誕生日パーティー
自室に戻り、まず委員長にどうしてこうなったかの説明を求むメールを送ると、程なくして返信が返ってきた。
その内容によると、どうやら生徒会メンバーに私の夏休みの予定を聞くよう頼まれてしまい、どうしても断れなかった為仕方無く私に聞いたら、誕生日パーティー以外の予定が特に無かったのでその情報を教えたらしい。
そして文末には必死さが伝わってくる謝罪の言葉が沢山書かれていたので、とりあえず学校が始まったら高い昼御飯を奢って貰う事で許してあげた。
そうして私は鏡の前に立ち、自分の姿を確認して大きなため息を吐く。
私は今、淡い水色の男物の礼服を着ている。これは本来響用に用意されていた礼服であった。
結局今日までに響は帰って来なかったので、この服はそのまま衣装棚に仕舞われる予定だったのだが、まさか私が着る羽目になるとは思ってもいなかったのだ。
私はチラリと自分のベッドに広げられている、今着ている礼服と同じ色のドレスを見る。
それは今日の為に、お母様が用意してくれたこの礼服とお揃いのドレスであった。本来私はそのドレスを着て、今日の誕生日パーティーに出る予定だったのだ。
私はもう一度鏡に映る自分の姿を見て、大きくため息を吐いたのだった。
「詩音お嬢様・・・」
「珠子さん。家の皆にもお願いしてある通り、お客様がいらっしゃる間だけは私を響として扱ってね」
「分かりました・・・しかし、お嬢様がお可哀想でお可哀想で・・・うう」
「ああ~もう珠子さん泣かないで!私は大丈夫だからか。だって珠子さんも知っての通り、昔からあの響に振り回されてよく響の代わりに男の格好させられていたでしょ?・・・まあお父様はその度心配してたけど・・・あれ?よくよく思い出したらお母様、その時から響と楽しそうに一緒になって私の男装に手を貸していたような・・・ある意味、響があんな性格になったのってお母様の影響が大きいかも・・・」
お母様のあののんびりした性格であまり気付いていなかったが、昔から響の事で苦労している時には、必ずお母様が絡んでいた事を思い出す。ただ本当に危ない事や絶対やってはいけない事は、やんわりとあの口調で諭されていた思い出はある。
そんな事を思いながら、まだ鼻をすすっている珠子に手伝われ身支度を整えたのだった。
────夕刻。早崎邸内の大広間。
大広間の中は、いつもの誕生日パーティー以上に豪華になっている。
今回は人数が多くなった事で立食パーティーとなり、広間には数々の豪華な料理がビュッフェ形式で並べられていた。
私が広間に入ると、礼服に身を包んだお父様、ドレスを着て可憐に微笑むお母様、そんな二人と談笑していた先輩方が私に気付き近付いてくる。
「ああ、早崎君。お誕生日おめでとう。その礼服、君の男の魅力が引き出されて良く似合っているね」
「高円寺先輩・・・男の魅力って・・・ありがとうございます・・・」
「響君!お誕生日おめでとう!皆の中で僕だけまだ誕生日来てないから、ちょっとの間だけ同い年だね!」
「ありがとうございます。しかし榊原先輩と同い年・・・何故だか複雑な気分です」
「おう!早崎!誕生日おめでとう!お前も一歩大人に近付いた事だし、もう少し体を鍛えた方が良いぞ!」
「ありがとうございます。ただ藤堂先輩はもう少し大人になって、人に運動を勧めてくるの止めて頂きたいです」
「早崎君、お誕生日おめでとう。この夏休み中勉強に励んで、夏休み明けの中間試験の順位期待しているからな」
「ありがとうございます。だけど桐林先輩・・・もうあんな順位取れないので期待しないで下さい」
口々にお祝いの言葉と共に余計な一言を付け加える四人に、顔を引きつらせながら答えていったのだった。
「あれ~?そう言えば妹の・・・詩音ちゃんはどうしたの?まだ着替え中?」
「いや・・・妹は今朝熱を出して寝込んでいるので、本日の誕生日パーティーは欠席する事になっています」
「そうなんだ~残念!一度妹の詩音ちゃんにも会ってみたかったんだけどね~」
「誠、仕方無いだろう。確かに私も一度お会いしたかったが、ご病気なら仕方が無い。お大事にとお伝えしておいてくれないか?」
「・・・分かりました。ありがとうございます」
榊原と高円寺に実はその妹は私だと言えず、罪悪感に苛まれながらお礼を言う。
「しかし、早崎君の妹はそんなに重い病気では無いと聞いているが・・・いつ頃復学予定なのか?」
「え~と、それは・・・」
桐林の問い掛けに、どう答えを返せば良いか返答に困ってしまう。
だって、響が見付かるまで復学出来ないから!いつ頃なんて答えられる訳無いんだよーーーー!!
「ああ・・・豊、それはあまり聞かない方が良いのかもしれないぞ?早崎が返答に困っている所を見ると・・・多分あまり病状良くないのかも」
「なるほど・・・」
「そ、そうなんです!藤堂先輩の言う通り、妹の病状はあまり良くなっていないのでもう暫く休学させる事にしてるんです。なのですみません、まだいつぐらいに復学出来るか今の段階ではお答え出来ないんですよ」
「・・・分かった。もうこれ以上は聞かない事にしよう。君の妹が早く良くなると良いな」
「はい!ありがとうございます」
なんとか藤堂のお陰で話を誤魔化す事に成功し、見付からないようにホッと胸を撫で下ろす。
「ではせっかく来て下さったので、皆さん楽しんでいって下さいね」
そうして今年は響がいない家族三人だけの、実はちょっと寂しいと思っていた誕生日パーティーになる予定が、最初は凄く迷惑だと思っていた先輩達が来たお陰で、結局なんだかんだとバタバタしながらも楽しい誕生日パーティーになったのであった。
大変盛り上がったパーティーも漸くお開きになり、先輩達は帰ろうとしていたのだが、さすがに夜も遅くここら辺は夜道が暗く危ない為、お父様が心配し今夜家に泊めてあげる事となったのだ。
榊原は素直に大喜びし、他の三人は申し訳無さそうな表情でその申し入れを受け入れていた。
そうして廊下で就寝の挨拶を交わし、私は自室に戻って行ったのだ。
私は自室に戻るとさっさと礼服を脱ぎ、胸に巻いていたサラシも取って解放感にホッと息を吐く。
そして寝間着に着替えようかと思ったが、ふと目の端にベッドに置いたままだった本来着る筈だったドレスが目に映り、徐に私はドレスに袖を通した。
ドレスを着て鏡の前に立ち、その場でクルリと一回転してみる。するとドレスの裾がフワリと広がりその様子に少し楽しくなった。
暫くドレス姿の自分を鏡で見ていた時、突然私の携帯の着信音が鳴り出す。
私は慌てて携帯電話を手に取り、そのディスプレイに表示された名前を見て驚きに目を見開いたのだった。
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