隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!

てこ/ひかり

第一部 

第1回:かつて自分を熱狂させてくれた征服

□世界征服なんて、するだけ赤字□


花:初めまして。

魔:初めまして、魔王です。

花:インタビュアーの花園優佳です、今日はよろしくお願いします。

魔:こちらこそよろしくお願いします。


花:早速ですが魔王さん、あなたは先日、日本時間の十八日午前四時三十分、とうとうファンタジア全土征服を成し遂げられましたね。

魔:そうですね。

花:おめでとうございます! 吉報は日本にまで届いていますよ。

魔:ありがとうございます。

花:世界を征服されて、今年度は現役から一旦退いて隠居されると言う事ですが、その辺りは?

魔:ええ。そのつもりです。私も歳を取って……自分がまだ知らない、もっと色々な世界を見たいと言うのもあるし。今はもう、何も考えずゆっくりしたいですね(笑)。



ーー剣と魔法の異世界・ファンタジアの征服を成し遂げた魔王(写真1)。彼は髑髏の形をしたマスクを被っていて、表情こそ伺えなかったが、少し照れたように雲が浮かぶ青い空を見上げた。その言葉にはベテラン征服者としての風格と、そして達成したことへの喜びが滲んでいた。そんな魔王の素顔に迫る。



花:今回の世界征服はいかがでしたか?

魔:そうですね、計画は約三年前からありました。前回の世界征服がもう三百年以上前……ここら辺で新しいコンセプトの征服を、やってもいいんじゃないかな、と思って。

花:新しいコンセプトの征服?

魔:はい。前回の世界征服は、わりと大規模な都市がメインで、地方まで蹂躙の手が伸びませんでした。そこで今回は人口のキャパやコストを度外視して、小さな村も見落とさず『巡回』して行くことにしたんです。


花:非常に思い切ったアイディアですよね。生々しい話ですが、採算は取れたのでしょうか?

魔:イヤイヤ、取れませんよ(笑)。世界征服なんて、するだけ赤字です。やればやるだけ、金も人もどんどん無くなって行く……。

花:それでも、今回世界征服に踏み切ったのは?

魔:それは私が……魔族だったからでしょうかね。



ーー新しいコンセプトの征服。三百年以上を経て、征服者の価値観もこの世界も様変わりしていることを、魔王はその慧眼で鋭く読み取っていた。分厚い鎧の隙間から、ところどころ爬虫類のような鱗を覗かせる魔王(写真2)。魔王の生まれは、魔族であった。ここ最近の事例を見ても、世界征服を成し遂げた者は人間族より魔族出身者の方が多い。やはり彼が征服を望んだのも、その血筋故なのだろうか。ここから世界征服のテーマ、それから今後の征服業界への独自の展望など、さらにインタビューは熱く濃くなっていく。



□あの当時自分を熱狂させてくれた征服に、一歩でも近づきたい□


花:今回の世界征服について何かテーマがあればお聞かせください。

魔:テーマ……そうですね。前回が”調停”の名の下に世界を征服したので……。

花:…………。

魔:今回も同じような感じだったと思います。

花:三百年経っても、テーマは変わりなく?


魔:はい。征服者の中には、『前回と同じテーマでやるのはワンパターンだ、芸がない』という輩もいますけど、私はそうは思いません。むしろ魔族一匹が一生涯に掲げておける理想なんて、そう多くない、と。

花:前回の戦争を止められたのも、魔王さまでしたよね? 前回との違いは特に感じない?

魔:(笑)。うーん……三百年前とは魔術も価値観もすっかり変わってますが、面白いことに、人と魔族の境界線は、より曖昧なものになってるという印象ですね。


花:と、言うのは?

魔:前回の第七次ファンタジア世界戦争は面白半分に人を襲う魔族に憤慨し、人間たちが勇気を出して立ち上がった。ところが現代は、人も魔族と同じくらい、いやそれ以上に高度な魔術を操ってます。面白半分に魔族を狩る人間たちに、魔物たちが怒りをなして……。

花:立場が逆転していますね。

魔:昔は魔族と言えば、『人間を襲う気味の悪い輩』でした。ああ、別にどちらが悪者だって話じゃないんです。私なんかは魔族出身ですけど、魔族が悪くないとは言いませんよ。自分たちは以前同じことをやっておいて、やられる側になったら憤るんだから。でもこれじゃキリがないなって。



ーー変わりゆくものと、変わらないもの。歴史の生き証人として、戦禍の中心人物としての魔王。そんな彼が、今現代のファンタジアに向けて提示する渾身の世界征服とは。



花:それでは今回の世界征服について、一村ごとに解説していただこうと思ってるんですが、よろしいですか?

魔:わかりました。

花:まずは最初に征服された『アウシュテルリッツ村』……。

魔:はい。『アウシュテルリッツ村』。良い村でした。人口は少ないけど、あそこは近くに海があって、ウサギノオトシゴとかホタルホタテとか、うまい魚が良く取れるんですよ。

花:一村目に『アウシュテルリッツ村』を持ってきた狙いは?


魔:狙いも何も、家から近かったから(笑)。

一同:笑。

花:征服について詳しく教えてください。

魔:そうですね。最近の流行りは、やっぱり”焼き討ち”じゃないですか。

花:ああ……流行ってますよね、焼き討ち。


魔:でも『アウシュテルリッツ村』については、焼き討ちは一切取り入れてません。自分の手で剣を握り、前線に立つことを徹底しました。

花:そこには何かこだわりが?

魔:それはやっぱり、私のルーツですから。九十年代の……。子供の頃に憧れたものって、どこかで胸に残ってて。あの当時幼かった自分を熱狂させてくれた征服に、一歩でも近づきたいと言うのが、私の征服活動の原点でもあるんですよね。それはいくらお金を積んでも買えないから。


花:魔王さまは、流行はあまりお好きではない?

魔:はっきり嫌いだった時期もありましたけどね。でもこの世界、流行り廃りはいつの時代もあるので。焼き討ちは便利だし、スピード感もあって見ていて爽快ですよね。若い子に受けてるのも何となく理由は分かってます。今後はもっと、手軽でスピード感のある世界征服が流行って行くんじゃないかな。でもだからってそれを無理に自分に取り入れちゃうのは、征服の意義というか、自分の中の『魔王かくあるべし』みたいなのがぶれちゃいそうで嫌なんです。

花:確かに『アウシュテルリッツ村』は、魔王さまが自ら前線に立って村人と戦ってますね。昨今は情報戦がメインだったりするので、これほどの肉弾戦をやってる征服者は中々いないと思います。

魔:ありがとうございます。



ーーあくまでも、自分の手で征服することにこだわる。口調は穏やかだったが、そこには魔王の確かな意志を感じられた。インタビュー中、何度も水を口にする魔王(写真3)。次回のインタビューでは、二村目の征服の様子や魔王さまの心境などを写真を交えながらお届けする。


(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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