48話Bar2/レッツゴー
話し合い簡単な作戦を決め、各々動き始めてから10分が経っていた。
やることは単純で3つの組に分け店を包囲、奇襲し殲滅するというモノ。一応、勧告はする手筈だが突っぱねられるだろう。
対象は従業員だけのつもりだったのだが、シャウラさんからの助言により店の連中も襲ってくる可能性が非常に高く話を聞く耳を持つとは到底考えられない。と言う事で一緒に倒す事となっていた。
彼女にはガーエーションの防衛を頼んでいるというか、すると言い出し恐らく今も酒を飲んでいる。
「で、なんでリネまで来てるわけ」
正面から突入する部隊はエミリア、ツバキ、ガリアードそして彼の腕に抱きついているリネ。
エミリアとツバキの2人は旅人もしくは冒険者に見えるのようにフードがついたローブで身を包み、服装もそれっぽいものを着ていた。
彼女らはスノージュームから伸びる律儀に行列に並び、順番を待っていた。
「いいではありませんか。それに、此方の方が疑われにくいでありんす」
一理あるが、それ以上に。
「守らないよ?」
「ガリアードさんに守って貰うから平気でありんす」
「俺もしらねーぞ……」
「言っとくけどあたしも無理だからね。店ん中突っ込むし」
一応、小声で会話をしているが、周囲の連中は気にも留めていない様子であった。
空腹で周囲の事など、お構いなし。と言った所か。
『アンナは大丈夫?』
屋上に配置しているアンナにテレパシーを送った。
『こ、怖いですー!!!!』
屋根の中央から伸び先に風見鶏が付いている1本の棒にしがみつき予め変身しているアンナはそう返答した。
『あーらら、変わってあげれたら良かったんだけど……ま、もう少しの辛抱だから我慢して』
『はい~、なんとか我慢しますー! なので速くー!!!』
『流石にそれは、相手側に言って』
『ふと思ったんだが、なんで律儀に並んでるんだ?』
裏手担当となった俺は木の上に座り出入りの激しい裏口を眺めていた。
━━潜みやすい小さな体は本当に便利だな。だが、何か焦ってるように見えるけど、バレてるか? いや、バレてたとしたら向こうも動いてるか。
『単純に入り口付近の敵戦力への奇襲がしやすい。のと、この状態で馬鹿正直に襲ってもあの人の助言通りなら、たどり着くまでに色々となぎ倒す必要がありそうだからね。確実性を取ったまで。ちょっと馬鹿っぽいのが難点だけどね』
「ならなんとかするでありんす」
エミリア達の番が近づき、静かに戦闘準備がなされていく。
「そういや、弓は?」
ツバキのローブの影から矢筒は見えるが、肝心の弓が何処にも見当たらなかった。
「ん、大丈夫。奪うから」
「奪うって……勇ましい事で」
「エミリアちゃんほどじゃないと思うがね。店に突っ込むってどうよ」
「そういうガリアードは、臆病者なのかしら?」
「っへ、臆病なら此方側に来ちゃいねぇよ」
「そうでありんす。ガリアードさんは勇敢でありんすっ」
「おーけー、なら頼りにしてるわよっ!」
前の客が店の中に案内されるタイミングで、エミリアはローブを脱ぎ捨て客を押しのけ案内を使用としていた不自然に仮面を従業員を取り押さえる。
「っく、いきなり何を!?」
「憲兵だ。この店で良からぬ事をしてるって報告を受けてな。調べさせてもらうぞ」
ツバキ達は入り口を塞ぐように陣取り、締めあげる手を強めつつ周囲の状況を観察していく。
━━敵は近くに5。うち2人が仮面つけてて、中は大盛況。この数に挟まれるとやばいけど。
「……なるほど、ならばオーナーからの伝言だ。ようこそ。我が虚城へ。"魔法少女共"」
おさえていた男の仮面が外れ、その下には深く酷いクマがあり、腕と足が形を変え始めていた。
罠か。
「っち、ガリアードどいて!! 変身!!」
「あいよ」
手を離し、彼女の体は光りに包まれ同時に彼が離れると、立ち上がろうとする変異体を店内へと蹴り飛ばした。
『アンナ!!!』
光りが弾けると同時にナイフを右手に生成する。
「ふー、よし!」
棒を握りしめ、立ち上がるとワンドの先を下、店の中へと向ける。
アクアバルカンは、命中率が悪く水の玉1発の威力自体が低いうえ周囲への被害が大きい。そのためこれまでは牽制や足止めを主眼に置かれ使用されていた。
だが、広範囲にばら撒かれ、目標が大量にかつ町中でも家屋を破壊しても良い状況の場合。
「少し、料理が勿体無いですけど」
この魔法は最大限の威力を発揮する。
「麻薬が混入しているなら、もう駄目ですよね。アクアバルカン!!!」
ワンドの先から水の玉がばら撒かれ、屋根をやすやすと貫通すると店内に雨のように降り注ぐ。
「うへぇ、こりゃひでぇや」
ガリアードが苦笑いを浮かべながら阿鼻叫喚の地獄絵図となっている店内を見てそう呟いた。
「くそ、お前ら! このままだと料理が食えないぞ!! 嫌ならそいつらを片付けろ!!!」
入り口に近くにいて難を逃れた従業員の1人が、そう叫ぶと呆けて並んでいた連中の眼の色が変わり各々武器を持って入り口を包囲し始める。
「のんびり、してる暇、ないみたいだよ」
「みたいね」
ナイフを投げ飛ばし、従業員の額に命中すると倒れ黒い玉が排出され、続いて片手剣を生成し従業員に斬りかかっていく。
「入り口は任せな。予定通り死守してやる」
そう叫びガリアードは襲い掛かってくる傭兵や住民の攻撃を受け止め蹴り飛ばし、受け流し槍の柄で殴り倒していく。
ツバキは彼の隙を埋めるように、死角となる位置に居る奴を蹴り飛ばすと至近距離で射られた矢を蹴り落とし、弓を持つ手を蹴り上げた。
「それ、頂戴」
矢筒から矢を抜き取り、男の顔を踏み台に跳び上がると弓を掴み即座に矢をつがえながら体を捻り矢を引く。射られたそれはガリアードの頭の上を通り彼に向かって振りかぶっていた腕に命中し音を立てて剣を落とした。
「さんきゅ」
男は
「エミリア、此方は気にしなくていい」
彼女は伝えると、弓を引いた。
「おらおらおら、来いよ老いぼれ共ォー!!」
「分かってる、頼むわよ!」
店内への侵入を防いでいた敵を無力化したエミリアは、アクアバルカンによる攻撃が止んだ店内へと足を踏み入れた。
「こ、こんなものでしょうか」
アンナは自分で開けた穴を覗き込む。すると、ギョロギョロ動く目が見え小さい声で、ひぃ! と悲鳴を上げた瞬間、バキッと木が折れるような音がし。
「ちょ、まっ━━」
体に浮遊感を感じ、直後落下し始める。
「うそぉぉおおお!!!」
涙目で両手でスカートを抑えそのままボロボロのテーブルの上に、落ちソレを破壊して尻もちをつく。
「いたた……魔力の肩代わりがなかったら大怪我してますよーもー!」
「随分とダイナミックね」
アンナの目の前に土の壁が生成され、次の瞬間壁に何かがぶつかったような音が聞こえ衝撃により亀裂が入る。
「好きでこんな入店の仕方しませんよ」
立ち上がり埃を払うと、周囲を見渡しはじめた。
「それもそうか。囲まれてるけど、平気?」
エミリアは攻撃を捌き、彼女の元まで行くと背中合わせになるように立つ。
2人の周囲には計3体の変異体。
全て形状は微妙に違えど、その全てが四つん這いで移動し四肢が長く特に強化されている。
「しま、しま……」
1体の変異体がそう口走り、アンナはスカートを抑えムッとする。
「押さえてどうかした? アタック」
問いかけながら牽制するように、ウィンドカッターを放つ。
「覗かれたみたいです。随分とえっちな方なんでしょうね」
「あーぁ、そりゃ災難ね。じゃ、早めに処理しないと、寝っ転がってる被害者諸君にまた、覗かれちゃうかもしれないわね。ランスクリフト」
左手にランスを生成する。
「ですね。迅速に対処しましょう。ファイアキュート」
◇
「よっと」
攻撃が開始され少ししてから木から飛びたち、裏口の前へと急降下していき、ドアノブを回しドアを開けると中へと侵入した。
バックヤード部分は広く色々な食材が置かれ、枯れているリカーサップが複数確認出来た。が、アレだけ出入りが激しかったにも関わらず敵の姿は誰一人として見えない。
「だ、だぁれ?」
「お、おい。だいじょ……」
なんとかまだ完全に枯れていなかったリカーサップが、弱々しい反応を示し彼女の元によっていくと、更に後ろで枯れ果てている個体を複数確認する。
ドクンッと、小さい心臓が大きく波打つ。
「おや、コチラにも敵が居ましたか。そうか。馬鹿正直に正面からのみと思っていましたが、甘く見すぎていたようですね」
奥のドアが開き、1人の中年の男性が現れる。
「なぁ、おっさん。あんたが此処の責任者か」
伸ばされたツルに触り、小さい手で握る。
「だとしたら、どうすると?」
「決まってる━━」
俺の脳裏にガーエーションのリカーサップの皆が写り、最後にローゼの顔が、元気だった彼女の笑顔が浮かび上がってくる。
「殴り飛ばすだけだ。ゲス野郎」
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