第13話 ツンデレはこべと田中

はこべさんとようやく誤解が解けた権蔵。

「別に愛長様の為に寺子屋を建てたわけじゃないですから! 愛長様の名前を残したいとかではないですからね」

はこべさんはツンツンデレデレしている。

ツンデレか……。そう言えば光さんも若干ツンデレな気がする。


「お時間になりました! 」

霊媒師がそう言って杖を振るとまたはこべ光さんが意識を失った。


「はこべぇぇぇええええ」

はこべ光さんさんは倒れこんだ。権蔵は光さんを見ながら叫んだ。


「ハッ。はこべさんとお話し出来た? 」

光さんが目が覚ましたようだ。


「ああ。まだ全然話し足りぬが……。」

権蔵はうつむいている。


「これ以上の時間は無理です。そして体に負荷がかかるので回数も制限されています」

霊媒師さんは機械的に言った。


「わしが守護霊でいる限りはこべと一緒には、いれんのじゃな」

権蔵は涙ぐんでいる。


「一緒にいる方法がございますよ」

霊媒師さんがあっさりと言う。


「なんだって? 」

僕はその言葉に驚く。


「小豆沢様の魂からはこべ様の魂だけを切りとることができます。しかし、その後どうなるか……やったことがございません」


「どうやって切り取るんですか!? 」

僕は前のめりになって尋ねた。


「それは……本を見ないとわからないのですが……本がどこにあるのか分かりません」


「そんなあ~! 」

僕は権蔵とはこべさんを会わせたい。


「なんという本ですか?」

光さんが霊媒師さんに言った。


「『魂の分離術』です」

霊媒師さんが紙に本の名前を書く。


「はこべと話せるのはあと何回じゃ? 」

権蔵は真剣な眼差しをしている。

僕が霊媒師さんに権蔵の代わりに質問した。


「おそらくあと3回が限度でしょう……」


「あと3回か……やはり分離させるのがいいですね」

ようし本探すか……


「とりあえず……光さんゆっくり休んで下さい」

体に負荷がかかっただろうから。

僕だけでまあなんかなるだろう!!!!


とりあえず権蔵とはこべさんの会話は霊媒師さんに説明したらめっちゃ興味津々で聞いていた。


しかし、本棚は50個ある……

そう途方に暮れていると……電話が鳴った。

電話 田中

『もしもし。俺田中だけど覚えている? 』

電話 橘

『どちらの田中さんですか? 』

電話 田中

『吹奏楽部の田中だよ』


ああ、蔵子さんのことが好きだった田中かあ。

確か候補の10人のうちに入ってたな。

向こうから連絡が来るなんて願ったり叶ったりだな。


「今日そっちに帰るんだけど会えないか? 」

田中が早口で言った。帰ってきてすぐ会うほど、僕と田中ってそんなに仲が良かったか?

まあ、会えるならこちらとしては手間が省けるが……


「そういえば僕の連絡先教えたことあったか?」

田中とは普通に話すだけで連絡先とかは教えてなかった気がする。


「ああ、葛城くずきくんに訊いたよ」

まあこっちも田中の連絡先聞いたしな。


「OK」


僕達は10個ぐらいの本棚を探したけど見つからなかった。もう夕方だ。田中との約束の時間が迫っている。


「橘さん! 私が何回か通って探しておいて後日連絡します!」

光さんが本棚を探しながら僕に言った。


「分かりました! 力にも手伝わせます」


「お二人共申し訳ございません」

霊媒師さんが謝る。


僕達が帰ろうとすると、霊媒師さんが名刺を渡す。

「面白いお話を聞けました!またいらしてください」

名刺を見ると『天心祭てんしんさい マリア』と書いてあった。

僕は慌てて田中の指定したお店に向かった。


~とある飲み屋~

僕は時間ギリギリに到着した。

「よお! 久しぶりだな! 」


田中は高校時代の時は地味で真面目な男子だった。

しかし、今は金のネックレスをして茶髪でダボダボのロックなおしゃれな服を着ていた。


「ああ……。久しぶり」

僕は田中との距離を若干感じた

違う世界の住民のようだ。


「橘! 全然変わらないなあ。」

田中が笑いながら言った。


田中はもっと静かでネガティブな感じだったが性格が明るくなった気がする。

田中とは世間話とKPOPの話で盛り上がった。

なんか田中は高校時代より話がうまくなったような気がする。


えにしとは会ったか?」


「忙しくて会えなかったよ。こないだ彼女や友達とBBQパーティしてさ…その時の写真」

田中はスマホでBBQの写真を見せてくれた。


田中……おまえ完全にリア充だな……

やっぱり僕とは別世界の人間か。


「あとセミナー行ってんだよ! 将来のためにな! 」

すごいな。今流行りの意識高い系か?


「橘! 最近どうよ? 仕事の方は」

田中が僕を見ながら質問した。


「相変わらず平社員の安月給だよ」

僕はため息をつきながら言った。


「そうだろ? 今のままだと満足しないだろ? 橘……一緒に仕事しないか? 」

田中が意味深なことを言ってきた。


「え? どんな? 」

まあ、僕は事故の慰謝料のお金がまだ余ってるし、力が実家から野菜やら米やら持ってくるから、苦労してないんだがな。


「俺の師匠。すごい稼いでるんだ! 超面白い人だしすごいから橘にも紹介したくてな! 」

田中は僕の返事を待たずにどこかに電話をかけている。


「今から来るって」

田中が電話を切った。


え? 今から全く知らない人来るの?


早く本題を切り出して帰ろう。

「なあ。蔵子さんが高校時代に脅されてたらしいんだが心当たりないか? 蔵子さんのことはどう思っていたか……? 」


「一緒に仕事してくれたら、話すよ」

こ、こいつは人の弱みに付け込んで……!


そうこうしてるうちに40代の男性がやってきた。

「初めまして! 」


40代男性はフランクで話しやすそうだった。

僕はパンフを渡され、40代男性はノートにいろいろ理屈をこね書いていた。


40代男性の話を1時間ぐらい聞かされた。


40代男性の話をまとめると、要するにネズミ講かマルチ商法ってわけだ。


しかし、困ったな……田中に話を聞きたいがマルチ商法はやりたくない……。


今回蔵子さんの話を聞いたら田中は着信拒否にしておこう……。


「権蔵。なんとかしろよ……」


「わかった。洗脳を取ってみよう」

権蔵が田中と40代の男の頭の上に手を乗せる。

「ふんぬ! 」


緑の光が田中と40代男の頭の中に入る。

「「ハッ」」


「僕は災害が発生した地域にボランティアに行かないと行けないので失礼します」

40代の男性が足早にどこかへ行った。


「それで震災の復興の手伝いなんだが。一緒に行かないか?」

田中が今度は全く違うことを言い始めた。


「今度時間があったらな。蔵子さんの話をしてくれるか?」

どうやら権蔵の力で頭の中の『マルチ商法』の部分が『ボランティア』に書き換えられたようだ。


「ああ、僕は何も知らないよ」

なんだとこんなに苦労したのに何も知らないだと!?


「蔵子さんのことはどう思っていたか……? 」

僕はため息をついた。


「優しいし綺麗だったし、すごく好きだった! 初恋の人だよ」

田中はニコニコとしているが……うーん。あんまり参考にならないな。


「会社の名簿から2人の名前も消しておいたぞ……。こやつだけは犯人ではないと思うのじゃ」

僕もそう思う。

今度はマルチ商法にひっかかるなよ! 田中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る