ノストラダムスのその前に


久しぶりに、この部屋の電気をつけた。

姉の残していった大量の、天文学の本。

分厚いハードカバーの見本市みたいで、なんとなく笑える。


終末が週末にくることが発表されて、世界がパニックになっても、この田舎は特に変わらない。

もともと私の働くこの病院は、末期ガンだとか、そういうばかりが入院している。

だから、たまたま死ぬ日がわかりました、みたいなノリなのだ。

患者さんは笑いながら、「道連れにしちまって悪いな」と悪びれもなく言う。

そんな雰囲気なので、自分が死ぬとか実感がもてない。


そう、重要なのは、「ノストラダムス」衝突により、私の死ぬ時の年齢が二十四なのか、二十五なのか。

それだ。


この巨大な隕石「ノストラダムス」は、なぜどの惑星にも衝突せずに、地球にやってきたのか。

様々な文献をあさって、色々な仮説をたてた。

まず、「猫まっしぐら」よろしく、「ノストラダムスまっしぐら」だった。

真っ直ぐ地球に向かってきたので、動いていると認識できなかった。

そういった仮説をたてて、私は一人、衝突する時間を計算していた。

うーん、理系でよかった。


そういえば、文系のあの男はどうしているだろうか。

なんとなく、脳裏をよぎる。

ひょっとしたら、生活能力が欠けているから、終末の恐怖で小便たらして死んでるかもな。うん、ありえる。

私は少し不謹慎ながら、肩を揺らして笑う。

変なやつだった。

私のことが好きなくせに、いっこうに告白しない。

男友達として、謎の地位を築き上げ、私のそばにいた。

何も求めてこないし、何も与えてくれなかった。

私が引っ越す時も、「じゃあ、気をつけて」しかなかった。

泣けよ!お前の妹みたいに泣いて縋れ!!!

正直、あれは最大の告白するタイミングだっただろう。

それをみすみす見逃しおって。


だから、実は私が自意識過剰で、あいつは私のだったつもりなのでは?と疑惑だ。

だから、別に終末だろうと来ない。

だって私のことをなんとも思ってないのだから。


なのに、なぜか私はクーラーボックスに、ご丁寧にハンバーグ用の材料を保管している。

もし、このまま何も無かったら、終末がきたら。

食べられることなく、隕石に無様に蹴散らされるのか、この材料。

私は、クーラーボックスにデコピンした。


「早く、来るなら来いよ」


終末か、あの男か。

どっちが来るのが早いかな。

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