《◎200話記念SS◎ ~気になるあの人! コーテナ&ルノアの突撃インタビュー⑧~ 》

 王城のバルコニーにて一同は待つ。


 この国を束ねるファルザローブ王族の姫君にして、精霊騎士団を指揮する若き騎士団長……”ルードヴェキラ”。


 その左右には従者である騎士エーデルワイス。その妹気味のイベル。難攻不落のボディガード二人を引き連れ、彼女は笑顔で出迎えた。


「ようこそ、いらっしゃいました」

 人前では常に頑固とした生真面目なイメージで振舞っている彼女。

 しかし実際は……人懐っこく、そこらのおてんば娘のように賑やかな少女だ。とはいえ、今は王城の中、騎士団長として騎士隊の装束を身に纏う彼女は落ち着いた物腰でコーテナ達を出迎える。


 相手はフレンドリーなのだから気兼ねなく喋るといいだなんて耳にしたが、やはり、こうして真面目モードの彼女と向き合うと緊張が募る。事情を知らないルノアに至っては緊張のあまり風船のようにどこかで飛んで行ってしまいそうだ。



「そ、それではルードヴェキラ騎士団長! インタビューの方を」

「とその前に」

 

 人差し指をそっと自身の口に添えたルードヴェキラが左右にそれぞれ目を向ける。


「お二方も、答えてはいかがでしょうか」


 エーデルワイスとイベル。二人もインタビューに答えてはどうだと提案したのだ。


「私が、インタビューに?」

 戸惑いつつも、エーデルワイスはマイクへ目を向ける。

「質問、返答。私は問題、ない」

 イベルも相変わらずのキレが悪い喋り方で、インタビューに答えること自体は特に問題はないことを一同に告げた。


「……ごほん、皆様がよろしければ」


 騎士団長の従者である騎士。王都でも有名なイケメン二枚目騎士として有名な彼にインタビュー出来るのは貴重な経験である。そこらで反対する者など、いるはずもないのであった。


『私はエーデルワイス・レッドクレーンと申します。王都の騎士にして、ファルザローブ王家の従者。騎士団長にして姫君でございまするルードヴェキラ様に仕えております』

 ニコリと笑う姿は本当に清々しく、そこらの女性なら落ちてしまいそうだ。現にルノアはその美しさに見惚れながらマイクを握っている。


『趣味は写真と絵画を少々』

「兄様、は絵画、で写本、を出している。美的、おすすめ」

 どうやら、エーデルワイスという名前を伏せて一つの美術本を出したことがあるそうだが、これはまた見事なもので芸術界の間では見事な評価を出している。イケメンな上に芸術家、ズルい要素が多すぎて、世の中の男たちの嫉妬が止まらない。


「私からは以上で」


 特に長く語ることはない。謙虚な一面もまた、彼の魅力であろう。



『自分、はイベル。イベル・レッドクレーン。エーデルワイス兄様、の妹君』


 小柄な少女はエーデルワイスの妹。落ち着きがあって、礼儀正しい一面は本当にそっくりかもしれない。ただ、兄と違って感情表現が乏しく、笑う事も泣く事もしない、そもそも怒っているのか悲しんでいるのかもわかりづらいのだ。


『趣味、は散歩。特技、は偵察。見つかったことはない』


 最初の頃、ラチェットは彼女の事を”冷酷なツインテール”だなんて裏口を叩いていたものである。偵察が特技だと言っているが、その後に”暗殺”だなんてワードに続きそうでちょっと怯えてしまう。


『以上』


 彼女もまた、エーデルワイス同様に長くは語らなかった。





 ……二人とも、本日の主役に華を添えるために謙虚になっているのだろう。二人はインタビューを終えると、そそくさと後ろへ下がっていく。

 主役であるルードヴェキラ。次はいよいよ、この国の姫君である彼女へのインタビューだ。多忙なスケジュールの合間、そして王城にファルザローブ王が不在というこの状況、全ての好条件が見事に出揃い、数年に一度チャンスがあるかないかのインタビューを今、ここで実現させようとしている。


 緊張がマックスに至る。

 ルノアは震えながら、コーテナは笑顔でマイクをルードヴェキラへと傾けた。



『私の名は、ルードヴェキラ・ファルザローブ。精霊騎士団の団長です』


 胸に手を当て、高らかに宣言する。


『今は騎士団として、姫君として娯楽を嗜む時間はございませんが……幼い頃はバイオリンやピアノを嗜んでいました。小さい頃は、城下で喫茶店に出向くのが日課でしたね』


 あらゆるインタビューが過去形である。騎士団長という身分であるために遊びに身を投じている時間はない。そう思わせるかのようなインタビューである。


 ……とかいいつつも、合間を見て、彼女は今も娯楽を嗜んでいる気配はある。彼女は”ルゥ”と名乗る観光客に変装して、城下町や王都の外の観光名所などあらゆる地を旅してまわっている事をエーデルワイスから聞いている。


 だが、それは実際遊びのためではなく、各地で起きている異変を調査するために自らの脚で駆けつけているに過ぎない。彼女のインタビュー内容にはそれといって間違いはない。


 ……明らかにその調査を旅行として楽しんでいる一面を疑うが。実際、城下町でたまに彼女を見かけるが、明らかに食べ歩きを楽しんでいるように見えた。


『国を統べる者として、精霊騎士団の長として。どうか、これからもよろしくお願いいたします』


 長いインタビューを終え、ルードヴェキラは深く頭を下げた。

 息抜きはしているが、騎士団長としての任を果たしているのは事実。現に彼女の赴いた地はあらゆる難題を乗り越えたのだという。


 王都で数多く巻き起こる事件。

 騎士団長、そして彼女が束ねる騎士たちの活躍あっての、平和と言えるのだろう。

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