14-6 VSコピーロボット軍団
「いや……本物どーれだって言われても……」
飛び来た刃物シャワーを鉄パイプで薙ぎ払いつつ、俺は完全に呆れた目をモニター前に佇む黒い悪魔に向ける。
「明らかにお前だろ。移動してないし。つか、見た目コピーしてねぇじゃん。別人じゃん」
続いてビームの雨を高く跳んでかわし、ついでに真上にいた一体に蹴りを叩きこんだ。それはひしゃげて吹っ飛び、天井にぶち当たると同時に爆発。破片と熱をまき散らす。
――戦いはすぐに始まった。
ロボットたちは一斉にバズーカっぽいものから刃物、もしくはビームを放ち、俺は鉄パイプで応戦。
矢鏡はひたすら氷の壁を作って防御。
ノエルはタガナを抱えて壁際まで下がり、さっきと同じで自分に向かってくる攻撃のみ異空間へ飛ばしまくる。
そして銀髪さんはというと、気付いたらフィルごといなくなっていた。左から矢鏡、俺、ノエルでその奥にいたはずなんだけどな。いつ移動したのかマジでわかんねぇ。どこにいったのか気になるが――まぁ、今はとりあえずほっとく。銀髪さんは強いみたいだけど、こんな刃物とビームが飛び交う中じゃフィルが危ないからな。ここにはいない方がいい。
因みに悪魔は魔法を一切使ってこない。どうやらロボットたちを操りながらじゃ、魔法まで手が回らないらしい。それなら魔法使ってた方がいいんじゃないか、と思ったのだが、それはノエルが完璧に防いでいたからムダだと悟って、手数の多い方にしたんだろう、とのこと。以上、矢鏡の解説でした。
俺は着地と同時に駆けだして、刃物とビームとロボットたちの間をすり抜け、一気に黒い悪魔に迫った。
黒い悪魔は俺を前にしてわたわた狼狽えたが、反撃してくる素振りはなし。不思議に思ったがチャンスだったので、そのまま袈裟斬りを食らわせた。
すると。
「華月華月……それはただの動くカメラ……悪魔じゃないよ……」
背後からのんびりノエルの声。
「えっ」
驚きつつ、くずおれた黒い悪魔を見下ろせば、黒い布の間から見えるのはごてごてした金属のみ。切り口からはバチバチと火花が散っている。
「さすが阿呆と名高い月よな」
「デコイに引っかかってくれるとは」
「かわいいことだ」
あざける言葉を順に発しながら、遠くからビームを撃ちまくってくるロボたち。むかっ。
「うるせー! バカにすんな! つか『でこい』って何!?」
ひょいひょいとビームをかわし、叫び返す。
続いて視界の端でタガナの姿が掻き消えた。恐らく、戦えないのにこんなところにいても危ないから、と召喚でどこかに送ったのだろう。外か、あるいは元いた世界か。
「おとりのことだよ。
――ところで華月。なんでそんなもので戦っているんだ? 刀は?」
盾としての役割を終えた氷塊が刃物ともども床に散らばるその中心で、淡々と尋ねてくる矢鏡に、俺は困った顔を作ってみせ、
「あー……刀なら……見つけたよ……」
答える前にノエルが言った。
「マジで! よくやったノエル!」
親指立ててグッジョブサインを送り、諦めていただけにすっげー喜んだ――が、それもつかの間。
「でも……」
困り顔で言いづらそうにしているノエルに、俺の中の何かがその先を聞くのを嫌がった。
次の瞬間、ノエルの手の内に現れたモノを見て、俺の思考は完全に止まった。
現代日本では絶対に持つことのない本物の刀。
手入れの仕方わからんから最初は困ったけど、その必要はないと言われた便利な刀。
俺の強大な力でも扱える頑丈な刀。
シンから貰った大事な大事な刀は、鞘ごと三等分にされていた。
『げっ!?』
焦ったような声をあげ、攻撃の手すら止めて、ロボットたちが一斉にこちらに振り向く。
俺の口角が自然と上がる。
「華月、ま――」
遠くで矢鏡が言葉を発するより早く、俺は動いていた。
手加減抜きの全速力で、宙に浮いている手近な五体を殴り飛ばす。それらは反応も出来ずに吹っ飛び、ついでに近くにいた別のやつをも巻き込んで、壁やら床やら天井やらに激突。爆発炎上し、無残な鉄くずへと成り下がる。
「どこだ本体っ! 宣言通りぶん殴ってやるっ!」
残りのロボットたちを見回しながら、眉を吊り上げ俺は叫んだ。
ロボットたちは慌てて俺だけに標的を絞り、武器を構える。
出てくるつもりはないわけだ。
なら、やることはただ一つ!
「お前かっ!?」
気合一閃、てきとーに選んだ一体(左端の天井付近にいたやつ)に鉄パイプを振り下ろす!
そいつは声も上げずに真下に吹っ飛び、凄まじい勢いで床にぶち当たり、クレーターを作りながら仰向け姿勢でめり込んだ。ただ、他のやつらと違って爆発四散はしなかった。
俺はその横にスタっと降り立ち、背後でガッシャンガッシャン重い何かが落ちる音が鳴りまくる。
肩越しに確認すると、なんと驚き。ロボットたちは一つ残らず地に転がっている。さらに俺の周りにだけ大量の黒槍も転がっている。咄嗟に反撃しようとしていたらしい。
「……っ……な……なぜ…………わかった……?」
足元のロボットがよろよろと顔を動かし、掠れた声で聞いてくる。
どうやら一発で本体を当てられたようだ。さすが俺。
俺はふんっと鼻を鳴らし、
「勘に決まってるだろ」
当たり前なことを聞くなと思いながら返した。
背後から矢鏡が駆け寄ってくる音がする。
ロボット――いや、悪魔はクレーターの中で身じろぎしたが、ダメージが大きく起き上がれないようで、結局倒れたまま目の光点だけを動かしつつ悔しげに歯噛みし、
「ぐ…………最大限……防御を上げても……これか……
や、やはり……月は無理だった…………だが……ただでは死なんぞ……」
言い終えると同時に、ブァーン、ブァーン、となぞのでかい音が響き渡る。
「何をする気だ!?」
ただで倒れろ、俺の刀壊しやがって、などと文句をつけたいところだが、ここはひとまず呑み込み、とりあえずなぞの音のことを聞くが――
「ふふ…………ガ……ナス……殿…………託し……ます……」
悪魔は質問に答えず、謎の言葉を残して動かなくなった。目の光がすっと消える。
「あー……力尽きたみたいだね……」
遠くでノエルが呟いた。
「倒すのは待って欲しかったんだが……間に合わなかったな」
俺の横で足を止め、杖を消して、びっみょーに困った顔をする矢鏡。
「え、なんで?」
「この要塞はこの悪魔の魔力で動いてるから、それが途絶えたら……」
あとは言わなくてもわかるだろ、とでも言いたげな目で見てくる。
俺はハッとして、
「そうか! ボスを倒したら基地は爆発するってのがセオリーだったな!」
「いや、自爆するかはわからないけど……落ちるのは間違いない。落ちた先に人里が無ければいいんだが……」
「大丈夫だよー……この辺りは海だから……」
心配する矢鏡にフォローを入れるノエル。
「そうか。ならいい」
「よくねーよ。いや、被害が出ないのは良いことだけど、俺たちも脱出しなきゃだろ?」
腕を組み、安堵する矢鏡にツッコミを入れた。
――その時だった。
『魔力供給が絶たれました。主は絶命したものと判断します。
よって、設定された処理システムを起動。ただちに高速回転、後に各所起爆します』
機械声でアナウンスが流れた。
『……回転?』
顔を見合わせた俺と矢鏡の声がハモった。
**
水平線の向こうから朝日が昇る。
「怪力バカが戻ってきた時から、諦めてはいたけど――」
要塞よりなお高い上空で、不自然に浮かんだ水たまりの上にセンリは立っていた。
銀髪と赤いコート、背負われたフィルの茶髪が上空特有の強風に煽られる。
「やっぱりすぐに倒されたか……」
眼下では巨大な要塞が、かなりの質量があるにも関わらず、轟音と突風を生みながら、まるでタービンの如く凄まじい速さで横回転していた。
センリは深いため息を吐き、
「あんたの体じゃ、あんなの耐えられないだろ。
欲を捨ててまで気を使ってあげた分、報酬上乗せしておくよ」
一方的に身勝手なことを呟いて、徐々に強まる日の光に目を細める。
「それにしても……思っていたよりすごいな。
普通の人間なら圧に耐えられずにあの世行きだろうなぁ、あれ」
一度目を閉じて、ゆっくり開きながら少しずつ高度を落としていく要塞を眺める。
それから、ふふっ、と爽やかに笑い、
「ざまぁみろ」
中で苦しんでいるはずの仲間たちに向かって言った。
途端。
『――見つけました!』
頭に直接届く女性の声。
センリは驚くことなく視線を彷徨わせ、右側かなり奥の方、要塞の下から飛び上がってきた本来の姿のタガナを確認した。
タガナは回転する要塞に巻き込まれないよう、十分な距離を取ってまっすぐ向かってくる。ばさりと大きく羽ばたき、センリの傍で留まった。
『またしてもマスターたちを置いて、ひとりだけ脱出したのですか!?』
怒りの声を上げるタガナに、センリはにっこり笑顔と優しい口調で、
「後ろのこいつは助けてあげてるだろ。
あと、要塞がああなってるのは、怪力バカが考えなしに悪魔を倒したせいだから。自業自得ってやつだよ。
――まぁ、自爆する前に自動で方向転換を一万回繰り返すのと、その速度を千倍にしたのは俺だけど」
『あなたが悪いじゃないですかっ!』
「俺の獲物を取るからだよ。むしろ、この程度の嫌がらせで水に流してあげるって言ってるんだから、感謝してほしいくらいだね」
『あなたはいつもそんな嫌なことを言って……! 本当にひどい人ですね!
少しはマスターを見習ったらどうですか!?』
「あんな睡眠大好きクソメガネ野郎から学ぶことなんて一つもないよ。
そんなことより
『そのようなあだ名で呼ばないでください、と何度注意すればやめてくれるのですか?
わたくしには〝タガナ〟という立派な名前があるのですけれど』
「良い時に来たな、
タガナの抗議を当然のように無視して、笑顔のまま話を続けるセンリ。
「俺の読みに間違いが無いなら、そろそろ要塞が真っ二つになる。そうなればこの位置でも危なそうだし、水を使って降りるのも面倒だから乗せろ」
ひょいっと、許可も待たずにその背に飛び乗る。
「とりあえず離れながら降下しなよ。あ、全速力でね」
むぅぅ、と悔しげに唸り、それでもタガナは素直に従った。
『何度も言いますが、マスターの指示でなければ、あなたのような方に従うなんて絶対にしませんからね!? マスターに感謝するんですよ!?』
「うん、絶対にしない」
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