幼馴染みの手芸男子はお嫁さんになりたい
@hasegawatomo
第1話 お嫁さんにしてください×100
「何回言えばいいんだ?」
「回数の問題じゃない」
「じゃ、何が望み?」
「平和」
「俺といたら、平和じゃん」
「いや、毎日がテロだ」
「じゃ、どうしたらいい?」
「黙れ」
「その他には?」
「消えろ」
「その他には?」
「帰る」
そう言って彼女は教室を後にした。教室に取り残されたこの男は城咲ツミキ、高校1年生。さっき出て行った女は北条八雲、同じく高校1年生。この二人、家が隣で、いわゆる王道の幼馴染。保育園、小学校、中学校、そして高校。ずっと一緒に育ってきた。中学校からは、ツミキが八雲を追いかけまわした結果であるが。
ことあるごとにツミキは八雲に言う。
「お嫁さんにしてください」
はじめて覚えた言葉がそれなんじゃないかと思うくらいだ。そのたび八雲は顔をゆがませた。保育園の園庭でかくれんぼの途中に、花壇の前に座って、小学校の鉄棒を回りながら、プールの中で、中学校の登校中、職員室に呼ばれた後、そして高校、帰り際。もうシチュエーションを挙げたらきりがない。
ツミキにはいいお嫁さんになる覚悟・自信があった。何でもできた。八雲をずっと見てきた。保育園の時からずっと、八雲を守りたくて彼女の前に立ちはだかった。全員、追い返した。喧嘩にも負けなかった。八雲を慰めて、笑顔にすることもできた。
(なのに)
ツミキは教室の窓の外を見ながら考えていた。俺は完璧なのにと。窓ガラスに自分が写っている。もちろん顔にも自信があった。告白されっぱなしの人生だった。何人フッたことか。その度にまわりの友達からもったいないと言われていた。でも、ツミキにとって八雲以外の女子から好かれることは、全く無意味だった。
(よし、明日こそ)
そう決めて、スーパーに寄って帰ることにした。
*
「これはなんだ」
「キャラ弁」
「これを食えと」
「トトロだぞ」
「キャラクターの問題じゃない」
「猫バスにしようか迷ったんだけどさ」
「猫は嫌いだ」
「知ってる」
「だからトトロか」
「そう。食べてよ」
「私、お弁当ある」
「それ俺が食べるから。交換っ!」
八雲はもう諦めた。このやり取りを、教室のみんなに見られているようで恥ずかしかった。わざわざ別の教室から来て、しかも大声で呼んで、キャラ弁を持ってきて。こうやってご機嫌をとろうとしているツミキの、一方的な行動にこれから先もつき合わされるのかと思うと、八雲は肩を下した、肩が外れるくらいに。
ツミキが自分の何がいいのか、八雲にはわからなかった、16年間ずっと。幼馴染だから、一緒にいるのは当たり前だった。だが、ツミキがお嫁さんにしてくれと初めて言った時から、それはあり得ないとういう気持ちしか湧いてこないのだった。
勉強も運動も何もかもできて、顔もそこそこ良いツミキには、もっとかわいいレベルのあった子が似合うと思っている。だから小学生の時から、なるべく突き放すようにしてきた。だが、当の本人は気がつかず、全く離れようとしない。また肩を下す。
(努力が実らないって言葉を現実にしたら、こんな感じなんだろうな)
(キャラ弁が重い)
つづく
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