ノルドの収穫祭
俺は正直に言う。
「何かもやもやした感じはするんです。絶対に何かを仕掛けて来てるのは間違いないのですが、それでどうすべきかは……すいません。分かりません」
「ノアゼット様はどう思います?」
ディヴィさんに問われて、少し考えた後に言う。
「私は何も変だとは思わなかったぐらいなので。シューニャに分からないとなると私にもさっぱり見当はつきません」
なんか判断力を高く評価されてるのか俺?
「この間ディヴィさんから聞いたお話からするとアズラムと言うのはあまり好ましい感じはしません。男の人にとってはいい場所なのかもしれませんが」
おいおい、ディヴィさん、どんな風にしゃべったんだ?
「シューニャもアズラムという街に関心があるのではないですか?」
え? まさかの被弾。それじゃまるで俺がアズラムの街に行きたいからこの話をし始めたというように聞こえるんですが?
「んー。ちょっとその言い方はシューニャに対してひどいわね」
「ごめんなさい。謝ります。でも、やはり、アズラムは避けた方がいいと思います」
結局このやりとりは俺の心にしこりを残しただけだった。まだ自分のなかでも消化しきれていない疑問を口にしたのは確かだけど、さすがにあのセリフはちょっとこたえた。さすがにそこまで俺は邪な人間じゃない。でも、そうかもしれないと思われているということなのだ。まあ、全く歓楽街に興味がないとは言えないので、冤罪と言い切れないのだが。
微妙な空気を救ったのはアックスだ。
「兄貴って、頭もいいんですね」
手放しで俺を褒め上げる。こちらが照れちゃうくらいだ。
「随分と心酔されちゃってるみたいねえ」
ディヴィさんはそう言って、俺の顔をジロジロと見る。
「な、なんでしょうか?」
「シューニャ。あなたって男受けの方がいいのね」
「なんか、すっごく誤解を受けそうな表現はやめてもらえますか」
「だって、そうじゃない。なんだかんだ言って、アンファール王もあなたのこと気に入ったみたいだし、今度は熱心な崇拝者でしょ」
「ええ。兄貴って、知れば知るほどすごいですよ」
でもねえ、ある方の評価はイマイチっぽいんだよなあ。
ノルドに着くまでは特に大きな事件は起きなかった。途中、狼の群れに襲われたが数頭倒したら、残りは尻尾をまいて逃げた。それ以外は平穏そのもの。あまりすれ違う人も無く、退屈な旅路だった。景色も荒れた茶色い大地が続き面白くない。遠くにノルドの街が見えたときはホッとした。
ノルドに近くなるにつれて、緑が多くなり、人の姿も散見されるようになってくる。どうやら、比較的水資源に恵まれた通商路の途中にあるオアシス国家ということのようだ。街に入るときに形式的なチェックは受けたが特に何も言われなかった。
街に活気があると思ったら、どうやら、何かの祭りがあるらしい。道行く人の会話を小耳にはさむ限りでは、収穫祭のようなものが開かれるようだ。街の中心の広場で色々な出し物や料理の屋台が並ぶらしい。ディヴィさんが喜びそうな感じだ。見かけた隊商に着いていき、宿野が立ち並ぶ一角で今夜の宿を探す。
収穫祭ということで宿はどこも一杯だった。数軒捜し歩いて、やっと一軒、狭い屋根裏部屋で良ければ一部屋空いているところを見つけた。素泊まりで銀貨7枚だという。足元を見られているが仕方ない。ノアゼット様も了承したのでそこに決めた。携行食料の買い出しを済ませた後は、夕方までは部屋で寛ぐことにする。
部屋はやはり天井も低く、ベッドは2つしか無い。俺とアックスは床に毛布になるが仕方ないだろう。屋根と壁に囲まれているだけで感謝しなくちゃな。それに、何と言っても、ノアゼット様と一つ屋根の下。何があるわけじゃないが、いい響きじゃないか。
ディヴィさんがそわそわし始めたので夕方までには間があったが、広場に出かけることにする。広場はきれいに飾り付けられ、あちこちで催し物をやっていた。人だかりがするところの1カ所によってみると力試しをやっている。
長い鉄の板が公園にあるシーソーのように石の台に支えられて置いてある。ただ、支点は板の中心ではなく偏りがあった。板の長い側の先の上には、鉄製の円盤が乗っている。その円盤には穴が開いており1本の鉄の柱に刺さっていた。そして、鉄の板の短い側をハンマーでひっぱたき、円盤が鉄の柱の先端に到達するかを競うもののようだ。
俺たちが人の輪に加わると、丁度体格のいい男がハンマーを振り下ろしたところだった。ガーンと大きな音に続き、ドスンという音と共に観客の溜息が漏れる。円盤は鉄の柱の途中までしか上がらない。チャレンジ1回につき銅貨10枚で、成功したら今までの挑戦者の参加料の約半分がもらえるということになっていた。今では結構な銅貨の山が築かれている。
今、失敗した男がこれはどうやってもうまくいかないようになってんじゃねえかと負け惜しみを言う。店番のマッチョマンはそれを聞きとがめると、
「おいおい、人聞きの悪いことをいうもんじゃねえぜ。始める前に俺がちゃんとできることはやって見せたはずだ。なあ、お客さん」
それに応えて、周りの連中から肯定の声が上がる。
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