PAGE.202「異端に狂う革命(後編)」
更なる大進化を遂げたウィグマは喜びのあまり更なる雄叫び。
ジャングルに住まう大猿のように自身の胸を何度も殴っては声を上げる。そこには人間らしい仕草や一面は微塵に消え去っていた。
「さぁ、第二ラウンドだ……私の夢のために消えてもらうぞ!」
「この街を魔物の国に変えて、何をする気なんだよ! そもそも、なんでこの街の人間達を魔物に変える必要がある!?」
アクセルはウィグマに問う。
ただ、世界を支配したいだけなのか。それだけの欲求のためだけに世界を滅ぼすのかと、もともとは人間であった怪物に問いかける。
「……必要はあるともさ。この国の人間は、あまりにも“無能”だからだ」
ウィグマは両手を組みながら、理由を語る。
その仕草は化け物に変貌する前の彼らしい仕草。理由を話しているその一瞬だけ、人間らしい光景を見せる。
「魔物の研究さえ進めば人類は新たなステップを踏むことが出来る……しかし、この国は私の研究は恐ろしいだけでリスクが多いと吐き捨てた。試しもせずに、私の研究は無能だと吐き捨てたのだ!!」
声に怒りが籠っているのが伝わっている。
「気が付けば私は無能の烙印を押され、他の研究者達のどうでもいい研究のみが評価されていく……他の奴らの研究は進化などではない! 私が最も嫌う、中途半端な安定を生み出すだけだ!!」
両手を天に掲げ、彼はその夢を口にする。
「私は独自に研究し結果を生み出した! 私は進化を証明したのだ……真の無能は周りであることを証明したのだ。だからこそ、周りも私の慈悲で有能な存在に変えてやろうと言っているのだよ」
……聞いているだけでも自分勝手な奴であることは伺える。
何が慈悲だ。そこまで上からでモノを言われると嫌悪感が異常にこみ上げる。
「私はこの国の王となり、新しい世界の創造を、」
「下らないな。自己満足も甚だしい」
男の声。
「!?」
それと共に大量に浴びせられる炎の弾丸。
「ぐっ、ぐおおおおっ……!?」
メテオだ。サッカーボールサイズの大きさの小隕石が大量にウィグマの体へと浴びせられる。
「彼女達の一件がどれほどのものかと踏み込んではみたが……これほどとはな」
隕石の雨はウィグマの体に触れると爆発を繰り返し、次第に彼の体は爆炎によって消え去っていく。
「何が進化だ。お前は魔物に魂を売っただけ……こんなもの、進化といえるものか。人間としての誇りの放棄でしかない」
アルカドアの砦の上に現れた第三者。
「お前はッ……!?」
夕暮れの日差しが、その人物のアンクルを光らせる。
“エドワード”だ。
魔導書を片手に、呆れたような表情を浮かべメテオの雨を止める。
「人間の命を魔物に売り払う……そんな正気の沙汰ではない研究に、人間らしく生きることを望んでいる王と騎士団長、そして、ココで暮らす全ての人間が許すものか。貴様は王などではない、ただの反逆者だ」
「……くっはっは! 黙れ!!」
爆炎の中から現れるのは無傷のウィグマ。あれだけの爆炎を浴びたというのに何一つとして苦しみを浮かべていない。
「研究に犠牲はつきもの! それさえも分からない劣等種が! 新たな世界への一歩を放棄した貴様らこそが、誇りを持たぬ下等生物以外に他ならないではないか!!」
「……最早、手遅れか。命の重みすら忘れた貴様は、もう人間ではない」
エドワードは背を向けると、新たに魔導書を開いた。
「底辺共。奴は俺がやる。貴様らは飛び回る魔物を仕留めろ」
回復手段を経つ。その方法は紛れもない正攻法ではあるだろう。
……しかし、その数は無尽蔵。
どれだけ叩き落そうが、時間の無駄である。それならば、先にウィグマを仕留めることが先決である気がしなくもない。
「やるって言っても、どう倒すんだヨ。この化け物……!」
「あんなのを倒してもキリがねぇ! 本丸をぶん殴る! それが手っ取り早いだろうが!」
故にアクセルは真正面から再びウィグマに飛びかかる。
「底辺がッ……!」
エドワードは思わず苦嘆する。
右ストレートが胸に命中。アクセルはウィグマの心臓部へ可能な限りの風圧をぶつける。
「分からんのかッ! 貴様たちではあの怪物を仕留める方法がないッ! 時間稼ぎにもなるものかッ! 僕の攻撃の邪魔にもなるという事を理解できないほど学習能力がないのか貴様はッ!」
説教をするも既に遅い。
「効かん!!」
先程とは比べ物にならない進化。その上時間を与え過ぎたが故に体への順応を行ってしまったウィグマにはもうその手段は通用しない。
アクセルの体を片手で掴み上げると、そのまま地面へと叩きつける。ミンチにしてやろうと押し潰していく。
「まずは貴様を臣下に変えてやろう」
「ぐっ……がぁああっ!?」
叩きつけられる寸前に衝撃を和らげようと背中に風圧を集める。それを利用してウィグマに対抗しているがその力の差は圧倒的でアクセルは苦しむ一方。
押し潰される。このままではアクセルはミンチにされてしまう。
(くそっ……これじゃ狙えネェ……!)
一番火力のあるロケットランチャーや対艦ライフルを使えば、爆発に彼を巻き込んでしまう。今のラチェットにはウィグマに対抗する手段がない。
(助けねぇと……助けないと、アイツがッ……!)
何か方法はないのか。ラチェットは必死に頭を掻き回す。
(何か……何かッ!!)
早くしなければ、アクセルが死ぬ。
(何か方法は……!?)
ロケットランチャー以外に有用な高威力の武器を連想するが何も出てこない。それ以上の武器は力が足りないのか呼び出すことが出来ない。
打ち震える。
ラチェットは気が付けば、アクロケミスを持つ手が震えている。
(俺は、またっ……またッ!!)
“何か打つ手はないのか”
認めない。どうにもできないなんて認められない。だけど、折れつつある心。
(俺はまた……“無力”なままなのか……ッ!!)
どうしようもない現実に、体の意思とは真逆にアクロケミスを持つ手が下ろされようとしていた。
《委ねなさい》
頭から聞こえてきた声。
《私の声を聴きなさい》
突如頭に起こる頭痛。そして、一瞬の眩暈。
……蜃気楼のように歪む風景。目の前の風景が、まるで鏡写しのように反転する。
ラチェットの目に映るのは、自身の背中側の風景。さっきまでいたはずのウィグマとアクセルの姿が視界から消え去っている。それどころか、その場にいたはずのエドワードに大量の魔物達すらもその世界から消えて居なくなる。
歪んだ空。見慣れぬ色の世界。ラチェットはただ一人、鏡を見つめる。
“何者”かがそこにいる。
《私に、また一度、その身を委ねなさい》
白いローブを身に纏い、植物のような真緑の髪が風に靡く。
「お前は……?」
誰もいない世界の中で。
“ラチェットと同じ仮面を着けた、女性の天使”と出会ったのだ。
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