4-6 目的地まであと少し!
ナレミアの町に着いたのは、それから五日後の正午だった。
道中ではいろいろと話をし――
そしてなんと、長年の謎(俺にとって)が明らかになった。拍手。
知っての通り、俺は青い目に空色の髪という、どー見ても日本人離れした外見をしている。
今までは『これが突然変異か』と思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。魂の仕組みと浄化のせい、だってさ。
シン曰く、魂ってのは"情報"、"記憶"、 "精神"の三つでできているそうだ。情報ってのは外見とか根本的な性格の源で、記憶はそのまま、精神は人格(心)のことだって。
で、前にセロの話をしてもらった時にちょっとだけ言ってたけど、浄化ってのはその三つを魂の底に封じ込めてまっさらな状態にすることで、たとえば情報が残っていたりすると、見た目や性格が前世から引き継がれ、俺のようになるらしい。
どおりで矢鏡とかシュバなんとか変態が『エルナそっくり』って言うわけだ。前世そのままなんだから。性別は違うけど。
因みに、記憶は精神の中にあるらしく、記憶だけを封じて情報と精神は残す――ということはできないらしい。逆に、記憶だけを継がせることはできるみたいだが、その場合『前世の一生』という超大作映画を一気に見るような感じになるんだって。但し、そのムービーを見るためには前世の許可がいるらしいが。ここでまさかの著作権。
今度は矢鏡曰く、エルナはいつの間にか転生していたから浄化を受けていないそうで、だから情報が残っているんだってさ。それなのに何故か記憶と精神はちゃんと封じられていて、華月京という人格(俺)が生まれたのはそのためだって。
で、その"何故か"を何故かリンさんだけが知っているらしい。『何故か』ばっかだな……
――まぁとにかく。
シンがリンさんに言ってた『エルナのこと』ってのは、そのへんの話だったわけだ。
……え? 何? よくわからない?
大丈夫だ。俺もわからん。
とりあえず、前世だからエルナと似てるわけじゃないってことはわかった。
あ、あと別の話だけど、矢鏡にはお姉さんがいることも知った。今はアメリカにいるって。
……え? どうでもいい?
まぁ、そうだな。俺は一人っ子だから、少しだけ兄弟に憧れるけど……ぶっちゃけ関係ないわな。
――さて。
この世界に来てから二つ目の町、ナレミアだが――町というより村だった。アロイスのおやっさんがいた町より規模が小さい。だいたい半分くらいかな。
山の麓にあり、背の高い針葉樹の森に囲まれているからか、家は全部木造で屋根には瓦を使っている。でも見た目は四角だし窓も簡素だし、日本家屋とはほど遠い。それがおよそ二、三十軒。入り口を表すアーチ状の門(といっても、ただ板を曲げただけのもの)から見て、村を横断するようにまっすぐ一本道があり、その左右に乱雑に家が配置されている。超てきとー。
見た感じ宿は無いし、店っぽい建物も見当たらない。
とりあえず昼飯食べたい……のだが、実は今、それどころじゃない。
「何者だ!?」
「怪しい奴らめ!?」
「あの化け物の仲間じゃねぇだろうな!?」
――などなど。
俺達を取り囲む村の衆(大勢。多分五十人くらい)が口々に言っている。
おっちゃんもおばちゃんも、若いねーちゃんまでもが手に鉈やら棍棒やら農具やら剣やらを掲げ、全員が恐い形相で睨んできていた。どーしてこーなった。
村に入って、すぐ近くでたき火してたじーさんと目が合い、次の瞬間『敵じゃああっ!』とじーさんが叫んだ一分後には村人ぞろぞろ。逃げ場無し。
わけもわからず呆然としてたら、いつの間にか村の牢屋に連れてかれていた。
がしゃんっと鉄製の柵が上から降りてきて、俺達四人は狭い部屋に閉じ込められる。鉄柵の一本一本は、俺の腕がぎりぎり通るくらいの隙間しかなかった。窓すら無いけど、すっげー明るいロウソクが外側にあるから問題なし。
つーか、なんで村長――じゃない、町長の家の地下にこんな牢屋があんのかな?
因みに今は、町長達が俺達の処分方法について検討中らしい。
さっき見張りっぽいおっさんが柵を下ろす時にそう言ってた。おっさんはすぐに柵の向こうにあるドアから出てったから、見張りじゃないのかもしれないが。
「――で、どうすんの? 大人しく捕まったけど」
くるりと振り向き、後ろの三人に聞く。
村……じゃない、町人に――いや、村人でいいや――囲まれる寸前、フィルに耳打ちされたのだ。大人しくしてて、と。
多分、術師だとばれたわけじゃないから、とりあえず様子見で……ってことだと思うけど。
「というかさ、いきなり旅人捕まえるってなんなの? ひどくない?」
「被害があった場所だとね、不安とか恐怖心が強くなるから、こんなふうに外から来た人を警戒することが多いんだよ」
不満げに言う俺に、微笑を浮かべてシンが答えた。
あー……シン達が冷静なのは慣れてるからか。
俺は、ふーん、とどうでもいいような相槌をして、
「で、どうすんの?」
手枷はされてないので左手を腰に当て、もう一度訪ねた。
「もちろん脱走するさ」
こともなげに言ったのは矢鏡。
シンがふふっと爽やかに笑う。
「じゃ、ちょっと見てくるね。なるべく静かに行きたいし」
「え。見てくるって……俺達閉じ込められ――」
「私には関係ないよ」
ツッコム俺の言葉を遮り、シンは不敵な笑みを浮かべた。
鉄柵に向かって歩き――そのままするりと通り抜けました。
そういえば、シンは霊体だったなぁー……
霊体だと、物質に触れるかどうかは自由に決められるんだって。つまり壁を抜けようが、ドアを押し開けようが、本人の気分しだいってことだ。
音を立てないためか、シンはドアも擦り抜けて行き――
しばらく経って、戻ってくる。
「どうだった?」
フィルが聞いて、シンが答える。
「んー……普通に歩いては出られないかな。一階に人が集まってるから、地下から出た途端に見つかるね」
地下へ通じる階段は、玄関入って右横にある。
ここに案内(笑)された時に見たが、一階部分は大部屋になっていて、柱が数本立っているだけ。部屋の仕切りはなんもなし。二階へ上がる階段が奥の方に見えていた。風呂とかトイレとか台所がなかった。どうやって生活してるんだろうな……二階にいろいろあんのかな?
そんな視界の広いとこじゃ、普通の人間には無理だろうな。絶対に見つかる。
――が、あいにくこっちは普通じゃない。
見つからずに出て行く方法はすぐに思いついた。
俺達には肉体強化……つまり、高速移動があるからな!
俺と矢鏡とフィルは顔を合わせて小さく頷き、
「でも鉄柵は開けられないよ」
シンの冷静な一言で、ハッと気付く俺達三人。
「って、なんでフィルたちも驚いてんの?」
「え、いや…………僕、天界暮らしが長かったから……つい……」
ツッコム俺に、フィルが視線を逸らして言う。
矢鏡はその隣でこくこく頷いてた。
俺は小さく息を吐き、鉄柵を見やる。
開閉は外側の横の壁にあるスイッチでできるのだが、なにしろ動作音がうるさい。救急車とかのサイレンを目の前で聞くレベル。
つまり、誰も見てないからって柵を開けてもらうと、一階にいるであろうみなさんに『今檻が開きまぁぁぁす!』と絶叫して知らせることになるのだ。
では、どうやって脱走したかと言うと――
普通に檻を(俺が)斬り開け、がらがらがっしゃんだのと音を立て、肉体強化無しで全力疾走。一階で驚くみなさんの傍を通り、外に出てすぐにこの家の屋根に飛び乗った。さすがにここでは肉体強化を使った。
下に集まる村人たちを見下ろし、
「檻壊しちゃったけどごめんなー! でも俺達やることあるんだー!」
と、一方的に叫び、高速移動で即効村から出て行った。
――結局、派手な脱走になったな。大人しく捕まる必要なかったんじゃね?
あ。ついでに言っておくけど、高速移動――というより、肉体強化だな――は結構扱いが難しいんだぜ。
足とかに届かせる通力の量を間違えると跳びすぎたり、普通の速度になったりするからな。あと、入り組みまくってる細い道とかだと多分使えない。
なぜならこの肉体強化、数秒くらいならオーケーだが、それ以上長くはもたないんだ。だからどうしても続けて使いたい場合、一度術を解き、また使う――という形になる。しかも、それを繰り返してると精神疲労がやばくて、体力的にもめっちゃ疲れるんだよ。
つっても、俺みたいに通力量がある奴や、使い方が上手い奴なら数時間でも維持できるらしいが。
まださー、通力の扱い慣れてないからさー……今はそこまで出来ないな。数分が限界。分配やら何やらで頭がこんがらがる……ってのも、理由の一つだと思う。
多分さ、高速移動と聞いたときに、
『なんで高速移動で湖まで行かないんだろう?』
って疑問に思うよな。
俺も最初そう思った。自分が使うまでは。
慣れればいいんだろうけど……慣れるまでが長そうだ……
――ま、そういうわけで、地道に歩いて向かっていたのさ。
だから村を出てからは術を解き、そこからはふつーに走って逃げた。もちろん湖がある方に向かって。
因みに、シンはそんなに通力ないし、子供だから足遅いしで矢鏡が抱えて移動してた。それも小脇で。
せめて抱っことかにしてやれよ……
と思うが、シンは全く気にしてないみたいだから、まぁいいや。
俺達は結界の外まで出て、そこでようやく足を止めた。
「派手になっちゃったねぇ……」
息一つ乱さず、爽やかに笑うフィル。
というより、誰も息が荒くなってないし、汗ひとつかいていない。
矢鏡はシンを降ろしつつ、
「まぁ、仕方ないさ。もう立ち寄ることはないだろうし、問題ないだろ」
「……僕は少しあるよ。この任務が終わったら、また通らないといけないし」
フィルがにっこり笑ってそう言って、矢鏡はじっと見返し、しばし考え、
「……がんばれ」
「君、たまにいい加減になるよね」
呆れたようにフィルが言った。
「そんなことより、腹減った」
ここで口を挟む俺。空腹でびっみょーに頭がまわってないからかな……なぜか無駄にかっこつけてしまった。
「じゃ、とりあえず休憩しようか」
シンがにっこり笑って言った。いつ見てもかわいい笑顔。
そして俺がパチンッとフィンガースナップ。指定した場所にぽんっと現れる見慣れた家。
ふっふっふ……どうだ驚いたか。
実は一昨日、シンに教わったんだ。肉体強化が出来るなら、もしかしたらこれも出来るかも……ということで、試してみたら案の定。すごいぞ俺!
だから、それ以降の家の召喚は俺がやってるんだ。
術のレパートリーが増えたからめっちゃ嬉しい。ワンダホー♪
因みに指ぱっちんには深い意味はない。ただ、位置情報とか時間のタイミングとかを合わせるのにやりやすいだけ。
――って、それはともかく。
湖まではあと一日くらいかかるらしい。
なので、昼食終えて出発し、道が無いから木々の間を抜けて行って、太陽が沈む頃に再び家を召喚した。
背の高い木々に囲まれているからか、目的の湖は全然見えてこないが……
でも、すぐそこなんだよな。初任務の決戦は。
長かったような、短かったような……
ちょっと複雑。シュバなんとか変態はさっさと倒したいが……この任務が終わったら、シンと旅は出来なくなる。地球に戻ったら、フィルとも別れることになるだろう。いつかは会えるかもしれないが――
「長いなぁ……」
死ぬまで会えないことを考えて、俺はベッドの上に寝転んだ。
目を閉じて、すぐに意識が無くなった。
**
「久しぶり」
彼女は笑った。
俺は少し驚いて、すぐにほっと胸を撫で下ろす。
「……もう会えないのかと思った。六日ぶりだな、エルナ」
精神世界に来たのは、これで二回目。
どうやら、ここにはいつでも来られるわけではないらしい。
「さぁ?」
そのわけを尋ねれば、彼女は首を傾げてふふっと笑う。
俺は一歩近づいて、
「――そういえば、エルナのことは言わないことにしたよ。すぐに教えたらつまんないからな」
「そう」
「あ、あとさ、リンさんに会ったんだ。エルナも知ってる?」
「あら、リンに会ったの? もちろん知ってるわよ。大好きな友人だもの」
「えっ! 友人なの!?」
「リンはそう思ってないけどね。
――かっこいいでしょ、リン」
「すっげーかっこよかった! だってさ――」
リンさん談義で盛り上がり、その後は前回と同じく、エルナから通力の使い方と剣術を教わった。
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