第29話
『ベヒモス襲撃事件』から三日が経過していた。街は市壁に穴が開き、街の出入りが可能になり市壁の外の者が頻繁に出入りに使っているようである。目的としては街の市場を使えるということも大きいが、市門の前に取り残された荷車等の廃棄物の回収に来て再利用できるものなどを回収している様である。ちなみに開けた穴が大きすぎたため修復の目処は立っていないよういないようである。市門が機能しなくなったことから門番が穴の両端に立っているが検問等、通行税もこれだけ多くの人の出入りがあると機能していないようで暇そうに突っ立っているだけだ。
奇跡的に今回の事件で死者が出るという事はなかったようである。まさにエレノア達やギルドの冒険者たちの頑張りの賜物である。最も負傷者はそこそこ出したようだが。
街の冒険者のほとんどを今回の掃討作戦に駆り出したので、ほとんどが病院送り。ギルドはいつもとはうって変わってガラガラである。
露店は普段通り復旧したようだが、如何せん建物の破損や品物が駄目になってしまったという理由で普段より若干品物が高い。逆に言えばその程度の変化しかないようである。
そして今回の現況であるベヒモスの〝ベヒ美〟は今回ベヒモスを討伐したタカシ・ボルフシュテンの手に委ねられた。その後ベヒモスがどうなったのかはギルドの者達もしらない。
そして街を救ったと言われる当のタカシはというと事件以降暫く街では見かけない。連れのアリシアに関してもそうだ。逆にエレノアを中心とするうりぼうズの面々は今回の功績で一気に白等級から二段階階級があがり黒等級冒険者になった。彼女らもここなしか誇らしげだ。
階級が上がったのは彼女だけではない。アリシアも今回の活躍を評価され黒等級冒険者となった。しかし今だに新しいペンダントを受け取りには来ていない。
そんなアリシアの黒等級冒険者のペンダントを眺めながらギルドの受付嬢アリスは暇を持て余していた。
「はぁ……ほんとなんだったのかしら」
アリスは黒等級のペンダントを置き、横にある銀色のペンダントを手に取る。そのペンダントにはタカシ・ボルフシュテンと綴られていた。
ベヒモス討伐後すぐボロボロの体でタカシはギルドまで直接きてこの銀等級のペンダントと、こないだ来た時に受け取りを断った白等級のペンダントを交換してくれとやってきたのだ。無論ダンジョンモンスターの中でも危険度がそれなりに高いベヒモスを倒す実力者であるので無論アリスは断ったのだが、タカシもかたくなに譲らなかったため、渋々交換したのだ。
「フフッ、ほんと変わってる。はぁ……暇だぁ」
思わず体を伸ばし、机の上にうつ伏せで横になる。
そしてふと呟く。
「今なにやってるんだろうなぁあの人たち」
二つの銀と黒のペンダントに囁くが無論答えは返ってこなかった。
当のタカシはというと市壁の外にある山にいた。そしてその横にはベヒ美の姿があった。ベヒ美に背を預けタカシは深い寝息を立てている。その寝息を邪魔するかの様にタカシの鼻を摘まむ手があった。
「ッ!?ふがッ、ってアリシアちゃんかよ」
突然鼻を摘ままれ咄嗟に目を覚ますと目の前には不敵に笑うアリシアの姿があった。
「こんなとこで寝たら風邪ひいちゃいますよ」
「いいさ。俺のせいでベヒ美には痛い思いさせちゃったしな。風邪ぐらいそれに比べればへっちゃらさ」
「そっか」
「うん」
「ねぇ……なんで銀等級のペンダントと白等級のペンダント交換してきちゃったんですか?」
アリシアはずっと疑問であった。銀等級のペンダントを持っていれば色々な局面で有利に働くというのにそれを捨て一からやり直そうというタカシの考えが理解できなかった。
タカシは少し考え、困った顔で笑った。
「いや俺のせいで、ベヒ美放置プレイしたから大暴れして街に被害をもたらした。だからそれを止めた俺は別に英雄でもなんでもない。ただ飼い主としての義務を果たしただけだ。だから別に銀等級の活躍をしたわけじゃないんだよ。当たり前の事を当たり前にしただけだ。それにね……」
「ん?」
タカシは立ち上がりベヒ美の顔を撫でながら、言った。
「最初から強いなんて面白くないんだよ」
その答えにアリシアは目を丸くすると、笑った。
「そっか。タカシさんらしいですね」
「そうかな」
「そうですよ」
笑う二人を後目に、草むらに置かれた二つの白等級のペンダントに光が収束し、文字として綴られる。そこには……。
タカシ・ボルフシュテン 十七歳(童貞) オス
レベル 15レベル(LEVEL UP)
職業 トン汁使い
スキル 豚汁
スカウトン汁
ロケットン汁
ロケットン汁・貝(NEW)
相棒 フレア(NEW)
仲間 アリシア(NEW)
ベヒ美(NEW)
アリシア 十七歳(処女) メス
レベル 11レベル
職業 魔法使い(エルフっぽい)
スキル フレア
ゴーレム生成
仲間 タカシ・ボルフシュテン(NEW)
ベヒ美(NEW)
と書かれてた。しかしタカシ達はまだ、というかいつも知らない。不敵にベヒ美とタカシ、
アリシアの二人と一匹を見つめる影の存在を。
そして彼の手元に茶色い球体が渦巻いている事も。しかしそれはまた別の話である。
タカシ達の冒険はこの先もまだまだ続いていくのだろう。タカシ自身が前世で見つけられなかった意味のある〝何か〟を見つけるその日まで。
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