第7回:参加する勇者は年々増えてます

□子供たちの笑顔が、何よりも証拠□



花:すごい熱気ですね。ここは何をやってるんですか?

魔:ここは『精製所』ですね。洞窟内にはバトル場だけではなく、こうした場所も存在します。精製所は武器や防具に使う材料を加工する所。勇者が使っている剣やシールドが、魔族の皮だったり爪を素材にしているのは知ってますよね?

花:はい。

魔:魔族の体は硬い鱗で出来ていたり、武器にするのにぴったりなんですよね。数百年前は、そんな魔族の骨や肉を求めて狩りに来る酔狂な人間たちも少なくありませんでした。ただ、より硬度や純度の高い武器にするためには、爪をそのまま使うんじゃなくてある程度不純物を取り除く作業が必要だったんです。つまり精製ですね。人間たちは、何とか自分たちだけで魔族の素材を加工しようと精製所を作っていましたが……。


花:失敗してしまった?

魔:いえ、成功しそうだったので全部つぶしました。

花:ええっ!?

魔:人間だけで加工まで全部やらせたら、魔物を襲う輩も後を絶たないし。それに魔族側にちっともうまみがないじゃないですか。だから魔族側が、自分たちのいらなくなった爪や皮膚を人間に売れるような精製所や市場を洞窟内に作ったんです。これが大反響で……。

花:魔王さま、なかなか阿漕な商売してますね……。


魔:いえいえ(笑)。ちゃんと加工した素材は適正価格で販売しています。良い面もあったんですよ。市場が出来たおかげで、魔物をむやみに襲う人間は劇的に減りましたし。魔族側にも人間の通貨が流通することで、人と魔族の間に交流が生まれました。本当に良かったです……長年の、悩みでしたから……。

花:なるほど。じゃあ、この精製所が魔族のリサイクルショップみたいなものなんですね。

魔:リサ……? 何ですかそれは?

花:いらなくなったものを売ったり、安く買ったりするお店です。

魔:ああなるほど。人間の世界にはそんな店まであるんですね。面白いですね、今度魔界でも作ってみようかなあ(笑)。



ーーここに来てすっかり腕利き経営者気取りの魔王(写真17)。あなたがやりたかったのは世界征服なのか、それとも単なるお金儲けなのか。出来ることなら小一時間問い詰めたい。資本主義の犬へと成り下がった魔王は、さらに洞窟の隅々を取材班に案内してくれた。



魔:今は、来月から始まる『イベントクエスト』の準備を進めてるんですよ。

花:『イベントクエスト』?

魔:はい。期間限定で行うお祭りみたいなものです。こちらが指定した魔族を一定数倒したら、参加者に特別な素材をプレゼントしたり。だから、プレゼントするための素材を急ピッチで作らせているところです。みんなで爪切ったり、髪切ったり。

花:話だけ聞くとなんだかほのぼのしてますね。

魔:でもこれが意外と大変なんですよ。参加する勇者は年々増えてますし。魔族は魔族で、何人もの勇者を連続で相手にしなきゃいけない訳ですから。

花:そのイベントクエストには、毎年どれくらい勇者が参加されるんですか?

魔:大体毎月一回は開催してるんですけど、百万人以上は参加してくれますね。

花:百万!?

魔:累計では、一千万人は下らないと思います。来月のイベントは、『来場累計一千万記念キャンペーン』として、私の角やエルザ先輩の鱗も用意する予定です。

花:魔王さまの角! 

魔:ぜひ宣伝しといてください(笑)。



ーーついにインタビュー内で宣伝を入れ始めた魔王。これ以上私腹を肥やそうと言うのか。仮に参加料を一人百ルビィ取ったとしても、百万人を動員するならそれだけで一億ルビィである。しかも材料は自分たちの爪や髪の毛! こんな横暴が許されて良いのか。魔王さま……いや魔王に直接話を聞いてみた。



魔:売り上げは人件費や経費を除いて、全て戦争で怪我をしたり、身寄りを無くした子供たちの援助に使っています。

花:大体悪い奴はみんなそう言うんですよね。本当なんですか? 証拠はあるんですか?

魔:花園さん、今日は何か機嫌が悪いですね……?

花:気にしないでください。腕が痛いだけなんで。

魔:参ったなあ。証拠は……子供たちの笑顔が、何よりも証拠じゃないでしょうか?



ーー詭弁である。やはり魔王は魔王に過ぎなかったのか。わざわざ『カレーが好きだ』なんて庶民派アピールをしておいて、裏では金にモノを言わせて酒池肉林の乱痴気パーティをやっているに違いない。経費や人件費の詳しい内訳について追求したいところだが、残念ながら取材班の力が及ぶのはここまでであった。



魔:いやちゃんと追求してくださいよ。じゃないと、私が本当にお金を不正に使ってるみたいじゃないですか。

花:申し訳ございません、取材時間の関係もあるので。

魔:レシートとか見せましょうか? 何に使ってるとか、会計係が記録してるので……。

花:取材時間の関係もあるので。



□お互いのことを知れば、きっと争いも減ると思う□



花:さて、大分時間にも余裕があるので、ここからはエリザさまにも再度登場してもらいましょう。

魔:あるんじゃないですか、時間。

花:エリザさま。魔王さまは世界征服した時に『週に一回は勉強をする』と言うのを定めました。

エ:私ら基本人間の文字は読めないからねー。確かに勉強すれば、もっと色々な本が読めるかも。そう言うのハル得意だよね?

魔:ありがとうございます(笑)。私は昔から人間の本とか興味あって。読めば、面白いんですよこれが。魔族のみんなにも良さを知って欲しいんですよね。お互いのことを知れば、きっと争いも減ると思うし。だから週に一回だけでも、お互いがお互いのこと勉強してもらって……。


花:なるほど、何だかとても考えさせられるお話ですね。ではエリザさまと魔王さまには、今から『カレー大食い対決』をしてもらいます!

魔:ちょっと待ってください。カレーと今の話と、なんの関係もないじゃないですか! 『速読対決』とかならまだしも……。

花:魔王さまが勝ったら、メイド服に着替えてもらいます。

エ:いいねえ! それは見てみたい(笑)!

魔:なんで私が勝ったら、いつも罰ゲームみたいな扱い受けるんですか?


花:エリザさまが勝ったら、エリザさまがメイド服で魔王軍へ仲間入りです。

魔:!? 先輩、良いんですか!?

エ:良いぃだろう(笑)。こりゃ、燃えるねえ!

花:魔王さま、これは責任重大ですね。エリザさまにはファンも多いですから。

魔:……ファンとしてはメイド服姿が見たいのだろうが、仮にも先輩に罰ゲームでそんな格好をさせるなどと、私は後輩としてどっちを選択すれば……!

花:レディファイト!!

魔:待って……心の準備が……!



□三分後□



エ:私もう食べられな〜い! 負けましたあ!

花:はい! 魔王さまの勝ち!

魔:ちょ、待ってください……! もう!?

エ:いやあ、ハルの配下になってみたかったねえ。惜しいことしたかなあ。

花:さすがですね、魔王さま。カレーに対する愛が半端じゃない。

魔:確かにカレーは好きですけど……先輩、わざとやってるでしょう!?

花:では勝った魔王さまがメイド服です。こちらへどうぞ。

エ:楽しみだねえ(笑)。早く着替えといで! 私、ゆっくりカレー食べながら待ってるから。

花:さ、魔王さまこっちです。

魔:ちょっと……おかしいでしょうこの対決!? 勝負になってな……!

花:申し訳ございません、取材時間の関係もあるので。



(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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