21*タカヒメとガールズトーク

 0時。和歌山市駅に着く。

 実家に泊まりたいけど、国ツ神一行と会わせたくない。

「できるだけ安いホテルに泊まりたいので、私も我慢。タカヒメさんも我慢。いいですね」

 タカヒメさんと私は同室。あとの4柱(クエビコさんは数えない)は和室で同室。キューピーちゃんはいつも一緒。

「なんだカネがないのか。出してやるぞ」

「いつの時代のカネですか?」

 思わずツッコむ。

「ツクヨミは脳が弱いのか、現代に決まってるだろ。現代にいるんだから」

 ……あの所造天下大神ィ、後で払ってもらうゥ。

 まあ、せっかくの同室。ガールズトークを楽しみましょー。

「タカヒメさん、パックって知ってます?」


「ツクヨミ。ワタシに、さんはいらない。痒くなる。タカヒメでいい」

 先にシャワーを浴びたタカヒメは裸で室内を歩く。ニウヒメさんも、タカヒメも女武神だから体中に傷跡があると思った。ニウヒメさんは少しあったけど……。

「斬られなければ傷はない。傷があるのは弱いからだ」

 トミビコさんを思いだす。

「唯一の失態は、脳の弱い女神のせいで、口の悪い女神に付けられた左肩の傷だ」

 ガールズトークは楽しめるのだろうか。シャワーを浴びてこよう。


 既にタカヒメはベッドに寝てる。髪を乾かしながら楽しいガールズトークを試みる。

「ねえ、西の軍の敗因はなんだったんですか?善戦だったんですよね」

「わからない。ワタシはミナカタの兄神とワカヒコ、ワカフツと先陣にいた。使い烏でうらぎりを知った。ミナカタの兄神が負けた。コトシロの兄神が降伏を申しでた。高天原に連れて行かれた。ワタシ達は夜ノ国に隠れた。以上だ」

 西の軍将が高天原にいるんじゃ敗因は聞けないか。

「ねえ、タカヒメは、いつ、現世に現れたの?」

「最後に現れたのは、父神に呼ばれた70年前だ。ワカヒコとワカフツヌシも一緒だ。以上だ」

 ふーん。70年前か。

「ね、ねえ、タカヒメは父神……オオクニヌシさんの娘神なの?」

「もういいだろう。眠い。眠れるときに眠っておきたい。それに夜ふかしは肌に悪い」

 え、そうね。聞きたかったけど。ま、いっかー。なにしろ、最近の推しはトミビコさん。意固地なところもあるけど、やはり年上だね。私もベッドに寝る。ふーん、70年ぶりに現れたわりに……70年ぶり?

「そんな昔に現れてたの?」

 早い。もう眠ってる。


 行けなかった丹生都比売神社を調べる。

 高野山金剛峯寺を建てるさい、神領(社領)を譲ったと伝えられ、高野山の鎮守神となる。神仏習合のはじまりの神社。紀伊半島は最大の丹生の産地で、大和鉱床群の東西の端に神宮と日前神宮国縣神宮が建つ。あれ、さっきと同じ展開だ。伊太祁曽神社の奥宮は丹生神社。伊太祁曽神社の社地は、元は丹生神社が建ってた。ということは日前神宮国縣神宮が伊太祁曽神社を退かし、伊太祁曽神社が丹生神社を退かした。ツクヨミがいなくなったら、また戦ったのかな。

「じゃあ日前神宮国縣神宮の元宮はどこ?」


 タカヒメの朝は早い。4時に起き、私を起こし、私に短剣を渡し、ともに剣を振る。

 下着姿の女子が早朝のホテルで剣を振る。腰を落とせ、左に曲がってるなど、2時間も。

 筋力の無い女神は男神以上に剣力(タチカキ)を付けなければ戦場で勝てない。強くなければ戦場で男神を動かせないという。努力の女神。ちょっと見なおす。

 おかげで朝ごはんのおいしいこと。みんなが呆れるほどタカヒメと私は食べる。


「大丈夫、ツーちゃん」

 食べすぎた。

 えーと。なにかあったら事件になるので、なにかなくても喋るカカシ(クエビコさん)と職質ファッションの2柱(タカヒメとワカフツヌシさん)がいるので。まあ、みんなが剣を持ってるので銃刀法違反でアウトか。

 昨晩も行ったホテルの近所の水門吹上神社で隠世に隠れる。

 オオクニヌシさんとヒルコを祀る。ヒルコはイザナギとイザナミに捨てられた子神。

 境内に顕彰碑がある。神話で、天ツ軍は和歌山市に流れる紀ノ川を遡り、戦死者を葬う。そして名草の姫を討ち、なぜか紀ノ川を下り、紀伊半島を南に廻り、熊野へ向かう。

 一説に、熊野(イヤ)神社のある御坊市熊野(イヤ)など、紀伊半島西部も熊野で、神話の熊野村は紀伊半島西部といわれる。つまり紀ノ川を遡り、名草の姫、丹敷の姫を討ち、大和国に攻め入った。天ツ軍は紀ノ川を遡った説だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る