第123話 高度一万メートル
正巳達が降下していた頃、その上空には一機の飛行機と、その収容可能量の割には少なすぎる乗組員がいた。
二人は大人の男性であり、20人余りは衰弱した様子の子供達。そして、その子供達の中心には、白いモフモフとした猫がいた。
◆
正巳達が降下した後、再びアラームと共に後部ハッチが閉じた。
その姿を最後まで見送っていたガウスは、敬礼を解いた。
そして、到着後の準備をする為に振り向く。
……そこには20余名の子供達と、その子供達の様子を確認して回るデウの姿が有った。
施設の制圧に回っていた筈のデウだったが、ガウス達の救出した子供達と合流した後は、ずっとこの調子だった。
……子供の面倒を見る癖が染み付いているのか、単にそういう役割なのか。
何方にしても、子供が好きなのは間違いないだろう。
デウの、子供に対する接し方を見れば、それが分かる。
少しの間、デウと子供達の様子を見ていると、
「あ、どうも。
デウは、正巳の事を『兄い』と呼んで慕っている。
正巳の他に、もう一人"兄"のような存在がいるらしい。が、そちらは何方かと言えば、兄弟でも"双子の兄"のような存在らしい。
「ええ、それにしても……何者なんでしょうか?」
色々な意味を含ませた言葉だったが、その問いに対してデウは苦笑した。
「まあ、色々と可笑しいですからね……ガウスさんが2か月間見て来た、そのままですよ」
「"そのまま"ですか……」
呟きながら、(一緒に居ればいるほど、底が分からなくなって来るんだよな)と考えていた。……それこそ、今も
"今も"と言うのは、"空を飛んでいる今も"と言う事だ。
そもそも、"全翼機"を飛ばしていること自体異常事態だ。
コントロールが難しい機体故に、操縦士の育成が難しいのだ。
……確認はしていないが、操縦士の顔も見た事が無い。
まあ、微妙なコントロール自体は機械で行えば良いが、その機械を開発するには数百、数千億円規模の費用がかかる。
――いや、現状で実用化できていない国が多い事から、幾ら金を掛けたからと言って、実現できるような部類では無いかも知れない。
それに、今居るのが"日本国上空"と言うのも普通じゃない。
……飛ばすだけであれば問題ない。
この機体の特性上、ある程度注意をすればステルス性も高いだろう。
しかし、幾ら何でも"国土上空"を発見されずに飛行できる訳がない。
更に、この地域には米軍基地がある。
国防及び基地防衛の関係上、最新の
普通であれば、
しかし、一向にその気配が無い。
先ほどの
確かに、一般機でも空港は使用できる。
ただ、そんなに簡単には行かないだろう。
……少なくとも、『あ、電話しといた~』のようなノリでは無いはずだ。
それだけではない。
……それだけであれば、まだ良い。
問題なのは、『明日0300時までにお願いします』と言う内容だ。
『0300時』つまり、朝3時と言うと、今から約4時間後だ。
当然、『それは難しいかと……』と答えようとしたのだが、上司であるザイが『承知しました』と先に答えてしまった。
これは感であるが、ここからどうするかで、自分の将来が決まる気がする。
……この飛行機は、元々戦略級輸送機だ。
当然、中に大型車両を積む事も出来る。
しかし、仮にそれが出来たとしても、再び戻って来た時にこちらの空港に着陸しなくてはならない。……この国で数年のキャリアが有れば、そのようなコネが用意できているかも知れない。
が、現状でその様な力はない。
(……何とかしなくてはいけない)
色々と考え始めたガウスだったが、この時点のガウスは、正巳の
――
しかし、直ぐにボス吉の声がしたので、そちらに顔を向けた。
ボス吉の視線の先には、膝を少し曲げながらも、必死に踏ん張っている子供がいた。
見ると、片方の膝からは血が出ており、もう片方の膝は変形している。
……同じような事が、これまでも何度かあった。
子供達は、不安なのだ。
初めは、自分達が何をされるかの不安がある。しかし、その不安が
恐らく、改善するであろう環境。
その環境から、自分だけが捨てられてしまう不安。
これは時間を掛けて、態度で示して行くしかない。
……恐らく、子供達が言う事をよく聞くのも、この不安が有るからだろう。
そんな、不安の影を纏っている子供達を見ていたが、ふと(自分も同じだったな)と思い出した。上原や今井と出合い、正巳と出合った時……
あの時は、心の何処かで"役に立たなかったら捨てられる"と思っていた。
正巳は何やら勘違いしていたみたいだったので、『上司に復讐をする!』等と言ったが……その根底には、"捨てられたくない"と言う思いがあった。
不安が付きまとっていた。
しかし、正巳は常にこちらを気にしてくれた。
――いつも寄り添ってくれた。
正巳の心配や気遣い、それが分かった。
――いつの間にか不安が無くなっていた。
不安が無くなった事に気が付いた時、正巳も何処か嬉しそうな表情を浮かべていた気がする。その表情は、恐らく"勘違い"を含んだモノであったが、とても尊いものだった。
そんな事を懐かしく思い出しながら、子供に声を掛けた。
――その子供は、デウが分かる言葉を話す事が出来た。
そこで『心配ないよ』と言ってから抱き上げると、簡易ベッドの上に寝かせ、消毒をし始めた。
子供の膝の処置が終わったタイミングで、再びアラームが鳴った。
――このアラームは、着陸態勢に入る際に鳴るアラームだ。
デウは、アラームの音を聞きながら、懐かしい顔を思い浮かべていた。
「……カズ兄」
本人に『カズ兄』などと話しかけた事は無い。
しかし半年経ってみて、"上原和一"の心配りに気付かされた。
……何となく、心の中で『兄』と、呼びたくなっていたのだ。
そんな事を考えていたら、徐々に機体の高度が下がり始めたので、興奮で温まって来た頭を冷ましながら、子供達に集まるように話しかけた。
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