例えアレを食らってでもお前は許さねえ

ゴールド&シルバー

 うう。頭痛え。俺は確かに昨日、酒はほどほどにしようと思った。それは間違いない。ピッチを上げるディヴィさんが絡んでくるまでは、節制していたのだ。だが、例によって、一人ではつまらないと文句を言いだしたディヴィさんの相手をできるのは誰か?


 1、ノアゼット様は飲めない。2、アックスは飲まない。3、プウラムは論外。そう、俺しかいないわけだ。まあ、俺も嫌いじゃないしね。腕に抱きつかれて、杯に酒を注がれたら、飲んじゃうよね、普通。ディヴィさんが俺にしなだれかかってくる度にノアゼット様の目が険しくなってた気がするけど、いや、俺触ってないですよ。冤罪です。


 酔って上機嫌なディヴィさんを俺とアックスで抱えるようにして宿まで運んだ。ディヴィさんは蛍の光をハミングしている。ええ、もう閉店ですよ、お客さん。その後、この人を寝かしつけるまでも大変だったが、もう忘れよう。


 ということで、現在、俺は一人青白い顔をして馬の背に揺られている。その原因を作ったディヴィさんはケロリとしている。まったく、もう。時刻は昼過ぎ、しばらく少し進むとアズラムとタリムへの分岐点があるはずだ。振り返っても、もうノルドの街は見えない。


 振り返った頭を戻した瞬間、道の両側の木の陰から一人ずつ男が現れた。二人とも長身で、片方は金髪、もう片方は銀髪をしている。俺の後ろを進むアックスから声が漏れる。

「ゴールドとシルバー……」


 俺は頭の霧を振り払おうとする。ディヴィさんが馬を寄せてきて、呪文をとなえながら、俺の体に触れた。アルコールのもやが消える。馬を飛び降り、武器を取り出すと一気に距離を詰めた。アックスが俺に続く気配を感じながら叫ぶ。

「俺は右をやる!」


 俺が叩き込んだハルバードは見えない障壁にぶち当たり、低い衝撃音が大気を震わせる。余裕たっぷりだった銀髪野郎の表情は俺の2撃目で驚きに変わる。確かな手ごたえと共に障壁が崩れ去るのを感じた。銀髪野郎は腰のベルトのようなものを引き抜くと俺に投げつけ叫ぶ。

「拘束!」


 ベルトのようなものはくねりながら俺に絡みつこうとする。高速でハルバードを回転させ、ベルトを切断した。キンという意外に高い金属音と共にベルトは細切れになって地面に落ちる。その間に、銀髪野郎は、懐から何かを取り出すと大きな声で俺の名を呼ぶ。あれは魔人が出てくる魔法のランプ?


「シューニャ!」

「なんだ?」

 銀髪野郎はますます焦り、腰の剣を抜く。こっちは優勢と。アックスはどうかとチラリと視線を走らせると激しく斧を叩きつけているが、障壁に阻まれているようだ。


 そして、金髪野郎も懐から何か取り出すと叫ぶ。

「ノアゼット!」

 振り返るとそれにつられたようにノアゼット様の口が動くのが見えた。はい。すると、ノアゼット様が空を飛び、すうっーと金髪野郎のランプに吸い込まれて消えた。


 金髪野郎はそれを見届けると、左手に口を当て筒を作ると言う。

「アックス。シューニャを殺せ」

 その声がアックスに届くと、体が硬直する。そして、ぎこちない動きで体の向きを変えるとぎくしゃくとした動きで俺の方に向かってきた。


 歯を食いしばり、ぶるぶると体を震わせながら、一歩一歩とよろけながら俺の方にやってくるアックス。そちらの方に気を取られたのをチャンスと見たか、銀髪野郎が俺に切りかかる。俺は雄たけびを上がると真正面からハルバードを振り下ろした。銀髪野郎の正中線に赤い線が入る。そして、左右に別れると血をまき散らしながら2つに割れて倒れた。


「シルバー!」

 そう叫ぶ金髪野郎。俺の方に向かいかけるが、思い直したのか、後ろに下がり距離を取ると背中に翼を生やした。そして、大地を蹴ると西の方に飛び去る。追いかけようとする俺の前にアックスが立ちふさがった。渾身の力を込めて斧を振りかぶるのに耐えている。


「兄貴。俺を倒して……」

 押し出すように言葉を口にするアックスの体に横合いからムチが絡みつく。そして、呪文を唱えながら、ディヴィさんが走り込み、アックスに触れる。ディヴィさんの手が触れるとアックスは全身の力を抜いた。斧がどさりと地面に落ちる。はあっ、はあっ、と荒い息をするアックス。立っていられなくなったのか尻もちをついて座り込んだ。


「強制魔法をかけられていたのに命令に背くなんて信じられないわ」

 ディヴィさんが首を振りながら言う。

「今のは命令をキャンセルしただけだから、力を抜いてアタシの呪文を受け入れて。強制魔法自体を解呪しちゃうから」

「でも、ノアゼット様を取り返さないと」


「その状態で乗り込んでもまた敵に強制されるだけよ。大急ぎでやるわ」

 ディヴィさんの詠唱と共にアックスの首の周りに赤黒い線が浮かび上がる。アックスの首に着いていた鎖の形をしていた。ディヴィさんは口早に呪文を唱えながら浮かび上がった鎖に触れる。ディヴィさんの手が触れるたびに鎖は一つまた一つと消えていく。

 

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