道連れフロンティア

九羽原らむだ

プロローグ 『異譚 運命の日』

 


 愛を知らぬ者は破滅の道を踏む。

 愛を知った者は破壊の意図へ迫る。


 生きた命は新たな世界を創り、

 死した命は新たな意義と思想となる。


 その命。意味のあるものなのか。

 彼らはそう問いかけたいのだ----




 ----とある世界の酒場。

 時は既に夕暮れ時。家族連れで食事を楽しむ者、仕事終わりの褒美に一杯飲みに来る者。公共の場であることを弁えず些細なトラブルで殴り合いの喧嘩に発展する者もいるし、その喧嘩を演劇代わりに見て楽しみながら茶々を入れる馬鹿野郎もいる。


 この酒場はいつも騒がしい。

 静まり返るところを見たことがない。騒音に喧嘩何でもござれのこの無法地帯は最早日常茶飯事らしく、それを気に掛ける人もいない。雪合戦の感覚でジョッキに灰皿にバッグなどが飛び交っている。


 スパルタ達が熾烈を極めるコロッセオの如く騒がしいこの環境。

 今日もこの酒場は平和だ。いつも通りの平和な日常なんだ。


 ……だが、いつもほんの一時だけ静まり返る時間がある。


 基本的には騒がしいことがほとんどのこの酒場だが。

 


「失礼いたします……うんうん。今日もはしゃいでおられますね~?」

「あっ!? おい皆っ、来たぞ!!」

 -----一人の男の号令と共に酒場の騒ぎ声が一気に静まり返る。

 今までのドンチャン騒ぎはまるで嘘のように。一同はエサを待つ犬のようにピタリと動きを止める。

「ありがとうございます。では皆さん、改めまして『ご静聴』」

 ----直後に聞こえてきたのはピアノの音だ。

 心を潤す旋律に音色。一同はその音色に心を奪われる。

「今宵のお話は前の続きと参りましょう~」

 ピアノを奏でる女性は綺麗な長髪を靡かせ、旋律に言葉を乗せる。

「このお話は世界に光をもたらした賛歌の物語」

 酒場の客たちはその言葉に耳を傾ける。


暗黒やみ極白ひかり。その双極きぼうがもたらす物語」



             ・

             ・

             ・




 -----時は何処いずこかの世界。

 ここは数多くの地獄を生み出した悪夢のデスマウンテン山頂。


 世界は暗雲に飲み込まれつつありました。

 絶望の象徴ともいえる地獄と化した世界の真ん中。そこで戦いは起きた。


「……終わりにするよ。もう、全部。何もかも」


 背中の黒い翼。黒き獣皮に包まれた無垢なる悪魔。

 悪魔は悲哀と恐怖をあたり一面へとまき散らしている。


「だったら俺も、その絶望を終わりにしてやる」


 それに対抗するは白き翼の戦士。

 その姿はまさしく天から舞い降りた天使のよう。天からの使いと告げられた白の天使は悪魔に向けて正義の剣を向ける。



 -----天使は想う。


 『終わらせよう。』

 『そして約束を果たそう。』

 『一緒に帰るのだ。あの場所へ。』

 天使は翼を広げ、その剣を悪魔の胸へと突き立てた。




 瞬間、世界は極光に包まれた----




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 この物語は世界を救う英雄の話ではない。

 悪魔という存在から希望を守る『人類万歳』を称した遺作でもない。


 ----これは二人の少年少女こどもの物語。


 その身を顧みぬ【黒き孤心の少年】。

 純粋無垢な【白き爛漫な少女】。


 それでは諸君、物語のページを開いてもらおう。

 これから始まるのは……世界すらも道連れにしてしまった。


 二人の少年少女の友情の物語。

 今を生きる者達の物語おはなしでございます。

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