第122話 イゾルデの嫉妬

イゾルデ・ニコリッチは、小さなころから何でも

できる子どもだった。

 

幼稚園のころ、ケンカも強かったイゾルデは、

男の子たちを使って、幼稚園で飼っている

カブトムシの幼虫を盗ませる。そして、それが

親に見つかって怒られた。

 

走るのも同年代の男女と比べてダントツに早かった

し、勉強もできた。とにかく、ほとんど努力も

しないで、他人に勝つことができた。

 

歌もうまかったし、音楽の才能もあった。小さな

ころからピアノやバイオリンの稽古を行っていた。

 

家も裕福だった。彼女の父が経営するニコリッチ

商会は、軍事兵器を中心に様々な商品を

取り扱っていた。

 

イゾルデが親と住む家は、地球のラグランジュ点

第3エリアにあった。ここは、地球の公転円上に

あり、太陽を挟んで地球とは反対側にある。

 

地球から遠いこともあって、辺境のイメージが

強かったが、現在ではそのエリアに3000億の

人々が暮らす。

 

彼女は、その鋭い目つきを和らげれば、美少女の

部類に入る外見をしていた。実際、あまり身近に

いない異性や同性からは人気があり、そして常に

影の実力者、という感じだった。

 

始めて他人に対して苛立ちを感じたのは、父と

一緒に参加した、同業種の会合だった。その

相手は、マフノ重工の令嬢だという。

 

マルーシャ・マフノと呼ばれるその女性は、

優雅に、そして冷たい表情で、なんでもやって

のけた。

 

おそらく、イゾルデの父がその会合のまとめ役

であれば、立場は逆だったかもしれない。

 

そんなイゾルデも二十歳を超え、法学部を

卒業し、弁護士資格を取り、マーシャルアーツ

では同年代の同体重クラスではもう勝てる者も

いないレベルに達していた。

 

彼女は人型機械の操縦にも優れた才能を示した。

ニコリッチ商会ではそれらの開発やテストも

行っていたのだ。

 

そのころ彼女を虜にしたのは、反出生主義という

思想だった。こんなにも、自分から劣る人間たちが、

たくさん増えたところで何になろうか。

 

そして、逆に人類を増やす方向へ向かわせる思想

が非常に気になってきた。思想そのものが持つ、

人間を動かす力に気づいてきた。

 

この人類をコントロールする力を得たい、そして、

いつかあの娘を、嫉妬させたい。その瞬間を

いつも思い描くようになっていた。

 

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