お見送り

 想いのまま歌った事でスッキリし、気分良く部屋に戻ってぐっすりと眠る事が出来た。


 そして翌日、四人を見送る為お父様達と一緒に男の格好で玄関に見送りに出る。




「突然の訪問だったうえ、さらに泊めて頂きありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ大したおもてなし出来なくてすみませんでした。良ければまた遊びに来てください」


「はい。是非ともまた伺わせて頂きます」




 高円寺とお父様がにこやかに挨拶を交わしていた。


 私はお母様と並んでその様子を見ていると、挨拶を終えた高円寺達四人が私の所に近付いてくる。




「早崎君、昨日のパーティー大変楽しかったよ。ありがとう」


「僕の方こそ凄く楽しかったです。ありがとうございました」


「そう言えば、今日妹の詩音さんは?」


「・・・ごめんなさい。詩音はまだ体調が良くなくて寝込んでいるんです」


「そうなんだ・・・昨日の夜は元気そうに見えたんだけどな」


「えっ?」


「詩音さん、昨日の夜バルコニーに出ていたんだよ」


「ええ!!」




 高円寺の言葉に私は驚きの声を上げた。




「そうそう、僕達四人その時丁度中庭を散歩してたんだ~。しかし詩音ちゃんって、遠くてハッキリとは見えなかったけど響君に似て美少女だね!」


「確かに月の光に照らされ、神秘的な美しさだったな」


「それにあの歌声凄かった!とても同じ人間だと思えない程だったぞ!言葉に表すなら、天使の歌声だ!」


「本当にあの歌声は素晴らしかった。是非ともまた聞きたいよ」




 榊原、桐林、藤堂、高円寺と順に興奮した様子で昨日の私を褒め称えてくれるが、私は誉めて貰えた嬉しさよりも自分の行動の浅はかさに愕然としそれどころでは無かったのだ。




し、しまったーーーー!!!響の電話で頭に血が昇って、先輩達に見られる可能性を考えていなかった!!!それも調子にのって思いっきり歌まで歌ってしまった・・・。




「・・・そんな姿を見たから、もしかしたら今日お会い出来るかと期待してたんだけどね」


「た、多分詩音は昨日の夜、体の調子が良くなったからそんな事したんだと思います。ただその時夜風に当たった事で、今日また体調を崩してしまったんだと思うので、後でもうそんな無理はしないよう言っておきます!」


「そうだね。無理をして復学が遅れては大変だから、そうした方が良いかもな」




 高円寺が会えなくて少し残念そうに言ってきたが、私は頭をフル回転してなんとか誤魔化す事が出来た。




「じゃあ、私達はこれで帰るよ。夏休み明けに君に会えるのを楽しみにしているから」


「高円寺先輩・・・僕は楽しみで無いです」


「響君~!またね!今度こそ夏休み明けたら、僕の部屋でプチファッションショーしようね~!」


「榊原先輩!絶対しませんから!!」


「早崎~!夏休み明けたら一度試合しような~!楽しみにしてるぞ!」


「藤堂先輩・・・試合って何の?と言うか何であってもやりませんから!」


「早崎君、夏休み明けたら今度こそ例の件、色好い返事を期待しているからな」


「桐林先輩・・・例の件って・・・まだ諦めてくれてないんですか?何度も言いますが絶対入りませんから!」




 そう私がそれぞれに否定の言葉を言うが、四人共全く気にする様子もなく楽しそうに手を振って帰って行ったのだった。






 私はその四人がそれぞれ乗った車を全て見送り、漸くホッと胸を撫で下ろす。すると私の近くにお母様がニコニコしながら近付いてきた。




「詩音ちゃ~ん!凄いわ~モテモテじゃないの~!」


「・・・はい?」


「ふふふ、あんな格好いい男の子達に、あんなにモテて良かったわね~!」


「お母様・・・私、男と思われているんだよ?男からモテる訳無いから!」


「あら?そう言われてみれば確かにそれもそうね・・・でも、詩音ちゃんは女の子なのよ?あの中で誰か気になる人はいないの?」


「え?全くいないけど?」


「詩音ちゃん・・・はぁ~詩音ちゃん昔から凄くモテていたのに、全く気が付かなかったわよね~?それにそもそも恋に無頓着だったし・・・その様子だと初恋もまだなんでしょ?」


「うっ!べ、別に恋なんて・・・絶対しなくちゃいけない物じゃ無いし・・・それに、私モテてた記憶無いよ?」


「本当に鈍感な子ね・・・もう~恋は良いわよ?お父様との結婚前の大恋愛、今思い出してもとても素敵だったわ~。まあ、今もお父様に恋してますけどね」


「・・・ご馳走さまです」




 幸せそうに微笑むお母様に、私は顔を引きつらせるのだった。


どうも昔から恋と言うのが良く分からず、その手の話が苦手だったのだ。




「それよりも詩音ちゃんの事よ~。せっかく男の振りをして沢山の素敵な男の子達に囲まれているんだから、どうせなら誰かに恋しないと勿体無いわ!」


「はぁ・・・」




いや、そもそも恋をする為に、響の振りしてる訳では無いんだけど・・・。




「もう16歳になったのだから、頑張って恋をして将来の旦那様見付けなさいね~?」


「あ~も~はいはい。分かりました」


「いや!詩音は恋なんてしなくて良い!ましてや結婚なんてしなくて良いから!」




 お母様の恋談義にうんざりし、とりあえず話を終わらせる為適当に返事を返したその時、後ろからガバリとお父様が抱きついてきて、涙目になりながら叫んでいた。




「もう~奏一さんがそんな風に昔から、詩音ちゃんに好意を持って近付いてきた男の子を、詩音ちゃんにバレないように排除していったから、詩音ちゃんいまだに恋を知らないのよ~?」


「詩音に好意を持って近付く男など私は許さない!詩音は響と一緒にずっと私と咲子と四人一緒に暮らすんだよ!」


「あらあら、本当に困った方ね~」




うん?お父様、昔そんな事していたの?そう言えば、昔凄く仲良くしていた男の子達が、ある日突然余所余所しくなって不思議に思っていた事があったような・・・あれはもしかしてお父様が原因だったの!?




 今思い出すと、色々思い当たる節が沢山あったのだ。




「兎に角、詩音はこのままで良いんだよ!・・・本当は男の子の格好をさせて、男だらけの寮になど行かせたく無かったんだ。だけど、響が見付からない事にはどうにもならないから、仕方が無く我慢しているんだ。ただ・・・先程の四人組、確かに皆好青年だったが・・・男と思っている筈なのに、ちょっと詩音を気に入り過ぎだったな・・・これは早く響を見付けないと詩音が危ない!こうしてはおれん!捜索部隊に連絡をし急がせねば!」




 私を抱きしめたまま、ブツブツとひとり言を言い始めたお父様は最期険しい表情になり、私を離して大急ぎでどこかに行ってしまう。


 その後ろ姿を私は唖然と見送り、お母様は頬に片手を添えて少し困った表情をしていたが、その目は楽しそうにしていたのだった。

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