王の子と執事の子

その日から、大臣たちはリチャードの陰口を言うようになる。

病人だの、反逆者だの。そして、リチャードの耳が極端にとがっている特徴を持っているために、鬼やトロルなどと呼ばれることもあった。

そしてこの噂は、王都全体に広まっていった。

そのためリチャードの子、エドガーは15歳の思春期であり、街中から変わり者と言われている父が嫌いだった。エドガーは通っている執事学校でそれをみんなに知られて、からかわれることを恐れていた。耳の形も父そっくりであり、夏でも耳当てをして学校に来ていた。

そんなある夜、王宮で事件が起こる。

王とリチャードが何者かに暗殺されたのだ。

このとき、リチャードの手にはナイフが握られたまま倒れていた。

暗殺者が去る前に、倒れたリチャードにナイフを握らせていったことも考えられるが、リチャードの政治への反抗心を周知は知っていたため、暗黙の了解でリチャードが王を暗殺したとされた。というか、王様の子であるサウルが「王を殺したのは間違いなくリチャードしかいない。」と言い張ったことが一番大きかったように思う。とにかくそれからは、誰も暗殺の犯人捜しをしなかった。

王様の跡継ぎはサウル様がなった。

「待って待って、僕そんな王様きいたことがないよ。」

今回ばかりはルーカスが質問してきても無理はない。

「サウル様は歴史からその名を消された王だからね。」

「どうして消されてしまったの?」

「それも後で話すから」

エドガーは執事になるための研修で王宮見学に来ていた。そこにはサウルが王座に座っていました。

サウル様はエドガーと同い年で15歳だったけど、政治にはめっぽう厳しいお方だった。サウルが王になられてからしばらくしたある日、王宮に一人のペンキ塗りが連れて来られた。

サウル様はペンキ塗りに尋ねた。

「なぜおまえはペンキ塗りでありながら、パンを売っていたのだ。」

「私はペンキを塗っている時よりもパンをつくっている時のほうが幸せだからです。」ペンキ塗りは満足げにそう答えた。

「そーか。だが、パンをつくっているだけであれば私お前を呼び出したりはしない。お前が犯した悪事はその作ったパンを人に売ったことだ。」

「そんな悪事だなんて、ただ私はいつもより出来のいいパンが出来上がったので、皆さんにおすそ分けをしたまでです。なにより、好きなことをして、何が悪いんですか。」

サウルは足を上下させ、床にたたきつけながらだるそうにこの話を聞いていた。少し微笑みを見せる。

そして立ち上がり、王座の前を往復しながらしゃべり始めた。

「面倒だ。お前もリチャードの信者か。誤解をされては困る。私たちは何も自由を規制しているわけではない。治安を乱すものを粛正しているだけだ。」

「パンを売ることで治安を乱しているといいたいんですか。」

「そうだ。よし、お前にいいものを見せてやろう。」

サウルは衛兵の方をを向いた。

「連れてこい」

一人の衛兵に続いて、ペンキ屋のパンを持った人々が列をなして歩いてきます。そしてペンキ塗りの前にたちはだかる。、

「彼らはパンを買った者たちだ。では今から彼らにお前のパンについて感想を言ってもらおう。」

右端の青年が答える。

「小屋の中で、【ご自由にお持ちください】という看板とパンがおいてあったので、持って帰りました。無料なのであまり期待はしていませんでしたが、とても美味しかったです。」

ペンキ塗りは自慢げに王の方を見る。

しかし、王はまだ余裕そうだ。

青年は続きをしゃべっている。

「しかしあとでこのパンがペンキ塗りに作られたものだと聞かされて吐き気がしました。」

「そんなっ。」

次は横の女性が喋る。

「わたしは、子供と一緒にいただきました。子供も嬉しそうに食べていましたが、今はパンの中にペンキが入っていて、子供が死んでしまうじゃないかと心配です。」

「そんなわけないじゃないですか。」

サウルはもう次の人に話は振らず、ペンキ塗りの方を見て、

「もう十分っぽいな。」と話しかけた。

ペンキ塗りはかなり落ち込んでいた。というか、自分の無力さを悔しがっているようにも思える。

大の大人が悔し涙をしくしく流す。

サウルが「では、最後にこのパンに対する感想を態度で示してほしい。」そう言うと、

横一列に並んだ人々が一斉にパンを持った手を前に差し伸べてそれを落とす。

そのあとみんなで落ちたパンをぐちゃぐちゃに踏みつけた。

「やめろぉぉ」

ペンキ塗りはそう泣き叫んだが、人々はパンを踏むのをやめない。

サウルはエドガー達の方を見て、

「見習い執事たちよ、ここを掃除してくれ」

エドガーは泣きわめくペンキ塗りを横目に掃除していた。

だんだん、そのペンキ塗りに腹が立ってきた。

「私の父なんかの真似事をするからこうなるのだ。」

エドガーは今は亡き父に話すようにペンキ塗りに怒りをぶつけ続けた。

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