第51話 断罪という名の茶番劇(3)

「あれを」


「はい、兄上」


 兄弟を演じながら、ライラが持ち帰った魔道具の水晶をリオネルから受け取る。背後に音もなく控えていた執事が袋から取り出した水晶の大きさと透明度に、リュジアンの貴族からも感嘆の声が漏れた。滅多にない大きさの水晶は、リシュアの手の中で青白く光る。


「マスカウェイル家の宝玉です。普段は持ち歩かないのですが、今回は水晶で有名なリュジアンで鑑定を行うつもりで持参しました」


 リオネルが少し魔力を込めると、水晶に映像が映し出された。


「我ら一族の魔力に反応するため、妻や義姉上あねうえの部屋に預けていたのですが……この宝玉は変わった特技がありまして」


 意味ありげに言葉を切ったリシュアが、さらに魔力を込める。


「定期的に与える魔力が尽きるまで、周囲の状況を記録するのです。この宝玉には3日に一度、兄上か私が魔力を込めております」


 魔力切れはなかったと匂わせながら、徐々に魔力を高めていく。青白い光が強くなり、水晶に映し出された映像は……眠るルリアージェに忍び寄る男の姿。


「やっぱり不義は……っ」


 あったと叫びかけた貴族は、次の瞬間凍りついた。


 ルリアージェの腕の中にいたライラと、子供を挟む形で眠るパウリーネも映っている。忍び寄った男は困惑した顔で周囲を見回し、何かを落としたが気付かぬまま部屋を出た。ドアを閉めた後、カチャンと錠をかける音が響く。


「不義はなかったでしょう?」


 にっこり笑うリシュアは、さらなる切り札を持っていた。映像の中で男が落としたものだ。まだ最後のカードを切るには早すぎる。


「だ、だが……男が侵入して」


「そもそも、この映像は本物か? 魔道具ならば……」


 偽物だろう! 決め付けた貴族の声に、ルーカス国王が重ねた。


「魔道具の映像は信用ならぬ」


 ジルが一歩進み出た。ルリアージェの腰に回していた手を離したことで、ルーカス国王がわずかに身を乗り出す。


「なるほど。陛下は何をお望みか?」


 淡々と尋ねるジルの背を見つめるルリアージェは、この場にそぐわぬことを考えていた。普段は腰まで届く長い髪を高い位置で結んでいるジルだが、短い髪も存外似合う。そういえば魔性は男女問わず長い髪が多いが、魔力量と関係あるのだろうか……という、無関係の内容だ。


 自分が冤罪の対象だが、彼らに作戦があるのは聞いているし、いざとなれば観光を切り上げて逃げれば済む話だった。ルリアージェが求められる立場は、毅然と胸を張って立っていることくらいだ。


 サークレラ国と繋がりが欲しいリュジアンが、パウリーネか自分をターゲットにして不義や不慮の死を仕掛ける可能性は、すでにリシュアから聞いた。目新しさのない方法を選んだリュジアンに眉をひそめることはあっても、それ以上の感想はないのだ。

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