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 それから二人は本物の幽霊の話はとりあえずそこまでにして、偽物の幽霊が本物の幽霊のふりをしている理由について話し合った。そもそもなぜ偽物の幽霊は幽霊のふりをしているのだろう? と言う素朴な疑問だ。

「それはみんなを驚かせたいからじゃないかな?」

 ニコラスの意見は魔法使いなら十分にありえる理由だった。

「でも、もしなにか理由があるとしたらどうですか?」とメテオラが言う。

「理由? どういうこと?」とニコラスが質問する。

「たとえば……、なにか欲しいものがあって、それを手に入れたい。だけどそのことを表立って発言することができない。だから秘密裏に手に入れようと考えている。幽霊っていうのは、つまり『正体を隠すための変装』ってことですから、それだったら実力者の魔法使いが幽霊を演じている理由になると思うんです。どうでしょう? 偽物の幽霊さんは本物の幽霊騒ぎに便乗して、そのなにかを手に入れようとしているのではないでしょうか?」

 その考えをメテオラが思いついたのは、マシューが偽物の幽霊が、本物の幽霊と同様に魔法学校の最上階付近にあらわれる可能性があるという話をしたからだった。魔法学校の最上階付近には魔法の森の重要な宝がいくつも保管されている。

「うーん。なるほどね。それは確かにあるかもしれない」とニコラスはメテオラの言葉にうなずいた。

「でも、それっていったいなんだろう?」とニコラスが言う。

「それは、僕にもわかりませんけど幽霊の目撃情報は魔法学校の中に限られているし、こうして今日、僕たちが魔法学校の最上階付近で偽物の幽霊さんがあらわれるのを見張っているんですから、この最上階付近にあるなにかなんじゃないんですかね?」とメテオラは言う。

「……は! もしかして『魔法樹』じゃないかな?」とニコラスが驚いた表情で言う。

「メテオラくんどうしよう? 幽霊の目的が魔法樹だったら、大変なことになっちゃうよ!」

「大丈夫ですよ、ニコラスくん。幽霊の目的は魔法樹じゃないはずです」とメテオラがニコラスに言う。

「魔法樹じゃない? なんでそう言い切れるの?」とニコラスが言う。

「だって、もしそうならマシューくんが自分の研究室に見張りを配置しないはずがありません。それにいくら実力者の魔法使いさんだって、魔法樹を盗み出すことは、おそらく不可能だと思いますし、また盗む意味があるとも思えません」

「そっか、そうだね。よかった」ニコラスがほっと安堵のため息をついた。

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