を言われたのだ。




「・・・はぁ~!?僕が大将!?」


「そうだ。よろしくな!」




 そう藤堂兄に良い笑顔で言われてしまい、私は驚愕の表情で固まってしまった。


 チラリと藤堂弟の方を見ると、納得していないのがありありと分かる仏頂面をしていたのだ。






 そうして私達出場する選手は開会式の行われる会場に入り、沢山いる他校の生徒が整列している所に、私が先頭となって整列したのだった。


 すると私達の姿を見た他校の生徒が、小声ながらもざわつき出したのだ。




「おいおい、噂は本当だったんだな!あの星蘭学園の藤堂が怪我して、今大会出場しないって言う噂!」


「おお本当だ!じゃあの藤堂が出ないなら、今大会俺達にも可能性があるな!」


「だよな!まあまず、あの藤堂がいない学校には勝てるだろう。だって・・・あんなチビと、女みたいに綺麗な顔だけのひょろっとした奴が選手として出てるんだからな」


「ククッそれは言い過ぎだろう・・・だけど、確かに余裕で勝てそうだな」




 そんな私達を嘲る声が至る所から聞こえてきて、私は苦笑を浮かべつつ気にしないように正面を向いていた。


 しかし私の後ろに立っている藤堂弟から、ひしひしと殺気に似た気配を感じ、私は内心冷や汗をかきながら頼むからこんな所で問題起こさないでくれよと願っていたのだ。


 ちなみにこの時藤堂兄は、応援に来てくれた高円寺達三人と一緒に観客席で座っていた。


 そして後から私の事を聞いたカルも、藤堂兄達と離れた席に三浦と駒井と一緒に座って会場内を眺めている事に気付いていたのだ。


 そうしてざわついたまま始まった開会式も終わり、いよいよ試合が始まる事となった。


 この大会は勝ち抜き戦による団体戦となっており、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五人で戦う事になっている。


 そして私は、その中の大将と言う役割を与えられてしまっているのだ。


 とりあえず大将と言う事で、一番最後にしか試合に出る事が無いが防具を身に付けた状態で試合を見る。


 結果として、私は一度も試合に出る事無く順調に私の学校が勝ち進んでいった。


 何故ならば、先鋒として試合に出ていた藤堂弟が全て一人で勝ち抜いてしまったからだ。


 さすが藤堂兄の弟だけあって、剣道の腕前は相当強かった。


 そしてそんな藤堂弟に、あの陰口を叩いていた他校の生徒はあっという間に倒されていったのだ。


 正直これなら、私が出なくても良かったのでは?と思ってしまう程私は楽だった。


 そうして順調に勝ち進み、とうとう次が決勝戦と言う所まできたのだ。


 そして今はその決勝戦前の小休憩と言う事で、私達は集まって決勝戦に向けての話し合いをしていた。




「よう!いよいよ次は決勝戦だな!」


「と、藤堂先輩!?ここに来て良いんですか!?」




 まさか藤堂兄が観客席から降りて試合場に来るとは思っていなかったので、私は驚きの声を上げ他の皆は驚きの表情を藤堂兄に向ける。




「本当は選手以外駄目なんだが、本来出場する予定だった俺だけこの小休憩の間ここに来て良い許可を貰ったんだ」


「そうだったんですか」


「まあ何がともあれ次はいよいよ決勝戦だ、お前達気合い入れていけよ!」


「「「「「はい!」」」」」




 藤堂兄の激励に、私達は揃って気合いを入れた返事を返した。


 そうして私達の様子を満足そうに見ていた藤堂兄が、ふと表情を固くし私達の後ろに視線を向ける。


 私はその様子を不思議に思い、その視線の先を追って後ろを振り向いた。


 するとそこには、藤堂兄ぐらいに背が高く防具は着けていても分かる、しっかりと引き締まった体をしている男の人がすぐ側で立っていたのだ。


 そしてまだ面を着けていないその顔は、とても凛々しく整った顔立ちの美丈夫だった。


 しかしその顔は無表情で、氷のように冷たい目をしていたのだ。




「皇・・・一年振りだな」




 そう言って、藤堂兄が少し困った表情で私の横に立っていた。


 そしてその藤堂兄の言葉で、この目の前に立っている男の人が例の藤堂兄と互角の実力を持っていると言われた『皇 隆哉』である事が分かったのだ。


 チラリと藤堂弟の方を見ると、じっと皇を睨み付けている。




「・・・藤堂・・・お前、本当に怪我をして出場を辞退したんだな」


「・・・ああ」


「ふん、情けない」


「「なっ!!」」


「・・・・」




 皇が藤堂兄の三角巾で吊られた腕を一瞥し、鼻で笑いながら言い放った言葉に私と藤堂弟が思わず同時に声を上げ、藤堂兄は苦笑いをしながら何も言い返さなかった。




「折角決勝まできたが・・・お前が出ないこの決勝は、特に面白くも無くあっという間に決着がつくだろうな」




 そう言いながら皇は、出場する私達をチラリと見てすぐに興味を無くしたように藤堂兄に顔を向ける。


 だが藤堂兄は、そんな皇に向けてニヤリと笑ったのだ。




「それは・・・どうだろうな?」


「・・・それはどう言う意味だ?まさか、こんな奴等に俺が負けるとでも?」


「そのまさかがあるかもしれないぞ?」


「・・・ふん、有り得ん。確かにそこにいる・・・藤堂の弟か?は強いんだろうが、正直俺から見れば大した事無い。そしてそれ以外も・・・特に大した奴はいないな。特に・・・その大将をしている女のように綺麗な顔をしている男が一番弱そうだ。何故そいつを藤堂の代わりとして大将に選んだか知らんが・・・万が一にもお前達が勝てる見込みなど無いだろう」




 そう言い放ち、皇は私達を見下してきた。


 その皇の言葉に、藤堂弟は体をプルプルと震わせ怒りを抑えながら皇を鋭く睨み付け、他のメンバーも無言で同じように睨み付けていたのだ。


 そして一番悪く言われた私はと言うと、言われている時に私の中で何かがブッチと切れた音を聞いていたのだった。




・・・あ~久しぶりに頭きた~!!なんなんだこの人は!私の事を戦ってもいないのに弱いとか!藤堂君の事大した事無いとか!!そして一番ムカついたのが、何も知らないのに藤堂先輩が怪我した事を情けないとか言った事!!!




 私はそう心の中でムカムカしながら、目を据わらせて皇を見ていたのだ。




「まあ試合の結果なんて、戦ってみないと分からないもんだろ?」


「・・・どうせこの後の試合ですぐ、藤堂、お前が間違っている事が証明されるだろう」




 そう言って皇は、睨み付ける私達を気にも止めず自分の学校の待機所に戻って行った。


 そうして皇が去った後、藤堂兄がもう一度私達に激励を送ってくれそして再び観客席に戻って行ったのだ。






 小休憩が終わり私達は決勝戦に挑む為、面を着けて主審の前に勢揃いして並ぶ。


 そして対戦相手である、皇達も私達の向かいに勢揃いして立った。


 やはり予想していた通り皇は、私の向かい側に立ったので大将である事が伺い知れる。


 そうして主審の合図でお互い一礼をし、試合場の枠の外にある自分達の控え場所に戻って、先鋒である藤堂弟以外皆その場に並んで正座した。


 そして先鋒である藤堂弟は自分の竹刀を持ち、再び主審の立っている試合場に入っていったのだ。






 その後さすがに決勝戦だけあり、多少の苦戦は見られたものの藤堂弟の活躍で、あっという間に大将である皇と藤堂弟との対戦となった。


 そして、主審の合図と共に試合が始まったのだが・・・。




「面ーーー!!」


「一本!勝負あり!!」




 それは一瞬の出来事だった。


 無敗を誇っていた藤堂弟が、開始して一分も経たない内に皇から一本取られてしまったのだ。


 そのあまりに呆気ない勝敗に、私達は呆然と試合場にいる二人を見ていたのだった。


 その後開始場所に戻った二人に、主審は皇側の色である白い旗を上げ勝者を告げたのだ。


 両者一礼をした後、藤堂弟は重い足取りでこちらに戻ってきたのだが、面の中の顔はとても悔しそうな表情をしていた。


 そして私達の元に戻った藤堂弟は、すみませんと小さく一言言った後私達と並んで正座し、面を取ってすぐに袖で目元を拭う。


 その様子に、悔し涙が出てしまったのだと分かり胸が痛くなったのだ。


 そうして主審の指示で、次に三年生の次鋒が試合場に出ていった。


 しかし次鋒もあっという間に敗れ、次の中堅である三年生も敗れてしまう。


 そして副将である日下部が果敢にも挑むが、全く疲れを見せない皇に軽くあしらわれ一本取られてしまったのだ。


 結局大将である皇が試合に出てから私達は負け続け、とうとう大将である私が試合に出る事となってしまったのだった。

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