185 のはらを探して いつも、本当にどうもありがとう。

 のはらを探して


 いつも、本当にどうもありがとう。

 

 あなたはどこにいるの?


 ある日、木原のぞみは見知らぬ場所で目を覚ました。

 目を開けると、はっきりとした七色の虹のある綺麗な空があった。

 のぞみがずっと憧れていた美しい透き通るような雲ひとつない青色の空があった。

 のぞみは思わず、ここがどこかという些細な疑問は忘れて、すごく嬉しくなって、ずっと先まで広がっている緑色の草原の上で、不思議な世界を照らしている太陽の光を感じながら、一人でくるくると回って、その場で踊り出してしまった。

「きゃ!」

 のぞみは慣れないことをして、草原の上で転んでしまった。(でも不思議と全然、体はどこも痛くなかった)

 そのときになって初めて気がついたのだけど、のぞみは外にいるにもかかわらず『裸足』だった。(お気に入りのサンダルもお出かけ用の白い靴も、はいていなかったのだ)

 それからのぞみはなんだかすっごく、自分が今裸足でいることがおかしくなって、一人で草原の上にごろごろと寝っ転がりながら、口元を両手で押さえるようにして、くすくすと子供みたいに笑い始めてしまった。

 すっごく楽しかった。

 こんなに楽しい気持ちになったのは、本当に久しぶりのことだった。

「はぁー。気持ちいい」

 どこまでも続く海のような緑色の草原を波のように揺らしている、不思議な世界に吹く静かで優しい風を全身で感じながら、緑色の草原の上に大の字で寝そべって、にっこりと笑ってのぞみは言った。

 のぞみはまるで自分が小学校のころの小さな子供のころに、タイムスリップでもしたみたいに、いつの間にか戻ってしまったみたいだと思った。

 そう。ちょうど、のぞみの娘である十歳の女の子、『木原のはら』が今、そうであるように……。


 夏休みのはじまり


 あの、私と友達になってください。


 十歳の女の子、木登さなぎがその不思議な白く光る(まるで、蛍みたいな)季節外れの雪の塊のような妖精さんに出会ったのは、夏休みの虫取り遊びを家の近くにある森の中で、一人でしているときだった。

「こんにちは」と白く光るふわふわと空中に浮かんでいる、妖精さんは言った。

「こんにちは」とさなぎは、そんな不思議な妖精さんに答えた。

 妖精さんと友達になったさなぎは妖精さんを自分の家に連れて帰った。でも、さなぎが妖精さんと友達になったことを家族の誰も(お父さんも、お姉ちゃんも)信じてはくれなかった。(それがさなぎにはちょっとショックだった)

 でも、それも仕方のないことだった。なぜなら、妖精さんの姿は、どうやらさなぎにしか見えないようだったし、その声も聞こえないようだったからだ。

 そのことを妖精さんに伝えると「本来そういうものです。さなぎちゃんのように、私の姿が見えたり、私の声が聞こえるほうが珍しいのですよ」とにっこりと笑って、さなぎに言った。

 さなぎは妖精さんの言葉を聞いて、そうなんだ。そういうものなんだ、とその不思議な現象を妖精さんの言葉だけで、納得した。

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