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『……箱を閉めて。……そうすれば、あの人を倒すことができます』

 女の人がメテオラの心の中でそう言った。

「箱を、閉める?」メテオラは箱を見つめた。

 そのメテオラのつぶやきを聞いて、アスファロットは箱を見た。

 続けて、モリー先生も箱を見る。

 最高の魔法具、禁断の箱。

 アスファロット専用の魔法具として作られたアスファロットの最高傑作と言われるその魔法具は、今、メテオラたちのいる魔法学校十三階の封印の間の中にある台座の上に置いてあって、しかも箱はなぜか二つ、置いてあった。

 そのうち、左の箱は閉じていて、右の箱は開いている。

 ……あの開いている箱を閉じればいいのだろうか?

 そんなことを考えながら、メテオラの体はすでに開いている箱に向かって走り出していた。

 アスファロットはメテオラの行動を妨害しようとした。

 アスファロットの顔には怒りにも見える表情が浮かんでいる。それはつまり、メテオラの行動が正解だということの証明でもあった。

 大きくローブを広げて、体を大きくして、まるで黒い巨大な鳥のような格好になったアスファロットはそのまま床の上を滑空して、メテオラに襲いかかった。

 力の差は歴然だ。

 メテオラに勝ち目はない。

 でも、メテオラには、孤独なアスファロットとは違って仲間がいた。

 最初に倒れてたいスフィンクスが起き上がって、アスファロットに襲いかかった。その攻撃はすぐに払いのけられてしまったけど、今度はモリー先生がアスファロットに組みついた。

「メテオラくん! はこをとじて!!」

 モリー先生は状況を理解しているのか、そんなことをメテオラに言った。

 きっとメテオラにだけではなくて、モリー先生にも、メテオラの思いが届いていたのだろう。魔法樹は魔法使いを差別しないからだ。

 メテオラは走った。

 本当に全力で走った。 

 それは時間にすればほんの数秒ほどの出来事だった。

 でも、箱はとても遠いところにあるように、メテオラは感じていた。

 ……家に帰ったら、今日はぐっすりと眠って、明日から空を飛ぶ練習だけではなくて、外を走る訓練も追加しましょう……。

 メテオラの右手がそっと箱の蓋を閉じたとき、メテオラはそんなことを思っていた。

 

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