第27話個人預金封鎖令
犯人がサンプル100名のうちに口座情報があると名指しされた郵便銀行。
兵庫県伊丹市、郵便銀行の大阪貯金事務センター。全国2万4千の郵便局のシステムを一手に引き受ける東西二つの巨大センターのひとつ。
西日本エリア全域の処理を担当している。
郵便局からの質問を受け付けるゴールセンタも併設している。ゴールセンタは今、オペレータ用の200卓が一杯に塞がり、交替要員も含めた約300人のオペレータは、個人客向けのサービスを全て停止して、出先機関である郵便局からの対応のみに集中していた、
郵便銀行が貯金システムを暗証番号4けたとキャッシュカードの組み合わせから、バイオ認証に切り替えを進めていたこともあり、影響が大きかった。
コールセンタのスーパバイザが幹部に説明する
「コールセンタですがパンク状態です。全て委託窓口である郵便会社出先の郵便局からのシステムに関する問い合わせです。コールセンタが問い合わせに対応し切れません」
幹部が怒りを込めて言う
「確かに委託窓口には地方に分散した教育対象者が2万人以上いて、全員がエキスパートでない事は分かるが、どうしてこんな初歩的なシステムの質問ばかりが来るんだ!場所を問わず、自分の局のPCで出来る、オンラインeラーニング教育システムを使った教育は受講率が98パーセントで完了したと報告を受けている。eラーニング教育システムは確認用の難易度の高いオンラインテストを100パーセント正解するまで繰り返し受けないと教育が完了しない仕組みだろう。なんでイチから説明が必要な人がこんなにいるんだ!なぜこんな状態なんだ!」
総務の教育担当幹部が話す。
「この状況を見て我々も疑問に思って、その点を調査したのです。オンラインテストはあらかじめ用意した150問から50問を個人別にランダムに出して回答させる仕組みです。そしておっしゃる通り、教育対象者はテストが全問正解となるまで、テストを受け続けないと教育が完了しない仕組みです」
昂奮が納まらない幹部が大声で言う
「それで、君たちは未受講者については厳しく対象者の上司をフォローしていたろう。君たちはこんな難易度の高い問題を全国2万人がほぼ全員クリアしたと打ち上げまでやっていたじやないか!」
悲痛な顔で、総務の教育担当が続ける
「それが、問題の難易度が高い事と、100パーセント正解するまで上司が厳しいフォローを行った結果、密かに150問全部の回答集が職員に出回っておりました。それを見て回答した者が多数いると思われます」
「馬鹿な、それはカンニングじゃないか!テストの監督は何をしていた!」
教育担当が言う
「基本的にセルフ方式のeラーニングは個人が空いた時間に自分のPCで行うので監視する人はおりません」
怒っていた幹部が唖然とする。
「その事が今やっとわかったというわけだ。君たちは」
ある地方の郵便局
民営化されたが、全国に二万近くある元特定郵便局の局長は地元に深く根をおろしている事もあり、メガバンクのようにシャッターを下して訪問者をシャットダウンするわけにもいかず、郵便局に隣接した自宅まで押しかけて来ては、自分では答えられない質問ばかりをしてくる顔見知り達の大事な預金に関する相談を受け続けなくてはならなかった。
中には謝礼の品を持って訪れ、自分と家族の分の預金だけはなんとか先に引き出させて欲しいと頼むものもいる。
犯人がサンプル100名のうちに口座情報があると名指しされた大江戸信用金庫。
ここにも大勢の預金者が窓口に詰めかけ、殺気立っていた。
預金残高1000億円。
やり手と評判の理事長が言う
「どうして、うちみたいな小さな信用金庫を狙い撃ちする。
メガバンクや郵便銀行ならともかく、うちの規模では社会的な影響だって少ないだろうに」
幹部が理事長に状況を説明する
「ここ数日間で特に上海支店の現地預金口座が狙われています。
うちのドル箱商品の外貨預金と現地ファンドを組み合わせたものですので運用益も日本円にせずに海外口座に置いて再投資するよう顧客に勧めていた商品です」
財務担当が言う
「理事長、発表の影響で預金の流出が止まりません。うちはもうダメかも知れません」
大江戸信用金庫の本店外で並んだ人の整理を行う信用金庫の顔見知りの社員に聞く人がいる
「言いたくないけど、お宅がまずい事になっても預金保険機構で個人の預金1000万円は保証されるのよね。
私が持っているのは、そんな1000万なんて持ってないから大丈夫よね?
私はお宅おすすめの上海支店に現地預金があるけと、国内の定期と合わせても全部で1000万円以内だから、預金保険機構が保証してくれるわよね?」
社員が不安そうな女性を見つめて言う
「奥さん、すみません。海外支店の口座は預金保険の対象になっていません」
金融機関の想像以上の混乱に、政府は翌日より3日間の預金封鎖を決定した。
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