第30話 まずあり得ない経験(2)
どうやら病死と事故死で対応が違うようだ。確かに戦時中など特殊な事例でなくなった場合、国王不在の時間を作るわけにいかない。病死ならば死ぬまでの時間を逆算して、周囲が準備に動くことも出来た。早く葬儀を終えて、新たな王へ継承準備を始める必要がある。
「私達が来たせいで、申し訳ない」
ルリアージェが眉尻を下げて詫びる。
「お気になさらないでください。私は貴女様に選び直すチャンスをもらったのです。今度こそ迷わずジル様を選べる自分が誇らしい」
にっこり笑ったリシュアの表情は晴れ晴れしていて、悲壮感も後悔もなかった。ほっとして表情を和らげたルリアージェに、ライラが抱きついた。さきほどジルに掛けられた紅茶は跡形もない。
「ねえ、リア。今度はどこへ行く?」
無邪気な子供の質問に、ルリアージェは考え込んでしまった。正直、目的地などないのでどこでも構わない。そう思って任せた行き先がサークレラで、騒動が続発した。
屋台を冷やかせば国王陛下(実際にはジルの配下の魔性リシュアだったが)に謁見となり、街に出たらスリや孤児の問題解決に尽力することとなり、民族衣装に着替えればジルが(目線だけだが)巨乳に浮気して……知り合いらしき魔性の封印石なんて話で誤魔化されたりしないぞ!
花火見物と洒落込めば、魔性は降ってくるわ。水の魔王と側近も現れるわで大騒ぎとなった。あの場で治癒魔法の『深緑のヴェール』が届かなかったら、どれだけの被害が出たか分からない。
「まだ行ってない場所はどうだ?」
ジルの提案にうっかり頷いてしまった。嬉しそうにジルは指折りしながら、今まで行った場所を挙げていく。
「テラレスの迷宮からウガリス国境、そのままアスターレンの首都に入って、神族の丘だろ。幻妖の森と魔の森、オレの城とサークレラも行ったから、残ってるのは北側か。リアは寒いの平気?」
「平気だが」
「防寒具の心配は要らないからね。昔仕留めた毛皮が沢山あるし、いざとなれば魔術も施せるし」
なぜか寒い方角へ向かう話になった。北は魔術師にとって厳しくもあり、認められ宮廷魔術師となれば名誉な国が並んでいる。テラレスの宮廷魔術師になった頃は、密かに憧れた地域でもある。
「リオネルは温度操作の魔術も得意ですよ。寒さは彼に防いでもらうことが出来ます。山脈を越えた先にある氷の大地も見事な景色ですが、北の国はあと数ヶ月すると雪祭りの時期ですね」
リシュアは特に反対する理由がないので、ジルの希望に従って北の国を勧め始めた。
「雪祭り?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます