上空1600メートルのキス
強い風が吹き抜けた。単衣は上を見上げる。うららかな青空。次に足元を見下ろした。まるで東京全土のジオラマを上から見下ろしているかのような景色だった。
「う、うわあ!」
単衣は一歩踏み出せば足元がない状況に驚いて尻もちをついた。
「上空1600メートルの景色はどう?」
すぐ隣には足をだらんと垂らして座っている金髪でオッドアイの少女、シリエル・ロローがいた。
シリエルは単衣に密着するように身を寄せた。シリエルの純白の太ももが、単衣の太ももにくっつく。シリエルの肩と腕が、単衣の腕にくっつく。星葉学園の制服越しに伝わる、金髪少女の感触。
「ねえ八意くん。あなたの両親のことを教えてあげる。本当は言っちゃいけないんだけど、特別に」
そんなことを言うシリエルの頬は紅かった。
「ど、どうして」
林と友里以外の女性に耐性がない単衣は、シリエルにとてもドキドキしていた。
「あなた、格好良いもの」
「ええ……」
単衣はその言葉に引いた。自身の顔の醜さを知っている単衣が、もっとも信用できない言葉の一つを彼女は言ったのだ。
「八意くん。あなたがその顔にコンプレックスを抱いていることは知っているわ。でもね」
シリエルは単衣の頬に手をそえた。そしてゆっくりと単衣の顔に自身の顔を寄せる。そして色白の肌にある紅い唇が、単衣の唇と重なった。
それは初めて林以外の女性とするキスだった。単衣は咄嗟にシリエルから離れる。
(き、キスされた)
途端に顔が紅くなる単衣。呼吸は荒くなって、心臓がどくんどくんと力強く脈打っていた。
「八意くん。いえ、単衣」
離れた単衣を追うようにシリエルが近寄った。
「私はあなたとキスできる」
それは、かつて単衣が友里に言われた言葉を否定するような言葉だった。
「枝垂林はあなたの見た目を愛せない。何故なら、彼女は目が見えないから」
シリエルが言った。
「目が見える私なら、あなたの見た目含め全部を愛せるわ」
その言葉は、単衣がもっとも聞きたかった、夢のような言葉だった。
「ハゼスの一員として、枝垂林の恋人であるあなたをずっと見てきた」
シリエルが語る。オッドアイの彼女の瞳がまっすぐ単衣の目を捉えていた。
「単衣、あなたは格好良い」
単衣はその言葉にどきっとした。実際にキスをしてみせた彼女だからこその説得力。
「私は、単衣が好き」
シリエルは頬を紅くしながらも、真っ直ぐに単衣を見てその言葉を言い放った。
「私のものとなって、単衣」
「認めません」
聞き慣れた声が響いた。単衣とシリエルは辺りを見渡す。しかしどこにもその姿はいない。
「下ですよ」
その言葉を聞いて単衣とシリエルは下を見下ろした。小さな東京の街並みが見えるのみ。しかし目の良い単衣は林の姿を捉えていた。東京スタースピアの地上から600メートル程のところに、 白髪のポニーテールを風になびかせ、巫女装束を着た少女が刀を携えて立っている。
「二人のやり取りはずっと聞いていました」
魔法で送られてくるその声には怒気がこもっていた。
「単衣。ロローにキスされましたね」
単衣はその言葉に決まりが悪い。
「お仕置きに、あとでいっぱいキスしてやりますから。覚悟しなさい」
単衣はほっと胸をなでおろした。
「さて、シリエル・ロロー。あなたに単衣は渡しません」
林はそう言って鞘に手を掛け、構えた。
「私の愛に、あなたは勝てますか」
林のその言葉に、シリエルは顔を歪ませた。笑っているような、怒っている様な顔。
「はは! 良いよ。掛かってきなよ!」
そう言うとシリエルは魔法陣を展開した。
「私は召喚と転送の魔法をずっと研究してきた」
魔法陣が光り輝く。そしてそこから沢山の飛行型ドローンが召喚されていく。
「私の召喚魔法で、あなたの愛に勝つ!」
100、200程のドローンが一斉に林の方へ向かった。
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