第39話 幻獣だらけの戦場(1)
「すぐに片付けますわ」
「いや、楽しんでくれていいぞ。封印とはいえ、1000年ぶりの獲物だ」
封印された時間は瞬く間に過ぎる。それでも身体に流れる時間の感覚は残っていた。だから久しぶりの獲物を急いで片付ける必要はないと、ジルは肩を竦める。その言葉に滲む信頼は、彼女の勝ちを確信していた。
「煩いっ! 燃やし尽くせ、炎龍」
炎蛇とは比べ物にならない高温で巨大な龍が身をくねらせる。大きな口を開き、立派な尻尾を揺らした。空中であるにも関わらず、立ち上がるような姿勢で威嚇する。強大な魔力の塊を見上げながら、危機感が薄いルリアージェは無邪気に喜んだ。
「ライラ、サークレラで着た民族衣装の帯の柄と同じ動物だ!」
「そう、これが龍なの。幻獣と呼ばれる類だけれど、自然に生まれないのに
「精霊と違うのか?」
「まったく違うわね。あくまでも魔力ですもの」
ライラとルリアージェの会話をよそに、上空では戦いが始まった。ラヴィアが
大きさだけなら龍の方がはるかに上だ。水虎の10倍以上はあるだろう。しかし炎龍の首筋に噛み付いた虎は蒸発することなく、食いちぎるように魔力を引き剥がした。そのまま魔力を吸収して水の色を鮮やかに変化させる。半透明から淡い桃色へ、そして最後に水色に落ち着いた。
「すごい」
半透明の虎の姿に見惚れたルリアージェへ、ジルが解説を買って出た。
「簡単に言うと、密度の問題だ。水を極限まで圧縮したパウリーネの虎は、表面だけ蒸発させてもほぼ被害はない。炎龍は大きさにこだわりすぎだな。薄い部分を見つけた虎に食いちぎられただろ。あれじゃ魔力を食われるだけで、虎は消耗しない」
「虎や龍は生きているのか?」
「あれは擬似生命だから、意思や命はない。龍や虎のように振舞う魔力だよ。そもそも魔族自体が人のフリをする魔力の塊だから、眷属代わりとして作りやすいんだ」
話をしながら、ジルが無造作に右手の爪で左手のひらを切り裂いた。魔力を込めた傷から血が数滴落ちる。すぐに空中で球となり浮遊を始めた。
「まず魔力の媒体がいる。これは髪や爪、血が一般的だな。次は属性を決めるが、今回は植物にしてみるか」
火、水、風、地の中で属性が一番豊富なのは地だ。植物や土そのもの、岩も対象だった。そのうえ、地下にある限り、地下水や地底のマグマにも影響を及ぼすことが出来る。
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