ホブゴブリンとのミニマル生活②
体育館が、絶叫に包まれる。
爆発的な喧騒が辺りに広がり、「ウソだろおお」「マァジかああ」「ぎゃああああ」と全校生徒が興奮の渦に巻き込まれている。
省介はといえば、
(はははは花桐先輩がおお俺のことすすすっすすすすすっすうすっすッ⁉)
現実を受け止めきれず、テンパっていた。
「……こんなコトを人前で言われて、比田くんにとって迷惑だっていうのはわかってます。……でも、たとえ比田くんにどう思われても、比田くんの汚名だけは晴らさなきゃって思ったんです。比田くんが見せてくれた勇気が、私にも勇気をくれたんです。だから、私は皆さんに言わせてもらいます……ッ」
キッと会場を見つめ、花桐は主張する。
「私は、比田くんのコトが好きなんですッ。片想いで一方的でも、私達は恋愛関係なんです。……その、つまり……好きな人にそういうことをされてどうするかとかは、周りには関係ない、個人的な事柄のはずですッ。……だから、その、……もう私達に関係のない人が、とやかく言うのはやめてくれませんかッ!」
エコーのかかった花桐の声が、体育館の隅々まで行き渡る。
しん、とした会場へ向け、
「……い、……以上です……失礼、しました……」
顔を赤く染めた花桐がお辞儀をする。
途端に、
パチパチパチパチパチ。
どこからともなく拍手が鳴り響き、体育館中を波のように拍手の音が覆いつくした。花桐の勇気ある告白に多くの生徒達が涙ぐみ、称賛の声を上げている。教師ですら拍手に加わり、ヒューヒューと指笛を鳴らす生徒まで現れる始末だ。
「……花桐、先輩……」
省介も頬を紅潮させ、
(……伝わってたんだ、花桐先輩のためにやってきたこと全部。……そして、ついに届いたんだ、俺の淡い恋心が……)
……ヤベ、涙出てきた。
相思相愛になったことの喜びを、全身で噛みしめる。
「……比田くん……」
花桐と目が合い、嬉しさと恥ずかしさで、心とか身体とかもう色んなところがとろけそうになっていると、
……ハッ!
省介は気付いてしまった。
いや、見えたのだ。
そう。
頭上に広がる、禍々しいほど巨大な魔法円の存在が。
(ししまったああああああああああああああああァァァァァァァ―――――――――――‼)
その魔法円は体育館の天井を覆いつくし、魔法の発動を今か今かと待っているかのようだった。
「「「……において、コバロスの君に願い奉る……」」」
かすかにホブゴブリン達の詠唱の声が聞こえ、省介は発動までもうテンカウントを切ったことを悟る。
……え、ちょっと待って、じゃあ、この最高の展開もしかして全部消えるの?
迫りくる残酷な現実を自覚し、血の気が引いた。
(えウソマジで待って頼むから止めホント心からお願いそれだけは勘弁何でもする神様仏様どうかマジお願い……)
省介は涙目で懇願するが、
「「「……汝の力を封じしコバロスの物の具によって、我が秘めし力を解放し……」」」
ホブゴブリンは三人とも、詠唱に夢中で全く気付いていない。
……ハッ、そうだ、メッセージでッ!
急いでポケットからスマホを取り出すが、
「おい、答えてやれよーッ‼」
「そうだよ、可哀想だよ――ッ‼」
「比田っち、言ったれ――――――ッ‼」
との観衆の声に板挟みになり、
省介『ま』
「「「……彼の者達の記憶を、忘却の深淵へと誘えッ……」」」
……間に合わな、
省介は必死に花桐へ身を投げ出し、
「おおお俺もずずずっと前から好……ッ」
「「「――ウブリッ‼」」」
「――あああああああああああああああああああああああああああああああッ‼」
百合が原学園の体育館を、眩い閃光が埋め尽くす。
……ある男子生徒の、絶叫と共に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます