13話ー⑤『姉』
「申し訳ありません。中途半端なところで……」
俺と彗の怪我を治癒し、再びロビーに戻ってきた俺達。風峰さんがそう謝ると、けらけら笑いながら、橘が俺の肩に腕を回してきた。
「いやいや! 楽しかったからいいぜ! なっ! 鎖金!」
「あ、ああ……」
「橘さん。隠れるのがお上手ですね。気配を感じ取れませんでした」
「そうか? えへへー」
照れ臭そうに鼻の下を擦る橘。流れるように、風峰さんは俺を見る。
「鎖金さんも、よくカヤを掴めましたね」
「あ、あれは………ほぼ運のお陰っていうか……」
あんまり堂々とは喜べない。何故なら本当に、運のお陰だからだ。
光が放たれる直前、飛炎さんのいる位置を大体把握し、そこへ目掛けて魔法を唱えただけだ。あの時俺の視界はまぶたの裏側だったし、飛炎さんが動いていれば掴むことは出来なかっただろう。運が良かったとしか言いようがない。
「運も実力のうちですよ。ね、クウ?」
「そうだね! ワタシもそのお陰で魔警察になれたし!」
はは……俺もいつか、運良く魔警察になれるといいなあ。
風峰さんは、彗にも目を向ける。
「強かったですよ。天神さん」
「………どうも」
じっと風峰さんを睨む彗。彗と飛炎さんは未だに不満そうな顔をしていた。
やっぱり決着をつけたかったんだろうな。それにしてもこの二人、案外似てるのかも……。
「周りと協力すると、格段に戦闘力は上がるでしょう?」
「………そうですね」
「一人じゃ何も出来ないものね」
飛炎さんの言葉に、彗が物凄い形相で睨んだ。飛炎さんも睨み返す。橙とワインレッドの視線が鋭く交差する。
そんな飛炎さんの肩を軽く叩く風峰さん。
「では、我々はここで失礼します。今日いっぱい署内を見学することが出来ますので、どうぞ遠慮なく見て回ってください」
「まあ見てもしょうがないと思うけどね」
「じゃあねー! 今度女の子紹介してねー!」
風峰さん達はそう言い残して、ロビーから去っていった。少しの沈黙が続く。橘は辺りを見回し、笑いながら言い放った。
「オレ、色んな奴らに声かけてくるな!」
「ああ。じゃあ」
「ああ! あっ、番号交換しようぜ!」
携帯を取り出す橘。言われるままに俺も携帯を出し、電話番号を交換した。続けて橘は、彗へ携帯を向ける。不審そうに彗が首を傾げた。
「何?」
「交換!」
「何で私も?」
「友達になっただろ?」
彗が目を見開いた。そのまま少し経ち、深いため息を吐きながら携帯を取り出した。
「…………はい」
「サンキュ!」
交換が終わると、橘はあっという間に去っていった。取り残される俺と彗。再び沈黙が流れた。
彗も交換に応じるとは……意外。断っても無駄だと思ったのかもな。
さて。見学したいから、俺も行こうかな。
「じゃあ、俺も……」
「雷はどうしてる?」
「え?」
いきなり予想外のワードが出てきて、唖然としてしまった。彗は近くの椅子に腰掛け、ふっと俺を見上げる。
「会ってるんでしょ?」
「あ、ああ……」
「生きてる?」
生きてるって、そりゃ生きてるけど。急にそんなことを訊いてくるとは……。
「元気だよ。今まで通り」
「……そう」
それだけ言って、顔を逸らされる。
何なんだ? まさか、雷のことが心配なのか? 仲が悪いって聞いていたけど……。
――――――やっぱりどんなに嫌ってても、姉として妹のことが気になるのか。
「………それなら、会いに来ればいいのに」
「は?」
「あっ」
し、しまった! 思わず心の声が口から漏れてしまった!
ギロリと睨まれる。バッチリ聞かれている。今更言い逃れは出来ない。おそるおそる、俺は声を絞り出した。
「………心配なら、会いに来れば?」
「心配? 違う。少し気になっただけ」
「気になった?」
「闇軍に騙されてないか、とか」
「………やっぱり、心配してるんじゃないか」
「違う」
断固として否定する彗。頬を膨らませて、また顔を逸らされた。
心配なんだなあ。何だか微笑ましい。雷に聞かせてやりたいくらいだ。
――――――あ、そうだ。
「なあ、この後一緒に会いに行くか?」
「……………」
「雷に」
彗は動かず、黙ったままだった。しばらく待ってみたが、返答は無かった。
まあ、行かないよな。ある意味、雷は敵だもんな。
「……じゃあ」
それだけ言って、俺はその場を後にした。彗は何も言わなかった。
――――――もし雷と彗が仲良くなれば、軍の関係も少し良くなるかもしれない。そうすれば、雷も家出なんてしなくて済む。白夜とも堂々と会える。
何か俺に出来ることがあれば………よし。帰ったら、皆に相談してみるか。
「すみません。署内を見学したいのですが……」
俺は、近くにいた魔警察に声をかけた。
13話 完
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