35話Village/話聞いたり……

「んー、これが何の役に立つんでしょうね?」


 翌日。俺とアンナは村を改めて見て回るついでに、昨日エミリアに言われたとある事を村人に聞いて回っていた。

 それは、村の被害状況とどの家畜を何処で飼っているか。という言わば分布を調べてくれ。というものであった。


 問いかけた村人は怪訝けげんそうな表情を浮かべたり、無駄に警戒されたりはしたがなんとか調べる事は出来た。

 そして、当の本人は昨日言った事を有限実行し、何かあればテレパシーを送ってと俺達に言ってあの元気ッ子の相手をしていた。


「ぶっちゃけ、分からんー」


 とは言え聞いた範囲で分かった事もある。まずは家計が非常に苦しくなった所は幾つかあるが、全滅させられどうしようもないほどに食い散らかされた所はない。つまり首を吊るほど追い込まれた人は現状いない。飼い殺す。とはちょっと違うが、長い期間食料確保するためにこの様な襲い方をしているのだろうか。


 もう1つは、鶏は左側に多く飼っている家が多かった事。そりゃぁ被害が偏るという話だ。

 これにより俺とエミリアが感じていた違和感は、空振りだったと考えて良さそうだった。


「とはいえ、攻めないとなるとこれくらいしかやる事ないからな。それより、もう大丈夫か?」


「え? あー、はい。ご迷惑をおかけしました」


 そう言って彼女は笑って見せた。


「迷惑とは思ってないけど、平気なら良かった」


「話を戻しますと、やっぱり打って出るべきじゃないですかね?」


「俺もそう思うんだが、エミリアがやめろってな……」


 ふと、空き家だと思われるボロボロの民家の前で立っている女性が視界に入り俺は止まっていた。

 見惚れていた分けではないが、何か不思議な雰囲気を感じたのだ。


「ユニーちゃん、何か見つけたんですかー?」


「え、いや。何でもない」


 振り向き止まって俺を見ているアンナの元に急いで飛んでいった。



「エミリアお姉ちゃーんはやーい!!」


 あたしは笑うリコを肩車で乗せ、落ちないように注意を払いつつ軽く走っていた。

 この間耳をずっと触られて嫌ではあるのだが、致し方ない。小さい子に気に入られるのも難儀なものだ。


「はい、おしまい」


 そう言って、彼女を肩から降ろそうとするも、やだやだもっと! とせがまれ困っていると。


「無理を言っちゃダメですよ」


 1つのピクニックバスケットを持った、女性が現れた。


「あ、マリンお姉ちゃーん!」


 肩から降りマリンと呼ばれていた女性の元に掛けている光景を見て、内心助かったと思っていると2人はあたしの方へと歩いてきた。

 バスケットからは香ばしくそれでいて甘い香りがし、嗅ぎ慣れない匂いもほのかに香っていた。

 中身はクッキーかな。それと……。


「クッキーを先ほど、焼いてきたんです。お茶に……お仲間さんは?」


 周囲を見渡し、居ない1人と1匹を探し始める。


「今でてる。待ってれば時期に帰ってくるでしょ。時に、マリンさん。でいいかしら」


「はい。何でしょうか?」


「貴方の所の家畜も襲われたのよね?」


「そうですね。これが割りと酷くて」


 彼女は辛さを誤魔化すためか、愛想笑いを浮かべてそう言った。


「そりゃ災難ね。妹もいるのに」


「違うよー? マリンお姉ちゃんはお姉ちゃんだけど、お姉ちゃんじゃないの!」


 つまり、どっちだよ! ってアイツがいたら突っ込みそうな場面ね。


「面倒はよく見てるんですけど、血の繋がりはない感じですね。リコの実の姉はカエラって人です」


 コテージのドアを開き、あたし達は中へと入っいく。


「なるほどねぇ。どの辺に住んでるの?」


「ええ、私は……えーっと、わかりやすく言うと右手側にありますね」


 右手側、ねぇ。


「被害少ないらしいのに、ほんとに災難ね」


「そうなんですよねー。被害受けてしまったものは仕方がないのでこれから先どうするかだけを考えるだけですね」


「たまに思うんだけどさ。鶏って朝速いじゃない? 辛くないの?」


「慣れてしまえば、それが生活サイクルになるので言うほどは。後うちは鶏はいないんですよ。朝は速いですけど」



 女性が立っている古び至る所が朽ちている民家。その中から、酷いクマがある1人の男性が小包を持って出てきた。

 

「やっと見つかった?」


「ああ、まさか。こんな所に隠してたとはな」


 小包を広げると、黒い球体が嵌めこまれた1つの腕輪が顔を出す。


「これがあればアイツの言いなりになる必要はもう、ない」


 男の口元は薄っすらと笑っていた。



「あ、おかえりなさいでありますー」


 テラスにあるイスに腰掛け、紅茶を飲みながら読書にふけっていたカヤちゃんが戻ってきた俺達に気が付き手を振ってくる。


「ただいま。エミリアは?」


「リコちゃんが疲れて寝ちゃったので中に居ますよ」


 お礼を言って中に入ると、ソファーに座っているエミリアの膝を枕にして元気ッ子は静かに寝息を立てていた。

 保護者なのか、姉なのか分からないがマリンお姉ちゃんと呼ばれていた女性も一緒に居り話をしている様子であった。


「おかえり。どうだった?」


「ただいまですー。情報はそこそこですね~」


 帰ってすぐにテレパシーで報告を催促され、得られた情報を渡すと1つの質問が帰ってきた。

 それは牛が襲われた家が何件あるか。という質問であり、俺はまだ1件だけだ。と伝える。


『ありがと。十分よ』


『これで十分……って事は現状について何かしら分かってるな?』


『さーてね。ただ言える事は、動きがあったら私は2人とは別行動した方がいいって事ぐらい』


 この言い回し。烏以外にも何かあると踏んでると見ていいのか。でなければ別行動する意味がない。

 そして、固まっていた方が危ないと踏んでの発言でもあるのだろう。となると、無理に断ったとて説得されるだけで多分時間の無駄。


『分かった。なら俺らは烏の対応に専念する』


『相変わらず、話が速いのは助かるわ。アンナもいい?』


『はい。ただ1つ。目星はついてるんですか?』


『勿論。なんでテレパシーで話してると思ってんのよ』


「あのぅ。静かになってどうかしたんでしょうか?」


 しまった。テレパシーに夢中になってて完全に会話が止まってた。


「いやー、なんでもないですよ。なんでも!」『とりあえず、何か分からんがそっちはエミリアに任せる』


 こう言う時に役立つ会話しながらテレパシーを送る技術!


「そうそう。歩き疲れてるだけだろうし」


「あー! 疲れましたー!」


 声が裏返ったアンナが乗るが、直後にテレパシーでわざとらしすぎよ! とエミリアのツッコミが入り。


「はひぃ!? すみません! あっ」


 そのまま言葉を発して反応し。


「何がですが!?」


 分けが分からないマリンさんが混乱する。

 流れるようにカオスな状態となり俺は苦笑いを浮かべていた。


 それからなんとか誤魔化し夕方まで起きたリコの相手をしつつコテージでゆっくり過ごし、日が落ち彼女たちが戻り夕食を取りふかふかのソファーでゴロゴロしているとエミリアが懐中時計を取り出し時間を確認する。


「20時か」


「一応、警戒しとかないとですね」


 風呂あがりのアンナは、彼女の声が聞こえていたのかタオルで髪を拭きながら現れ反応していた。


「え? 夜だし平気じゃないか?」


「何処が平気なんです?」「何言ってるの?」


 同時に否定的な反応をされ、困惑する。


「いや、だって鳥目じゃん?」


「何言ってんの。烏は夜目効くわよ」


 呆れ声でエミリアにそう言われ。


「鳥目って主に鶏指してるんですっけ。他にも夜目効かない種類の子は居ると思いますけど、鳥って結構夜目効く種類の子多いんですよ」


 アンナに補足れていた。


「……まじかー。って事はあれか、エミリアさんまぁた寝不足コースか」


「たまに急にさん付けするのやめてくれる? 調子狂うからさ。後、答えはイエス」


 なるほど。聞かなければ気が付かなかった。

 ピクリとエミリアの耳が動き、立ち上がると周囲を見渡すように目線を送る。


「来たのか?」


「近くで何か騒いでるみたいだけど、なんか違うみたい。昼間は別れるとか言ったけどイレギュラー臭いから、とりあえずは一緒に動くわよ。変身」


「はーい。変身です」


 2人の体は光に包まれ、魔法少女の姿へと変わった。


「急いで向か……そういやカヤちゃんは?」


「もう、寝てます!」


「当分起きないわよ」



 獣のような雄叫びが周囲に響き渡り、次の瞬間数頭の牛が宙を舞った。


「あれ、は……」


 一番先に現場に到着したエミリアの瞳に写ったのは人のような、人ではない偉業の生物であった。

 頭部は人のソレであり、衣類だと思われる布切れが巻き付いているように見えるが、腕は3本。うち1本は細長く右の首元から生え、肌色は白く変色し腕、足の形状は人の元とはかけ離れていた。例えるならばクマの手足に近い形状だろうか。

 理性があって行動している風には見えない。


 細長い腕が伸びエミリアに向けて突き出された。

 難なく飛び退け、ソレを回避するが地面を抉る光景が見え舌打ちをする。


「たく、もう仕事増やしてくれちゃってさ。ソードクリフト!」


 薙られた腕を生成途中の剣で受け止めるが、衝撃身体を伝い顔を歪めた。

 それに1人で真正面から相手するのはちとキツイか。潜んで色々やりたいけど。


「うおっ!? なんだありゃ!?」


 腕を振り払い、ランスを生成するとユニーの声が聞こえてくる。

 あいつにプロテクトがあるけど、ちゃんと前衛やってあげなきゃアンナがやばいわよね。


『アレの事、何かしらない?』


 ランスを盾のように扱い、突かれる腕を捌いていく。


『何も知らん。変体は温存でいいよな?』


『勿論。このまま何もなければコレはあたしとアンナで対処する。いい?』


 ランスを投擲し、地面に手を着ける。


『分かってまーす』


『んじゃ俺は避難誘導の手伝いしとく。何かあったら言ってくれ』


『はーい!』『了解』


 返事をしながら、闇に潜み奴の背後を取ったアンナはわざと"目立つように"ファイアキュートを生成する。


「あら、よく分かってるじゃない。ナイフクリフト」


 奴がランスを弾き、ファイアキュートにより発生した光源に気を取られた瞬間、壁を"腕を弾きあげるため"に発生させ、ついでに逃げ道の制限も行いナイフと剣を逆手で持ち前に出る。

 あのままガードで身体を押し上げアンナに仕留めて貰おうとしても、あの長い手で対応される可能性が高い。ならば先に腕を潰して確実に。

 気を引くために作りだされた火の玉は撃ち放たれ、クマのような腕にかき消されるがエミリアが懐に飛び込むための時間稼ぎには十分であった。


 両手に持つ剣とナイフを幾度も振るったが、急所と成り得る箇所は腕で防がれ火花が飛び散り浅い傷だけが出来ていく。


「かったいわね」


 細長い腕に向け片手剣を投擲し、ランスが落ちている箇所を確認するとそこに向け後退していく。回転しながら飛んで行くそれは細い腕を切り裂くように抜けて行き、ダラリと垂れ下がった。

 これで、当分は使い物にならないっと。けど、ただ打ち上げて押し切るのも辛そうね。

 ランスを拾い上げ身構える。


『もう一度同じ手で行きます?』


『いや、変えるわよ。獣みたいなの相手でも2度通用するとは考えにくいし』


 にしても、初撃よく此方の意図が分かって……あぁ、アイツの入れ知恵か。

 などと考えていると烏の鳴き声が聞こえ始め、偉業の生物は笑い始めた。


『っは、こんな時にと言うよりかは"こんな時だからこそ"って感じね』


 上空から襲いかかってくる数匹の烏をギリギリの所で、ランスを使って叩き落としていく。


『ユニーちゃん呼んだ方が良さそうですよね』


『そうね。あたしの考えだともう1~2手あるだろうし、ぶっちゃけこいつの相手してる暇なくなった』


 けど、ほっとく分けにも行かない。


『ん、さっきの野郎倒せばいいんだな?』


『そ、お願い』


 いつの間にやら姿をけし暗闇に紛れ、耳がピクリと動くエミリアに迫り、腕を振りかぶる。

 横薙ぎに振られた腕は直前に地面に突き刺されたランスにより止められ、土の壁がクマのような腕を押しのけ2人を隔てるようにせり上がってきた。

 ランスから手を離し、壁を足場に大きく跳躍しその場を離れた。


『結構面倒臭い相手だから、油断はしないようにね』


 テレパシーを送った直後に壁が破壊され、雄叫びが周囲に響き渡った。


『了解だ。アンナ、そっちは大丈夫か?』


『まだ、なんとかなってますー』


 アンナは囲まれないように走って移動しつつ、コーンサンダーで少しずつ烏の数を減らしていた。

 しかし、全てを落とせている分けではなく少しずつではあるが、ダメージが蓄積しているといった状態であった。

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