オープニング1
5年前に時は遡る。
ブラッドヴェインこと莫 燕が祝を手にする以前、善悪両斬のヴィランだった頃────
燕の前には一人の青年が立っている。
幅広の西洋剣を両手で真っ直ぐ構え、彼は告げる。
「ブラッドヴェイン……止まれ!」
「私はヒーロー、プライドナイトだ! 一応聞いておくが、今ここで投降するつもりはないか?」
「ならばここで倒す!」
青年は大きく跳んで斬りかかってくる!
演出で好きに殺させる。
「そ……んな……」
戦えぬ身、斬った身に興味は最早ない。
燕が立ち去ろうとしたその時──ぱちぱち、と拍手が燕のすぐ背後で鳴る。
無論、燕は気配に鈍感ではない。残心怠らぬ今なら尚更である。
つまり────背後にいるは手練れ。
(無音の空間の効果です)
その男は燕の一閃を平然とかわす。
燕はこの男を知っていた。
かつて暗殺剣術の修行をしていた頃、同じ師匠についた兄弟子の一人、〈狗〉とだけ名乗っていた男。
修行時代のある日、狗は凶行に走る。
立ち会い相手の弟子仲間から始まり、修練堂にいた者に全てに斬りかかり、弟子達も師も鏖殺した。
生き残ったのはただ一人。
狗と応戦した中で唯一対等に渡り合ったため、お互いに殺せなかった燕だけである。
「やっほ燕ちゃぁん! お久やな!」
「お堂にはおらんかったし、何してたん?」
軽い調子で話しかける狗。
「それで早速なんやけど……今の奴やと燕ちゃん物足りんかったと違う?」
「ちょっと俺の相手してえや」
その言葉を紡いで一瞬。
狗は抜刀していた。
荒々しくも正確無比な斬撃が燕を襲う!
狗は返事も聞かず、殺す気で攻撃を開始した!
互いの閃きが幾度か瞬いて、狗は唐突に距離を開ける。
「ま、こんなもんか。今回もあいこや」
そう言って得物を気怠げに燕へ投げつける。
燕が飛んできた刀を自分の刀で弾いたその瞬間。
ばきり、と音を立てて互いの刀が砕け折れる。
「ははは、しゃーない、得物がもたへんかった。それなりに楽しんだから帰るわ! 燕ちゃんもええ刀探しときや~」
狗はそう言って立ち去った。
それから狗とは何度も相まみえることとなったが、結局決着が付くことは無かった。
そして現在……の1ヶ月前。
(前回のエンディングに合わせる)
「燕ちゃ~ん!」
呼び掛ける声。そこに狗がいた。
蹲踞に手を突く姿勢はガーゴイルの怪物が如く。
「元気しとった?」
「なんや俺が出掛けてる間に燕ちゃんヒーローなったってホンマ?」
「なるほど自分が祝ちゃんか!賑やかでええのう!」
「ほな帰るわ。」
最後の挨拶をする狗の笑みは崩れていないが、その双眸は冷たい輝きを放っていた。
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