ホブゴブリン(幼女×3)との最低限生活(ミニマルライフ)
或木あんた
脱衣場でホブゴブリン①
――全裸の童女が、ウチの脱衣場でパンツを被っている。
早朝、午前五時三十分。
比田省介(ひだしょうすけ)はピタリと身体を静止させ、軽く咳払いをして状況を確認してみる。
一人暮らしの狭い賃貸アパート。
その中でも一際狭い脱衣場の鏡には、貧相な男子高校生のパン一姿が映っている。省介には同居人も彼女もいない。よってここにいるのは自分だけのはず。
……の、はずだったのだが。
「……」
「……」
目の前の不審な輩と目が合った。
ふわふわウエーブのピンク髪ツインテ―ルが映える、顔立ちの整った女の子だった。肌色一色のその身体は小柄で、パッと見小学生くらいだろう。恥ずかしがりもせず、怖がりもせず、ただキョトンとした表情をして、澄んだ大きな緑色の瞳で省介を見つめている。
何がどうなっているのか、省介にはまったく分からない。ただ一つわかることは、彼女が被っているのも、右手で宝物のように抱きしめているのも、間違いなく省介のパンツであるということだけだ。
「……あの」
省介の声に反応し、童女が口を開く。
「……みえるの?」
擦れた細い声が、省介の耳に届く。
「…………え?」
「あなた、ルンのことみえるの?」
「……ええと、その……ルン、って?」
童女が身を乗り出し、
「わたしの名前、ルンフェルスティルスキン。あなた、本当にルンのことみえてる?」
「……ああ、みえてる、けど……」
「ほん、と?」
「……お、おう」
省介が肯定を重ねると、童女は両手を頭上に突き出し、
「や、やっったぁぁぁぁ――――――――――――!!」
「……え」
「やった、やった、ついに、ついにだようー!! はぁ―――!!」
唖然とする省介の目の前で、童女が何度もジャンプを繰り返してピンクのツインテールを揺らし、まかれたパンツが宙を舞う。
「ええと、おい……?」
一体どういうことなのか、全く理解が追い付かない。なぜこの不審人物は自分が発見されたことを、ここまで喜んでいるのだろうか。
「ううッ」
かと思えば気が付くと裸の童女は涙ぐんでおり、省介の両手を取ってブンブンと握手をしている。
「……見つけてくれて、ありがとうッ! ――ご主人様!」
言われたことの意味が入って来ず、省介は思わずフリーズした。
「……い、今なんて?」
「ご主人様」
「ご、ごしゅッ!?」
「ご主人様ッ♪」
裸の童女は省介の両手を離し、その手を腰に回してぴたりとくっついてくる。
不意に押し付けられる温かさに動揺し、絡みつく童女の魔手を引き剥がす。
「な、お前急に何をッ、……って、……ん?」
改めて童女の姿を眺め、省介は違和感に気が付いた。
(……なんだ? 全裸に動揺して気づかなかったけど、この娘の耳、妙に長くて尖ってて、まるでゲームの世界に出てくるみたいな……)
後ろに距離をとり、訝しげに省介は尋ねる。
「……お前、何なんだ?」
省介の問いに、童女は目を線にして微笑み、答える。
「――ホブゴブリンだよ、ご主人様ッ」
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