1-9 勇者と馬車

 シャンは水晶に手をかざすと、俺の時とは違い、赤い光が水晶から放たれ文字が浮かび上がる。



名前:シャン

筋力:A  体力:A

防御:A  魔力:S

敏捷:A  運命:S

ユニークスキル:EX



 「こ、これはとんでもない! 伝説の勇者級のステータスですよ!? このステータスならどの上級職にも就くことができますよ!」


 「えええええええええええ!?」


 あまりのことに思わず声を荒げてしまう。

 だって勇者だよ? しかもちんちくりんなシャンがだよ!?


 「やだー! パパといっしょがいいの!」


 当の本人は事態の異常さなどなんのそのである。


 「そもそもこの子の歳で職に就くこと出来るんですか?」


 「いやあ、今までにこんなこと無かったからねえ……どう対応したらいいか困りものさ」


 うんうんとお悩みのシスターさんであるが、その悩みをどうか俺の就職先にあててもらいたいものである。定職がないのは精神的に非常によろしくない。


 「折角なんだし勇者になっちゃえよ。こんなチャンス滅多にないんだから」


 「でもパパといっしょのがいい……」


 いや駄目だから。一緒になったらクズの満貫だから。

 しかし、子供に道を教えるにはどうすればいいのだろう? 親として示してあげるべきなのか、それとも自分で決めさせるべきなのか。てんでわからない。

 

 思えば、俺の人生は自分で決めた道ってのが、いつも誰かの言葉の中に含まれていた気がする。母親の勧め、友人の後を追いかけるだけの意思のない人生だった。

その究極体が俺で、怠惰の象徴だ。シャンをこんなクズにさせるわけにもいかんだろう。


 「じゃあ、俺が頑張って勇者を目指すからさ、シャンは待っててくれればいいよ。そうすれば一緒になれるよ」


 俺はそれとなく道を示して。シャンに決めさせてみることにした。


 「うん! わかった! シャン、パパのことまってうから!」


 何ら疑問を持たずに俺の提案に乗る。本当に俺が勇者になれると思っているのだろう。少しぐらいは疑ってほしいものである。


 「そんなわけで、こいつを勇者にしてあげてください」


 「うーん。まあいっか」


 そう言うとシスターはシャンの頭の上に手をかざす。すると、青白い光が一瞬で

シャンの体を包みだすのだ。俺は神々しい内定通知だなあと意味の分からんことを思いながら、一連の流れを眺めていた。


 「おめでとうございます。勇者シャン。きっと貴方は普通の人とは違う道を歩くことになるでしょう。ですが恐れないでください。そして諦めないでください。貴方が勇者である限り、この世界に光が消えることはないのですから」


 先ほどまでフランクな口調だったシスターは、実に聖職者らしい言葉を紡いでいく。俺にも希望溢れる言葉を吐き捨てていただきたいものです。這ってでも舐めとるのでお願いします。


 「それで、肝心なのはあんただよ。パパさん」


 「あ、はい。すみません」


 何故か反射的にあやまってしまった。この時点でカースト最下位は決定したようなものだ。


 「もう一度、パパさんに適した職を探してあげるから感謝しなよ」


 「うっす……」


 俺が項垂れていると、唐突に水晶が輝き始めた。


 「なんだ!?」


 俺が顔を上げて驚いているとシスターさんが、


 「これは……もしかして確定演出!? 勇者に続いてこんな奇跡が起こるなんて!」


 「え、どういうことですか?」


 「これはレア職業の演出なの! 言うなれば普通の人では就けないジョブなの」


 「なんてこったい! つうことは、俺にも隠された才能があったわけですね!」


 「わあ、パパしゅごおおおい!」


 きたぜ、ぬるりと! ついに俺にも時代が来たのだ。いや、時代が俺に追いついたのかもしれない。まったく焦らせやがって。


 「で、その気になる職業は!?」


 「馬車」


 「ば……ん? なんですか?」


 「だから馬車。ほら、勇者の後ろについて来るあれ」


 「……ふーん」


 ああ、ゲームで見たことあるやつだ。あれね、勇者パーティの補欠を詰め込むやつね。戦闘に参加すらできない外野の中の外野ね。


 前職も馬車馬みたいなものだったから、それがレアジョブだなんて実感わかないなあ。そもそも馬車って職業なの? そろそろ怒るよ? いいの? 山ひとつ吹き飛ばすよ。シャンが。


 「おめでとうございます。馬車シンヤ。きっと貴方は普通の人とは違う道を歩くことになるでしょう。ですが恐れないでください。そして諦めないでください。貴方が馬車である限り、この世界に光が消えることはないのですから」


 「それさっき聞いたから! しかも俺の歩く道は確実に歩道だから!」


 「パパおんぶー!」


 「さっそく馬車のお仕事だね」


 「やかましい!」


父性スキル「おんぶ」を発動しました。


 ああ、気持ちがくさくさしてきたぞ。

 背中にシャンを乗せ俺達は神殿を後にした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る