転校世界

新妻助丸

入学式

「えっ、バンドってギターとボーカルとドラムだけじゃないの?」


「うん、それとベースってのがある。見た目はギターと同じなんだけど、音が低い。ギターがソプラノでベースがアルトみたいなイメージ。」


「へぇ、やっぱ中学生からやってるだけあるなぁ。あ、あのアニメのEDとか弾けんの?」


「あぁそれね。弾けるよ。それベース超簡単だよ。」


「まじ?俺この曲好きなんだよね。じゃあさ、この曲とかは……



 桜の花びらが空気のちょっかいを受けながらも重力に純情に落ちていく。

ピンク色の紙吹雪を横目に廊下を二人は歩く。


「野球部、校庭で公開練習やってます!」

「美味しい抹茶はいかがですか!?地下の茶道室にぜひ!」

「演劇部伝統のアリス公演します、多目的まで!」


 様々な賑やかな声の中からミニライブやってます、という声が聞こえる方に歩いていく。


 この高校には今年、去年と比べてニクラス分少ない約四百二十名の生徒が入学した。そのため、学力が二番目に良いβコースのクラス数がたったの一クラスのみになってしまった。

 彼らもそんなβコースの三十二人中の二人である。




 その右側の男子、葉山和希はこの時はまだ知らなかった。


 ただついていくだけだったはずのミニライブで、待ってもらっている親を忘れるほどにベースにせられることも。


 隣にいる日野息吹が、今日この入学式が最初で最後の登校になることも。


 この後人の命が失くなることも。



 彼には二つ下の妹がいることも、首筋にほくろが隠れていることも、

 悲しい末路のことも全て全て知るよしもなかった。

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