1-7 転職に必要なのは体力だよね
町で一番大きな橋を渡ると、出迎えてくれるのは超がつくほどの長い階段で、遠目からでもおぞましいものであったが、実際に目の前で見るともはや壁である。
その時点で気分が腐ってきているというのに、シャンがとんでもないことを言いした。
「パパ、おんぶー」
天使のような微笑みで提案しているが、内容は実に悪魔的である。なんたって拒否できるものじゃない。だって笑顔が純真なんですもの。隣でニヤニヤしているレインと違って酷く純粋な一言なのですもの。
「エレベーターとかエスカレーターとかないの?」
「ファンタジー世界にそんなものある訳ないじゃないですか」
「えー、現代知識を利用して異世界人を驚かせるのは常套手段でしょ」
「そういうのは転生者さん達でやってください。私は子育てで忙しいんです」
「おんぶ! おんぶ!」
「もう……わかったよ」
子供にこの階段を登らせるのもなんなので、しぶしぶと了承。
父性スキル「おんぶ」を習得しました。
「お、新しいスキルが手に入ったぞ。もしかして楽になるとかかな?」
「特になにもないですよ」
「いやいや、スキルだよ? 何もなかったら意味ないよね」
「たまにゲームでもあるじゃないですか使い道のないスキル。ああいうのいくつか欲しいなと思いまして」
「いらねーよ! つうかいくつかまだお飾りが眠ってっるのかよ!」
「あは、ありますよ。抱っことか」
「前後が逆なだけじゃねえか!」
結局、俺はヒイヒイ言いながらシャンをおんぶして、ちょくちょく休みを挟みながら登りきることに成功し、コーリン神殿へとたどり着いた。
「シンヤさん遅いですよー」
「いや……おま……死ぬからこれ! シャンをおんぶした状態で、322段の階段を登りきった俺を褒めて! 超褒めて!」
なんでこんな階段作ったのよ? ニートが一大決心して就職しようとしたら、断念しちゃうレベルの階段でしょ! あと運動不足の転職者にも反響悪いだろ!
「パパすごーい!」
「はは、あんがとよ……」
お前のせいだっちゅーに。
神殿に入る前に休憩にと、噴水の近くのベンチに腰を掛ける。シャンは噴水が珍
しいのか、ひとり水遊びをして暇をつぶしている。
レインが俺の隣に座ると、
「せっかくなんで休憩ついでに、ジョブスキルとユニークスキルの違いについて説明してあげましょう」
「ジョブスキルって語感的に予想はつくけど、ユニークスキルってなんよ?」
「ユニークスキルは個々の潜在的に持っている能力のことです。たとえば、シンヤさんの場合は父性スキルのことですね」
レインは滔々と説明を始める。
「人それぞれ持ってる能力が違うってことか?」
「ピンポンです。いつ発現するかは人それぞれですけど、大なり小なり誰もが持っているスキルがユニークスキルなんです」
「へえ、レインはどんなの持ってるの?」
「やーん。女の子に対してプライベートな質問だなんてエッチですぅ」
俺からわざと距離を取って、小悪魔な表情でレインは言った。
「はいはい、聞いた俺が悪かったよ。あれか、まだ能力が目覚めてないんだろ?」
「ヒ・ミ・ツ、です」
こいつの相手をするのは疲れるなあ。休憩した気にならないよ。
「もしかしてシャンにもユニークスキルあるの?」
「もちろんです。本人は自覚してないでしょうけど、しっかり反映されています」
「ん? もう発動したってこと?」
「秘密です」
今度は静かに言う。
「んで、ジョブスキルってのは?」
「ゲーム脳のシンヤさんならお察しだと思いますが、就いた職業の熟練度が上が
ると、習得できるスキルのことです」
なるほど。若干馬鹿にされた気がするが、だいたい分かった。
「なら、冒険をするうえでは戦える職のほうが良さそうだな」
「普通はそうですね」
疲れもだいぶ癒えたので、俺は腰を上げる。
「よおし、ちょっくら行ってくるぜ。見てな、勇者にジョブって帰ってくるから」
「あー、頑張ってくださいね~」
レインはひらひらと手を振り俺を見送る。その姿をシャンが真似していた。
さあ、ここから俺の英雄譚が始まるのだ。
俺は二人と別れ、ひとり神殿の門を潜るのだが、別れる前のレインの生暖かい視線が妙に気になった。
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