第37話 最後の眷属(3)

 褐色の肌に首までの金髪、赤い瞳をもつ白炎のリオネルに対し、冷たい印象を与える短い青銀の髪と白い肌、空色の瞳が印象的な氷静のパウリーネ。性別すら男性と女性という、作ったように正反対の2人の共通点は『死神ジフィールを主と仰ぎ忠誠を尽くす』のみ。


「久しぶりね、リオネル。この状況はどうなっているの?」


 状況が分からないため苛立つパウリーネに、リオネルは淡々と言葉をかける。


「先にジル様の敵を排除してきましょう。今、リシュアが相手をしておりますよ」


「誰?」


「龍炎のラヴィアです」


「あの戦闘狂バカ……いいわ、私が引導を渡してあげる」


 にっこり笑ったパウリーネは、ジルへ一礼して許可を得る。


「我が君、私に敵を排除する許可をくださいませ」


「任せる。風より水の方が相性がいい。リシュアに戻るよう伝えてくれ」


 説明を後回しにした方がいいと判断したジルがひらひら手を振ると、パウリーネは消えた。白っぽい光を放つ魔法陣だけが残っている。


 肩を竦めたリオネルが、テーブルの上を片付けてお茶の準備を始めた。手馴れた様子で紅茶と茶菓子を並べていく。薫り高いオレンジを輪切りにして紅茶のカップに浮かべたところで、そっと差し出した。


「ありがとう」


 ルリアージェは受け取ったカップを引き寄せる。そのまま口に運ぼうとしたところで、隣のジルが遮った。首をかしげて待つと、ジルが手をかざす。湯気の量が格段に減った。


「これでよし。火傷に気をつけてね」


 猫舌のルリアージェを気遣ったジルに、リオネルが「猫舌でしたか」と申し訳なさそうに眉尻を下げる。気にしなくていいとルリアージェが笑えば、ジルは呆れたように言い放った。


「いいけど、火傷したら前回と同じ治療するから」


 森の中で火傷をして舌を舐められた記憶が過ぎる。顔が赤くなったルリアージェの姿に、ジルは満足そうだ。逆にライラは不思議そうに首を傾けた。


「あ……っ、それより外は平気なのか?」


 明らかに話を反らそうとするルリアージェの強引な誘導に、リオネルはくすくす笑いながら説明を始めた。


「侵入したのは『龍炎のラヴィア』といいます。私と同じ炎を得意とする上級魔性ですが、彼は水や氷を操るパウリーネと相性が悪いのです。彼女にしてみたら、戦いやすい相手でしょう」


 火と水の関係は精霊の力関係と同じだ。水⇒火⇒風⇒大地の順で四大精霊は巡る。風を自在に扱うリシュアは魅了の力もあるが、火に対して決定打となる能力がなかった。パウリーネの水や氷は、火属性に対して最大の効果をもたらす。

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