鏡あわせ
カゲトモ
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かろん、とベルが鳴ってそちらへ顔を向けると、待っていたようなそれでいて待っていなかったような人物がそこにいた。
「いらっしゃいませ」
「どうしたの、なんか変な顔」
だからつい表情にも出てしまったらしい。変な顔は元々だけどな。
「あら、そんなことないわよ、マスターは上物でしょ?」
「嬉しい事を言って下さいますね」
そんな心にも思っていない事を。
「いいとこ中の上ってところよね」
順位が絶妙過ぎて喜んでいいのか怒っていいのか分からないぞ。こういうところ、ほんと蘭子さんって感じがする。
「こちらへどうぞ」
一番端の席へ案内すると蘭子さんは腰を下ろしてすぐにオーダーをした。それから俺がグラスをサーブするまで視線を合わせることなく黙っていた。他にもお客様がいたから黙っていたのかもしれないけれど、いつもの蘭子さんならもうちょい話していたと思う。
サーブした濃い琥珀色のブラックルシアンをひとくち口に含んで、蘭子さんは考えるような顔を見せた。でも分かる。彼女は考えているんじゃなくて
「・・・マスター、あのね」
「はい」
「その、この間の事・・・ごめん、なさい」
謝るのが下手なんだ。バリバリ仕事が出来るからきっとオンの時はそういうのも上手いんだろうけれど。
蘭子さんはこちらを窺うように上目づかいをしていた。今更良いよ、そんなの。
「お気になさらず。こちらのことは気にしないでください」
「でも、店内で大きな声を出してしまったし」
たまにそういうこともあるさ。
「マスターを困らせてしまったし」
まぁまぁ誰にも迷惑かけないで生きている人なんていないのだから。
「いいんですよ、私と蘭子さんの仲でしょう?」
なんてね。だから気にしないで。人の店で痴話げんかしたことなんて。っていうか、そんなことよりも、
「その後どうなりました? 浩太郎さんとは」
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