第76話 家具のために部屋を増やそうか(1)
操り人形の動きを確かめ、緑の髪と瞳の青年が口元に笑みを浮かべた。仕掛けは上々、死神に新たな封印を課すための策略を巡らせる。
ジフィールを縛る鎖の封印は消えた。水の魔王亡き今、同じ封印を課すことは不可能だ。大地の魔女ライラも敵に回っている。圧倒的に手札が足りなかった。ならば、別の封印を課せばいい。彼の眷属である白炎のリオネルが自由に振舞えぬ程度の、ジルがしばらく動きを止める程度の、簡単な封印で構わなかった。
リュジアンの二の舞となって消えるであろう、ツガシエへの同情はない。人族の国など一瞬で生まれて滅びる、ひと夏の蝶々のような存在だった。
「ジフィールよ、我が望みの前に散るがいい」
口元に笑みを浮かべた青年は、螺旋状にうねる風をまとって姿を消した。
ジルは黒い髪を短く装うと、軽装のルリアージェの手を取った。エスコートする形ではなく、庶民のように手を繋いで歩き出す。家具屋が並ぶ大通りは混雑しており、歩いて移動するルリアージェの目は店先の家具に釘付けだった。
放っておいたら、あっという間に
曰く「今夜の晩餐では着飾るのだから、昼間は身軽な格好でいたい」と、両手を合わせて頼まれたら無理も出来ない。そのためブラウスにスカートという軽装の美女は、珍しくポニーテールに結っただけの髪を揺らしてご機嫌だった。
宮廷魔術師として生活していた頃は、街に出る際はローブなしで地味な格好をしていた。出来るだけ目立たないよう、絡まれないよう、気を遣って出かけたものだ。万が一知り合いに会ったときのため、質素すぎる格好は出来なかった。
本来のルリアージェは、こういうシンプルな格好を好む。動きやすく、汚れても気にならない部屋着に近い服装が一番なのだ。
明らかに見目のいい青年が、同様に目を引く美女と手を繋いでいれば、いやでも注目を浴びる。一見質素な格好に見えても、そこはジル達が用意した服だ。生地も仕立ても最上級だった。肌触りのいい絹のブラウスは、艶やかに光を弾きながら彼女の美貌を際立たせる。
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