85話 現れた第二の刺客はクソガキですか?

 耳に聞こえる魂の声がザワザワと騒ぎ始めると同時に肌の一番上の表面を摘むような感覚が体全体を覆っている。


 気配探知では感じないが何か来る。

 そう、六感がつぶやいていた。


 喧嘩するソフィーを抱きかかえエリーとベネッタに机の中に入るう様に促す。

 一応、他の生徒達は【ヘイケ】を使って守れる様に準備する。


「えっ!? イッセイ君何? ここだとみんな見てるから別の「ソフィー。敵襲です。」えっ!?」


 急な出来事に付いてこれないソフィーが変な声を出していたが、頭を抑え俺の胸元に寄せる。


 −−ドゴォオオン。

 −−グラグラ。


「きゃあ。」


「「「きゃああああ。」」」

「「「うわああああ。」」」


 気配を感じた瞬間には研究棟の方から爆破音が聞こえて来て、ソフィーや他の食堂にいる人達が突然の出来事に驚きの声を上げていた。


「ヘイケ」


 俺がそう呼ぶと左手に付いていた腕輪は、一度篭手の形に戻ると直ぐに大きく広がって食堂にいる全員を包み込んだ。


「クソガキ共、生きてますか?って、何じゃこりゃー?」


 食堂に腹黒毒製造機のウサミミが駆け込んできた。どうやら、今日見学に来た子供達が心配だったらしい。

 皆は今は俺が作った対ショックの為に作った防御壁に強制的に隠れている。と言うよりもヘイケに吸い込まれていった。


 恐らく中では柔らかい何かに挟まれて変な感覚に包まれているだろう。イメージとしてはビーズクッションをイメージしておいた。

 逆に外側から見れば変異したスライムにしか見えない・・・。

 体が銀色なので、動きは素早さそうだがな。


 事実、目の前のウサミミはモンスターだと勘違いしていて、目を輝かせていた。


「うわぁ。新種のモンスターかな? 研究したいわー。」


 若干想像と違う反応を返された・・・


「僕が出した魔導具です。」

「うぉ。ビックリした。」


 どんだけヘイケに集中してたんだ。


「ミサキさん。このまま外に出ましょう。」

「え。あ、はい。これってこのまま動くのデスか?」

「はい。僕の魔力である程度は動かせますよ。」

「マジっすか? 何だこれ。研究してぇ。」


 ヘイケを目の前にヨダレを垂らしている。

 あっ、やっぱりそっち系の人なんだと思った。


「あのー。脱出・・・」

「ハッ。私としたことが! コッチです付いてくるデス。」


 正に脱兎の如く、すごい速度で走り抜けていった。

 つーか、早え。誰もついて行けねえ。

 仕方ない役に立たない腹黒ウサミミはビュンと言う効果音を出しながら、俺達を置いてさっさと走り去ってしまった。


 全く使えないやつだ・・・・。


「バッカス。」

「全部見とった。あとは任せるんじゃ。」

「うん。皆をお願いね。」


 120cm程の大きさのバッカスがひょっこりと姿を表す。

 大きくして出てきてもらったのには訳があり。

 抱きかかえていたソフィーをバッカス渡す。


「ソフィー。後はバッカスが守ってくれる。」

「イッセイ君は?」

「僕は中にいる生存者を探すよ。エリー、ベネッタ。ソフィーと皆をお願い。」

「私も行くわ。」

「私も。」


 エリーとまさかベネッタも一緒に来るって言うとは思わなかったが、


「嬢ちゃん達。こっちの皆が襲われたらどうすんだ? 仲間は見殺しか? ワシだって全員は守れんぞ。」

「「!?」」


 バッカスが2人を諭す。

 まぁ、バッカス1人いれば問題は無いだろうが連れ出して貰うのが目的なので流石はバッカスだと感心する。


「イッセイ君。生存者をお願いします。」

「お任せください。ソフィア様。」


 民を思うソフィーに敬意を表して貴族礼をする。


「ヘイケ。」


 俺がそう名前を呼ぶとまるで俺の意思がそのままの伝わったかのように【ヘイケ】はバッカスの後を追って移動していった。


 ズズズ。っと体を収縮させて進む姿は確かにモンスターっぽい。

 動きまでリアルじゃなくて良いと思うのだが・・・。


 まぁ、無動作でスーッと動かれても気持ち悪いし良いか。



 −−ボガン!!

 −−グオオオオオオオ


 そんな事を考えていたら研究棟の方で爆発音とモンスターの叫び声が聞こえてきた。

 多分、ケージに入れられていたモンスター達が外に出たのだろう。

 って、それって不味くないか?


「非戦闘員もいることだし助けに行かなきゃ。ねぇ、ヴィル。これはどういう状況かな?」


 俺は隠していたヴィルを外に出す。

 ナイフの形をして姿を隠していたヴィルはいつものショートソード並に体を変えて宙に浮いていた。


「言わずもがなって感じか。」

「やっぱり?」

「あぁ。間違いねえ奴等がいる。」


 奴らヴィルは決まって【外来種】の事をそう呼ぶ。

 金○様がいるって言ってたが、奴ら本当にいたんだ。

 世界樹で会ったボールズを思い出して手がチリチリした気がしたが無視した。

 今はそんな事を考えても仕方がない。


「俺が先行する。」

「あっ、ちょ・・・。まっ!!?」


 ヴィルはそう言うと、スーっと浮遊しながら研究棟の方へと消えていった。


 相変わらず【外来種】相手だと見境のないやつだ。

 殺る気スイッチが直ぐにONになる。


 −−グギャアアア


 しかも、モンスターの断末魔が聞こえる。既に始まったようだ。

 遅れて行って救助人を助けられないとか後手にまわる訳にいかない。


 戦場に急いで参加しよう。



「う”っ・・・・」


 研究棟に入るなり眼の前の光景と鼻に突き抜ける匂いに怯んでしまう。

 既に研究棟は地獄と化していたのだ。


 つい先程まで綺麗に装飾され整っていた建物は所々破壊され火を噴いていて、そこら中に研究員の死体が転がっており。モンスターがその死体を食い漁っていた。


 −−あぁぁ。嫌だ死にたくない。

 −−熱い熱いよーー。

 −−食われる俺が食われていく。


 死者の魂がこの世の未練を吐いていた。


「アクア。」


 手の中に水の矢が無数生成される。

 俺は生成された水の矢をランダムに放り投げた。


 −−ピュピュピュ・・・


「グアッ。」

「グオオ。」

「グゲェェ。」


 全て急所を捉える。

 被弾したモンスターは苦痛の叫びを挙げるがそれ以上は発しない。全て一撃で仕留めた。


 −−あぁー。痛みから解放される。

 −−あぁー。熱かった。

 −−死ぬのは怖いけどもう行かなっきゃね。


 −−ありがとう。


 研究員達の霊が消えた。


 ・・・クソッ。


 どうしてもっと早く助けられなかったのかと後悔した。

 もうこんな状況は終わらせたいと思いヴィルを意識を集中さて探すが、ここで死んだ無数の研究員の魂がいるのか音色から聞こえる音が混線していて分かりにくい。


 何かキッカケでもあれば分かりやすいのだが・・・


 −−ドゴオオオン


 爆発音が鳴り響く。どうやらヴィルは奥で戦っているようだ。

 俺もなるべく早く現場へと急行しよう。


 ケージから逃げたモンスターを駆逐しながら奥へと進む。

 残念ながら発見した研究員さん達は皆事切れていた。

 沈む気持ちを抑えつつ瓦礫を抜けて奥へ進んでいくと、ヴィルとだれか・・・がそこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。


「オラァ。」


 −−ズバッ。


「何で貴方がここに居るのです。」

「あっ、教えねえよ。てめえ等こそしつけえんだよ。モンスターみたいにワラワラ湧きやがって。」

「くっ、いつ戦っても野蛮ですね。」

「ぬかせ!!」


 −−カキン。


 ヴィルと戦っている【外来種】側と思しき相手は子供の様な容姿をしていた。


 あんな子供まで戦いに駆り出されるのか? しかも見た目通りそんなに強くないのだろうか? ヴィルの縦横無尽に飛び回り相手を翻弄していく戦い方に手を焼いているようだった。


「おい。イッセイ早く手を貸せ。」


 俺の存在に気付いたヴィルが叫ぶ。

 一気に畳み込みたいのだろうが、状況的に手を貸し辛い。

 今の状況何処からどう見てもコッチが悪役に見えるからだ。


「おい。何を躊躇してやがる。これが奴らの手口だって教えただろうが!!」


 と、ヴィルの言う通り相手の容姿で参入に躊躇していたらヴィルに何かが被弾した。


「やべぇ。情けねえ技を食らっちまった。」


 ピキピキと音を立て固まっていくヴィル。体から出ていた波動もスッカリ消え失せた。


「ふぅー。危ない危ない。貴方さえ眠っていてくれれば後は容易い。イッセイ君。もうこんな事止めようよ。僕達が争ってもなんの意味も無いよ。僕ももう引く予定だったしね。あっ。良かったら一緒に来ない?」


 無邪気であどけない顔を見せる【外来種】。握手するために手を差し出してきている。少年の様な容姿に一切の悪意を感じない。むしろ愛くるしい表情に戸惑ってしまう。

 これを狙ってやっているのだとしたら相当のワルだな。


「見た目に惑わされるな。コイツ等はそうやって相手を油断させて戦うのが得意だ。」


 ヴィルが続けて叫ぶ。


「僕は必要な資料を手に入れたら直ぐに手を引くつもりだったんですよ。そうしたら人族がモンスターを檻に入れて実験なんてしてるじゃないですか。僕はそんな状況が可哀想で許せなかったんですよ。そこに今度は貴方が出てきたからこんなに状況が悪くなっているのに。」


 小綺麗なセリフがやけに似合う。

 見た目が今の俺とそんなに変わらない容姿と言うのもあるのだろう。罪悪感が芽生える。


 申し訳ない気持ちになっていたが、ヴィル叫び声でハッと我に返った。

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