第18話 成長

「……らぎさん! 如月さんしっかり!」


「……ん? な、直夜……君……?」


「どうしたんですか、こんなに血まみれで!?」


 数分前、直夜と澪は広場で血まみれで倒れている如月を見つけた。

 そしてすぐに状況を判断し、今は澪が回復魔法を使い血を止めようとしている。


「ご、ごめんね。迷惑、かけちゃって」


「そんなのは後でいいですから、動けそうなら移動しますよ。澪、あとどれくらいかかる?」


「血はもう少しで止まるけど、動かすのは危険。また傷口が開くと思う」


 澪が冷静にそう判断して言った。


「……移動しながら回復魔法は使えるか?」


「ええ。移動くらいの揺れなら問題ないわ」


「そうか。じゃあ自分が担いで移動しよう」


「直夜君!? そこまでしなくても——」


「怪我人は黙っていてください」


 如月の声を遮るようにして、直夜は言った。


「自分達の仕事は早く蒼真に情報を伝える事です。そのための最善を尽くさないと」


 直夜は笑いながらそう続けた。


「準備はいい? 行くわよ」


 3人の姿はすぐに夜の闇に紛れて見えなくなった。

 直夜の魔法で姿を隠したのだ。


(まさか、あんなに小さかった直夜君と澪ちゃんに助けられる日が来るなんて。成長したね)


 世話係として、幼い頃からずっと見てきた如月にとって、彼らの成長を見ることができたのは純粋に嬉しいことだった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「蒼真! 悪い、遅くなった」


 家へと帰ってきた3人は、地下室にいた蒼真に起こった事を報告しにきた。


「若。報告があります」


 真っ先に如月は蒼真に状況を報告しようと前へ出た。


「……如月……お前、その傷は……」


 澪の魔法により傷口は小さくなっているものの、まだ完全には治っていない。

 そんな彼の様子を見た蒼真は、心配するような表情を浮かべた。


「僕の事はいいですから」


「先に体を休めろ。報告は後でいい」


「……わかりました」


 如月は蒼真の優しさを感じていた。

 少ない会話でも、長い年月を過ごしてきたものならわかるのだろう。

 澪に連れられて、彼は与えられた部屋に入っていった。


「なぁ蒼真。お前どう思う?」


 ふと、直夜は尋ねていた。

 最近の出来事や、今日の如月の件についてなのは言うまでもない。


「さあな。それは如月の報告を聞いてから判断することになるだろうな」


 澪と如月が入った部屋を見ながら蒼真は答えた。


「もしお前が『鬼人化』するような事にならないといいけどな」


「そうだな」


 2人はこの先について少しばかり懸念していた。


「その時は、全力で隠し通すだけよ。それが私達『守護者』の役割でしょ」


 澪が部屋から出てきて言った。

 扉越しでも話が聞こえていたのか、長年の付き合いで何を話しているのか察したのか、そのどちらでもないのかはわからない。


「如月さんはもう大丈夫なのか?」


「大事には至らなかったし、もう私の魔法は必要なさそう。あとは自然に任せるだけよ」


「そうか、よかった」


 澪の言葉を聞いた2人は、安堵の笑みをこぼした。


「でも……」


 澪は冷静な表情を崩さない。

 それが彼女の特徴だ。


「如月さんは、後ろから刺されていたの。『月の忍び』の背後を取るなんて、並みの人間とは思えないわね」


「並みの人間じゃない、か。それならこっちには規格外の白鬼様がいらっしゃる」


 こんな時でも、直夜は変わらず軽口を叩いている。

 いや、こんな時だからこそ場を和ませようとしているのかもしれない。

 その真意は本人にしかわからない。


「どんな相手であれ、気は抜けない。そこでだ。ちょっと待っていてくれ」


 蒼真は、今までいた地下室の隅に置いてあった、少し緑がかった半透明のプレートを持って来た。


「何? それで殴るわけ?」


 直夜のボケは完全にスルーされた。当然である。

 蒼真が無言で、そのプレートの上に左手を置いた。

 すると、プレートが少し光って……


「お前、これ……」


「ああ。新しい補助装置だ。1から設定を組み直したから、前のより使いやすくはなってるはずだ」


 光が収まったプレートの上にあったのは、ペンダント型、リストバンド型、指輪型、チョーカー型の4つの補助装置だった。


「こんなのいつ作っていたの?」


「言ってくれたら手伝ってたのによ」


 早速直夜はリストバンド型の、澪はペンダント型の補助装置をつけていた。


「この前補助装置の調整をしていたら、改良できそうなところを見つけてな。だから、作り始めたのは結構最近だ」


「へぇー。そんな短期間でよくこんなのできるよな。このまま売れるくらいのクオリティだし」


「で、こっちのチョーカーは如月さん用ね。如月さんが来たのって今日の朝よね……。来る前から使ってたの?」


「いや、知らなかったから1日で終わらせた」


 魔法の技術だけでなく、機械にも強い蒼真に対していつもながらに言葉も出ない2人であった。


「……まぁ、蒼真が化け物なのはいつもの事として、この補助装置今から使ってみてもいいか?」


「もう日付も変わるわよ。明日にすればいいのに」


「明日は休みだからいいだろ」


「早く使いたい気持ちはわかるが、明日にしておけ」


「はいはい。我らが若がそう仰るのであればやめとかないといけませんな」


 直夜は完全にふざけている。


「でもさ、蒼真。明日するんだったら、1個だけ聞いてほしいことがある」


「何だ?」


「自分と澪対お前で、模擬戦してくれないか」


 彼の笑った顔の目の奥は、真剣だった。

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